おじさんと収穫期
朝が薄着では肌寒く感じるようになった頃、収穫期に「春の風」が受ける仕事を冒険者ギルドと調整するために、アイリーンさんとセイランさんと私の三人で冒険者ギルドに訪れ受付の列に並んでいる。
農作物の収穫が本格的に始まったようで冒険者ギルドにも収穫の手伝いや護衛などの依頼が多くなり、冒険者ギルド内の壁面は掲示された依頼で埋め尽くされ冒険者でごった返している。
あれ? 防具を装備しないで普段町中を歩くような格好をしてる人がちらほらいるけど、普段は見かけない人だし町中の仕事を受けるのか、防具もいらないくらいの実力者なんだろうか?
「冒険者って、こんなに大勢、いたんですね。防具を装着していない、人も多いですが、防壁内の仕事も、収穫期は増えるんですか?」
「ああ、普段は別の仕事をして期間限定で冒険者をやる兼業も多いんだよ。収穫期は防壁内に搬入する仕事も増えるよ。
ただねぇ、この時期は農地に衛兵や冒険者が多いからなのか、普段防壁の外に出ない冒険者が、農地だからって防壁外で防具を装備しないのもたまにいるんだよ」
「ゴンゾウも防壁の外に出るときは、運搬仕事でも防具は外しちゃダメよ。身を守るためなのは当然だけど、詳しい実力なんて特に依頼主はわからないじゃない?
私は装備を整えて仕事に挑んでいます! ってアピールするためでもあるのよ。ちゃんと装備を整えていないと、依頼主からも同業者からも信用を落とすことになるわ……あんな感じでね」
アイリーンさんの指さす方を見ると、防具を着用していない普段は見ない二十代ほどの男性二名が、しっかりと防具を着用した冒険者ギルドでよく見かける男女の冒険者二名に怒られている。
「……れば防具も装備しないで! あんた達防壁の外に出るのになに考えてんの!? あんた達の護衛で来たんじゃないんだよ!」
「すまねぇ。人数いるから身軽になった方が良いかと思って」
「外でも柵がある農地なら防具くらい問題ないだろ? お前らだって装備外すことあるじゃん」
「話になんねぇな。お前らさ、死にに行くならお前らだけで勝手に死ね。俺らは別で依頼受けるわ」
言い方はきついが、防具を装備した冒険者二名の言っていることは間違っていないと思う。現に騒ぎに気付いた他の冒険者も、防具を着用していない男性二名に冷ややかな視線を向けている。
「人数がいるから農地だからって、防壁外に出るのを軽く考えてるのがいるが……ありゃ相当なめてるね。どんな集まりだかわからんが、下手したらあいつらはこれっきりで縁が切れちまいそうだ」
「言い方は、きついですが、防具を装備した、彼らが、言っていることは、間違っていませんよね?」
「ええ、彼らの言っていることは間違ってはいないわね。装備を外して身軽になることと、最初から着用していないで防壁外に出るのは意味が全く違うもの……あら、セイラン、ゴンゾウそろそろ私達の番みたいよ」
「春の風の皆さん、おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか」
「おはようさん。収穫期は掲示板依頼を譲ろうってなったんだが、仕事をしないわけにもいかないからね。それで相談しに来たんだが何かあるかい?」
「掲示板依頼でお気遣いいただき、ありがとうございます。皆さんが来たら、こちらから依頼したい仕事がありましたので、ちょうど良かったです。ちなみにゴンゾウさんは一緒に行動されますか?」
「オレですか? 今回も同行する、予定ですが、何かありましたか?」
「ええ、ゴンゾウさんが同行されることが前提の依頼がありまして、是非とも受けていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「ちょっと待って、受けるかは内容を聞いてからにするわ。流石にギルドから斡旋されるんですもの、変な仕事ではないんでしょう?」
「あら、内容もお伝えせずに失礼しました。もちろん変な内容ではございませんよ。内容はですね……」
私が同行すること前提の依頼ということだったが、聞いてみれば特段難しい依頼ではなく、いつもの西の森での討伐依頼だ。
いつもと違うのは食肉になる獲物の買い取りが割り増しになるから、出来るだけ丸ごと持ってきてほしいというものだった。
これからの季節は魔物や動物も越冬のために食い溜めをするからよく肥えており、冬季の食料もあって困るものではないため、可能な範囲で狩りをして肉を卸してほしいとのこと。
「そりゃ今のあたいらにはうってつけの仕事だね。期間はいつまでだい?」
「期間は冬が明けるまでですね」
「冬が明けるまで割り増しって、ずいぶん期間が長いのね。初めて知ったわ」
「冬季に外に出て狩りをしろ! という依頼ではなく、買い取り価格が割り増しになるから持ってきてね。くらいに思っていただければよろしいですよ。
一定以上の実力と運搬力を持ったパーティーにしかお知らせしていませんから、ご存知なかったのかもしれませんね。昔は常設依頼で公募していたのですが、冬季に無理をして死傷する冒険者が多かったため、公募は廃止されたと記録が残っています」
「それでゴンゾウが同行するかが条件になってるんだね。アイリーン、ゴンゾウ、あたいらにはちょうど良さそうな仕事で受けようかと思うが二人はどうだい?」
アイリーンさんと私の答えは賛成だ。もちろんこのあとリジーさんとエナさんにも確認するとセイランさんは言っているが、二人も賛成すると思う。
この仕事だけをすることにはならないだろうけど、冬季はどんな仕事があるのかね。願わくば、私が一人でも受けられる運搬系の依頼も斡旋してくれるといいんだけどなぁ。
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になる、面白かった、なんやこれつまらんなど下部の「いいね」や☆☆☆☆☆を押して評価していただけると作者が喜びます。




