おじさんと暖房設備
「暖房設備ッスか? 厚着して暖炉と毛布があれば十分ッスよ。暖炉があるだけここは恵まれてるッスね。あと冬場の夜間は家がない人達が協力して広場で焚き火もしてるッス」
「一部の冒険者が寒い時期の活動で古くなった金属の入れ物に焼いた石を入れて持つとは聞いたことがあるけど、私達は冬は防壁の外にはほとんど出ないから使ったことはなかったわね。設備ってなると暖炉くらいじゃないかしら」
「もっと寒い地方では扉を二重にしたり、お家の中で焚き火が出来る場所を作ったりしているって聞いたことはありますねぇ。でもお家の中で焚き火なんて煙がすごそうですぅ」
「ゴンゾウ、なんでもいいから何かないのかい? あたいは寒いのが苦手だし冬場に防壁外での活動は危険だ。出来れば冬は外になんて出たくないから、越冬のための稼ぎはそれまでに蓄えるんだがねぇ。カエラも寒いのが苦手だったね」
「ええ、私もセイランさんほどではありませんが寒いのは苦手です。セイランさんは昔から冬になると毎日寒い寒いと言っていますからね。冒険者や衛兵、商人も冬は寒さもあって危険度が高いので、基本的に防壁の外へは出なくなりますね」
「えっと、いくつか案があるので、こちらで出来そうかを、皆さんに、聞きたいのですが」
夕食後に帰宅中アイリーンさんとリジーさんとも話していた、越冬のための暖房設備について聞いてみたのだが、やはり石油燃料を使った設備は一般には無いようだ。
石油はあると思うし存在だって知られていると思うが、利権やらなんやらで面倒なのかもしれないし、もしかしたら精製手段が確率されていなくて臭い油程度に思われているかもしれないけど、面倒そうだし知識もないから絶対に関わらないでおこう。
暖房設備と言われる物は、一般では焚き火や暖炉が主流のようだ。暖炉は家の形にも関わるものだから、エナさんが言うように暖炉があるだけでも恵まれているのだと思う。
こちらで冬を経験していないからどの程度寒いかわからないけど、外に水を張った桶を放置すると水が凍るらしいから氷点下には確実になるだろう。
それで暖炉や焚き火と厚着に毛布だけで越冬出来るって、この地方の人達は強すぎじゃないかな。
私から提案してみるのは、湯たんぽと薪ストーブ、炬燵と火鉢だ。
対応する言葉がないから、もう依頼の常連となった木材加工場から薪にでも使ってくれと毎回お土産で渡される端材の木片に、説明しながら不恰好な図を木炭の破片で描く。
皮紙はあるが高いし紙は存在しなかった。ペンも羽ペンが主流のようだが、一部の商人はまさかの毛筆だった。一般家庭にはどちらも置いていないのが普通みたいだけど、今は関係ないか。
「んん? この鉄の箱の中で薪を燃やせば暖炉より暖かくなるのかい? 火を囲っちまったら、暖かくならないような気がするんだが」
「いえ、セイランさんパン焼きに使う釜は外も熱くなりますから、金属製ならより外側が熱くなるでしょう。案外……と言ったらゴンゾウさんに失礼ですね。理にかなっているかもしれませんよ」
「わざと何ヵ所か凹ませた金属の水筒に、熱湯か焼いた砂を積めて革か布で包んで使うのね。似たような物があるかもしれないから、ボブさんに聞いてみましょうか」
「テーブルに大きな毛布をかけて、中にアイリーンさんが言った道具を大きくした物を設置ですかぁ。道具さえあれば簡単に出来そうですし面白そうですねぇ」
「どれもありそうッスけどエナは見たことがないものばかりッス。これ上手くいったら、いい稼ぎになりそうッスよ!」
「待ってください。作るんですか? とりあえず、聞いてみた、だけなんですが」
「ゴンゾウ、私達が使うにしても今からボブさんに頼まないと冬には間に合わないわ。彼のお店も暇ではないもの」
「素材は安い金属でも出来るでしょうから、安く作ってもらえそうですよねぇ」
「売れるくらい作ってほしいッスけど、今からだと数は作れそうにないッスかね。エナ達の分だけでも作ってほしいッス」
「よし、明日は朝にアンナに確認してボブが空いてるようなら、そのままボブの店に行くから仕事は止めだ。空いてなかったらいつも通り仕事に出るから、準備だけは忘れるんじゃないよ」
「わかりました。私もそのつもりでいますから、もしボブさんのお店に行くことになったら、帰りにお使いをお願いしましょうか」
え、本当に明日発注しに行くの? 発案から行動までが早いな。それだけセイランさんは寒いのが苦手なのかな。
ちなみに火鉢は、火種をキッチン以外で抜き出しにするのは危険とのことで不採用だった。
しかし、「外なら地面が濡れても火が起こせていいんじゃないッスか?」というエナさんの一言で、火鉢からキャンプで使う組立式焚き火台のような物を皆が話始めたのには驚いた。
馴染みのない物って忌避するかもしれないと思ったが、皆は考え方が柔軟なのか私の拙い説明や図から構造を予想し、更に改善案や違う場面での使い方から発展までさせている。
こういうのを地頭が良いって言うんだろうなぁ。知っていてもそこまで思い至らなかった私にはない発想と想像力だよ。
お読みいただきありがとうございます。
続きが気になる、面白かった、なんやこれつまらんなど下部の「いいね」や☆☆☆☆☆を押して評価していただけると作者が喜びます。




