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おじさんの装備習熟訓練

 装備を受け取った翌日。


 本来なら今日は冒険者としてパーティーでいつもの西の森の討伐依頼受けるはずなのだが、セイランさんとエナさん、そして昨日受け取ったばかりの防具とほとんど傷の付いていない鎧を全て装備した私の三人は、防壁の外の土がむき出しで地面が広範囲に渡って踏み固められた広場に来ている。


 ここは衛兵隊や冒険者が訓練を行う練兵場のような場所らしい。的や仮想敵としているのか、傷だらけの丸太や丸太を十字に組んだ案山子が立っていたり、良くわからない道具や石材などが隅の方にまとめられている。


 それを使って冒険者や、衛兵だと思われる同じ装備をした十人前後の集団が訓練しているようだ。


「ゴンゾウ、具足をしっかりと固定したのは確認したね? それじゃ、あたいが良いって言うまでそこで転がりな」


「はい? 転がるんですか? ここで?」


「もうセイラン先輩、ゴンゾウは初めてなんッスから、説明しないと何のことかわからないッスよ」


「あ! そうだったね。すまんすまん。装備も整ってあたいらにも平気で付いてくるから、いつもの感じで始めちまった」


「めっちゃわかるッスけどね。ゴンゾウきょとんとしてるッス」


「いえ、すみません、セイランさんエナさん、オレは何を、やればいいんでしょう?」


「悪いねゴンゾウ。これからやるのは昨日も話したが新しい防具、特に具足の習熟訓練だ。

 新しい具足が体に馴染んでいないのはなんとなくでもわかるだろ? 実際に動いて癖を掴んだり、癖を付けたりするのさ」


「特にエナ達冒険者が好む革製の防具は癖を付けやすいッスけど、新品の具足は変な癖が付きやすいッス。装備にも着用者にも変な癖が付かないようにこうやって訓練するッスよ。倒れたり転がる訓練でもあるッスね」


「なるほど、わかりました。ここで転がれば、いいんですね?」


「ゴンゾウ。あんたがあたいらを信頼してくれるのは嬉しいんだがね。ちょっとは疑いなよ……

 まずはあたいが良いって言うまで転がって防具を汚して細かな傷を付けるよ。新しい防具を買った冒険者、特に新人や駆け出しは新品を汚したくない、傷を付けたくないって思っちまうのは珍しくはないんだ。だから習熟のときは最初に汚すんだよ」


「新品の具足を庇って頭や胴体に怪我をしたら意味ないッスからね。だからまずは汚して細かな傷を付けて、そういった戸惑いが生まれないようにするッス。

 転がるくらいなら手入れですぐに綺麗になるッスよ。ゴンゾウは最初から防具は防具って割り切ってたみたいッスけど」


 以前の装備はそもそも繋ぎのための装備であったし習熟訓練をする余裕もなかった。今の鎧を購入したときに習熟訓練をしなかったのは、私が着用している重装革鎧はそもそも癖が付きにくく、仮に癖が付いたとしても私の体に合わせた癖なので問題ないらしい。


 しかし、全身しっかりした防具を纏い牙棍棒と大楯も装備して、今後戦闘にも参加する可能性が高くなったことと、腕や足に装備した具足は癖が付きやすいこともあって習熟訓練をすることになったと昨晩聞いている。


 でも、なんだかこじつけのような、無理やり理由を付けてる感じがするんだよなぁ。気のせいか?



 その後、セイランさんエナさん指導の元で縦に横に転がったり、前面や背面に倒れ込んだりとひたすらに地面を転がり続ける。


 パワーでも目が回ることは解決出来ないのか、すぐにふらつくのだがそれも訓練の内らしく、目が回った私をセイランさんとエナさんがさらに転がす。


 あぁ、朝食を抜けと言われた意味がわかったよ。こりゃ胃になんか入ってたら確実に吐くわぁ。


 それにしても二人とも楽しそうだねぇ? おじさんを転がしても楽しいことなんかないでしょうにぃぃ……


 セイランさんの良しの合図と共に転がり地獄は終わったが、目が回って立ち上がるどころか座り込むこともできず、地面に大の字に倒れ気持ち悪さが収まるのを待っている。


 視界がぐにゃんぐにゃんだ。昨日アイリーンさんが意味深だったのはこれかぁ。


 その後はラジオ体操のように腕や足を具足を意識して動かしたり走ったり、二人に補助してもらいながら防具に癖を付けるのだが、単調なわりにセイランさんとエナさんは笑顔ではあるが真剣だ。 


 以前に「春の風」は防具をパーティー資金で購入して質を下げないようにしていると聞いたが、こういった訓練も先達の教えなんだろうか。


 でもさ、具足の習熟や癖を付けるだけなら、あんなに転がす必要はなかったのでは? 二人とも私から目を逸らしたね? もしかしてレクリエーション的な意味合いもあったのかな。

 

 それに良く良く周囲を見回してみれば、私達の後から来たらしい真新しい防具を装備した少年も、ギャーギャー騒ぎながら先輩らしき男女の冒険者に転がされている。


 理由を知らない人からは、大の大人が悲鳴を上げている中学生ほどの少年を笑いながら転がしている、ひどい暴行現場にしか見えないだろう。


 少年は悲鳴を上げているが、セイランさんもエナさんも少年を見てニヤニヤしているから、私と同じく防具の習熟訓練と仲間内でのレクリエーションっぽいねぇ。


 お互いに頑張ろうな少年。あ、少年は朝食を食べてきちゃったんだな。食べ盛りだからお腹すいちゃうもんな。でも先輩の言うことはちゃんと聞かないといけないぞ。


 新品の防具が酷いことになっているし、男性の先輩冒険者は爆笑しているが、女性の先輩冒険者が鬼のように怒っちゃってるよ。


 私と同期かもしれない少年、回復した後が大変だろうが強く生きるんだぞ。


 

お読みいただきありがとうございます。


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