おじさん昇格してしまう
「ゴンゾウ、お疲れさん」
「ジスさんも、お疲れ様です」
「とりあえず冒険者ギルドに行くぞ。ちょいと込み入った話になりそうだ。……悪いことじゃねぇから身構えんなって」
見学に来ていた「春の風」の四人は昼前に帰って行ったが、帰り際のエナさんの激励は嬉しい反面とても恥ずかしかったよ。
ジスさんも途中から姿が見えなかったが、わざわざ迎えに来てくれたのだろうか? 審査官としての仕事も大変そうだなぁ。
込み入った話って今日の審査に関することだろうか。
「審査の結果、ゴンゾウさんは今から運搬限定Cに昇格です。おめでとうございます。今後のご活躍に期待します。それと今後はギルドから依頼を斡旋するので、受注の際は掲示板ではなく必ず受付に寄ってくださいね。詳しい説明はジスさんお願いします」
冒険者ギルドの一室で私とジスさん、制服をかっちりと着こなした冒険者ギルド職員の男性の三人でテーブルを囲んでいる。
最初に冒険者証を渡して話が始まったと思ったら、いきなり昇格を告げられ呆気に取られている間に、職員の男性は冒険者証を私に返すとさっさと退室してしまう。
いやいや展開が早すぎるって! 当事者の私が置いてきぼりですよ! どうなってんのよ?
「ジスさん、どういうことですか? なんでいきなり、昇格?」
「まぁ驚くわなぁ。これから説明するからちょっと落ち着けって。どこから説明すっかな……」
若干困った表情のジスさんの説明によると、私の腕力と体力が想定していたよりもずっと高く、普段の素行や「春の風」に所属していること、依頼中の態度なども総合して昇格は問題ないとの結果になった。
本来ならあと一件か二件の依頼をこなした後に、昇格試験的な仕事を挟んで合格したら昇格するはずだったのだが、ジスさんの想定以上に私の身体能力と運搬依頼に対する適正が高すぎたらしい。
放っておいたら問題になると判断したジスさんは、一度冒険者ギルドに戻って協議してきたらしい。
身体能力が高いと冒険者としての活動というよりは、私が主に行う運搬系の依頼限定で問題になることが、二点ある。
まず一点目、一回依頼を受けただけで物資集積所と木材加工場の二件から指名されるのがすでにおかしい。
その二件はどちらも国営の事業であるため、一回依頼をこなしただけで指名が来ることはまずないらしい。
それを考慮すると私が新たな場所で今後も依頼を受けた場合、指名依頼が雪だるま式に増えていくことが簡単に想像できる。
二点目は、冒険者と依頼主、そして冒険者ギルド三方への悪い意味での影響が大きすぎること。
昇格する前の私の冒険者ランクは「Eランク(運搬限定D)」と、駆け出し冒険者なのは間違いない。
その駆け出し冒険者である私がとんでもパワーで運搬系の依頼をこなすと、依頼主側はそれを基準にしてしまう可能性が非常に高い。
他の運搬系の依頼を受けた冒険者は依頼主から私と比べられ、依頼料の減額や依頼の失敗扱いを受けて困るどころか大損害を受ける。
依頼主も出来ると思って出した依頼が達成されなくて困る程度で済めば軽く、依頼主も依頼が達成されなければ大損害を受けるかもしれない。
冒険者ギルドもそんな運搬系を主にしている冒険者と依頼主の間で揉め事が多くなって対応に困る。
この二点が問題になると判断したジスさんが、審査の途中で冒険者ギルドに進言し協議したところ三つのことが決まった。
一つ目、限定Cランクへの即時昇格。
二つ目、運搬系の掲示板依頼を受けない。受けさせない。
三つ目、ギルドが吟味した依頼を斡旋する。
限定Cへの昇格はこの問題がなくても実績から上がることはほぼ確実だったようなのだが、今後依頼を制限される私へのお詫びとのことであと少し足りなかった実績や試験などが免除されて即昇格になったようだ。
ギルド斡旋の運搬系依頼以外の仕事を受けるなという枷でもあるらしいが。
「まぁこんなところかね。何か質問はあるか?」
「いえ質問は、ないです。それよりも、ジスさんには、お手数をかけたようで、申し訳無いです」
「そんなこと気にすんなって。これも俺の仕事だからな。しっかし、ゴンゾウは相変わらず真面目ってかお堅いなぁ。どうしてもってんなら、またお前さんのパーティーハウスで一緒に飲み会しようぜ! もちろんカエラも一緒にな!」
「あっはい」
ジスさんのカエラさん大好きっぷりはこんなときでも発揮されるのか。もしかしたら私を気づかって道化を演じてるかもしれない。さすがのイケオジだなぁ。
それにしても、不完全燃焼気味ではあるがついに限定Cになっちゃったか。これで「春の風」の皆と一緒に活動できる。
次回の皆の依頼へはまだ同行できないかもしれないと思っていたから、自分で仕事を選ぶ幅は狭くなったみたいだけど、それが気にならないくらい嬉しいね。
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