おじさんと収穫期 二
冒険者ギルドから「春の風」に斡旋された、収穫期から冬季の間買い取り価格が割り増しされた狩猟依頼も三回目が終わり、帰宅した夕食後にセイランさんが難しい顔をしている。
「初回は二泊、あとの二回は日帰り……か。わかっちゃいたが実際やってみると討伐と狩猟はやっぱり勝手が違うね」
「今までは狩猟と言っても、討伐のついでに狩った獲物を売るだけでしたからねぇ」
「稼ぎも増えたッスけど、こうも行ったり来たりが頻繁に続くと、変に疲れそうッスね」
「エナの言う通りね。セイラン、休養期間を含めて活動内容を見直した方がいいと思うわ」
そう、西の森に滞在する時間が今までと比べて圧倒的に少なくなっているのだ。
今までの討伐依頼では、私のリュックに討伐証明部位がある程度貯まるまで西の森に二泊か三泊は滞在。その途中か帰りに丸ごと持ち帰れる獲物を狩り、帰還して冒険者ギルドで精算、滞在していた日数と同じ日数を休養に当てていた。
しかし収穫期にギルドから斡旋された依頼は、名目上は討伐依頼となっているが主目的は食肉の卸しである狩猟だ。
初回は今までと同じように、討伐証明部位を集めてから狩猟して精算した。今までと変わらず討伐報酬は出るが、狩猟物の買い取り価格に私達の予想よりも良い値が付き、日数をかけて討伐証明部位を集める意味がほとんどなくなってしまった。
そのため二回目と三回目は討伐数は気にせず狩猟を主目的に方針を変更したのだが、この時期は魔物も動物も越冬のために活動が活発になっているのか、探せばすぐに狩猟出来る。出来てしまう。
この地域の魔物や動物の特色なのか、この世界全体でのことなのかはわからないが、以前遭遇した槍鹿や角ウサギのように食肉に向くのに殺意全開で襲いかかって来る草食もいるので、逃げる獲物を何日もかけて狩ることにはならず簡単に狩れてしまうのだ。……こいつらよく絶滅しないな。
二回目は日が暮れる前に帰還、三回目に至っては森に到着後すぐに四匹からなる槍鹿の群を発見して、向かってくる四匹を丸々狩り昼前には帰還した。
よく肥えた槍鹿四匹は相応の重量があり、毎回作っている天秤棒が折れそうな軋みを上げるので慎重に運ぶ必要もあったため、狩猟に当てる時間よりアンゴンと森の往復に当てる移動時間の方が大幅に長くなる始末である。
活動日数と同じ休養期間を取る方針の今の「春の風」のやり方では日帰りになった翌々日にはまた仕事に出ることになるため、休養も準備に当てる時間も少なくなってしまう。
「休養日と、準備に当てる日は、最低でも一日ずつ、合わせて二日、日帰りが続くようなら、二回か三回に、一度は休養日を、二日取っては、どうでしょう。それに、稼ぎが安定しているなら、休養や準備など、何もない休日を、たまに入れては、どうですか？ 皆さん働き、すぎですよ」
実働二日、準備二日、休日二日か三日の週間予定に祝日的な休日を差し込んでみてはどうだろう。私から見たら命がけの仕事をしているのに、彼女達は働きすぎのように思える。
「休養と準備で最低二日、何もない休日か。そう……だね。もちろんやってみて休日をもて余すようなら随時変更はしていくが、あたいはゴンゾウの意見を採用してみても良いと思う。アイリーン、リジー、エナ。あんた達はどうだい？」
「私は皆さんほど体力がないので賛成ですぅ。まだ大丈夫ですけど、このまま日帰りが続くようでは一番始めに限界を迎えるのは私ですからぁ」
「エナも良いと思うッス。ゴンゾウなら大丈夫そうッスけど、ゴンゾウに合わせてたらエナ達が先にぶっ倒れそうッス。それに後輩に華を持たせるものも先輩の器の広さってやつッス」
「器の広さって意味が違わないかしら……私も賛成よ。一日で休養も準備もってやっぱり無理があるもの。それに何もない休日って馴染みはないけど、十分に稼いでいる今なら無理をする必要も無いものね」
どうやら私の意見は通るようでひと安心だ。インチキパワーで異常な腕力と体力に回復力を持っている私はともかく、いくら優秀で地球人とは比べ物にならない身体能力を持った四人でも、このままでは疲労が抜けないしリフレッシュする暇もないだろうからね。
皆が休んでる間に私がギルド斡旋の運搬依頼をこなせば、収入だって維持できるか増えるはずだ。
「それにしてもゴンゾウに働きすぎって言われるとは思わなかったッスね」
「連休になると、必ず運搬依頼を受けているゴンゾウさんに言われる日が来るとは思いませんでしたねぇ」
おや？ 流れが変わったぞ？
「二人もそう思ったかい？ あたいも同じことを思ったよ。ゴンゾウ、自分のことは棚に上げてあんたも言うようになったね」
「ゴンゾウがとんでもない体力と回復力を持ってるのはわかってるけど、あなたもちゃんと休まないとダメよ？ 私達に休めって言うんだもの、あなたももちろん休むのよね？ もしかして自分だけ連休を利用して働くなんて言わないわよね？ ゴンゾウ、こっちを見なさい」
アイリーンさんに完全に見透かされている!? アイリーンさん？ 圧が！ 圧が強いよ！
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