木材加工場の作業員から見たゴンゾウ
「ゴンゾウさん! あんたを待ってたぜ! 今日はよろしくな!」
「指名で、ご依頼いただき、ありがとうございます。よろしくお願いします」
親方がひょろっとした低姿勢な冒険者の男を、珍しく大歓迎で迎えているけど誰だあいつ?
あ、俺は木材加工場で住み込みで働いてる作業員だ。
木材加工場ってのは暖を取るための薪や、家具、建材なんかになる木材を乾燥から板材まで加工する場所のことな。そこからなんか作ったりはまた別の場所で各々やってんじゃないかな? 詳しくは知らんけど。
防壁内じゃ木材はどこでも使ってるから、冬季以外は連日大忙しだ。
そんなことはどうでもいいんだよ。ここに依頼で来るったって今日は欠員もいないし、わざわざ冒険者に依頼を出さなくてもいいんじゃないかね。
「なぁ、親方が大歓迎してる冒険者っぽい男って誰だ?」
「あ? あんたは初めてゴンゾウさんが来たときは休みだったか?」
「急病やら逃げ出したやつやらが重なっちまって、急遽冒険者に依頼出したときお前休みだったもんなぁ」
「あぁあのときか。それで誰なんだよ。そのゴンゾウさん? ってのは」
「見てりゃわかるさ。ものすげぇから。それよりもこんなところでくっちゃべってたら親方がおっかねぇぞ」
「うおっ! 親方こっち見たぞ! 急げ急げ!」
親方背中に目でも付いてんのかよ。ぐるんと振り返りやがった。おっかねぇよ!
それにしてもあんなひょろいのがものすごいってどういうことだよ。見てりゃわかるって何がわかんの?
まぁいいか、早く今日の仕事に取り掛からなきゃ親方にどやされちまう。
乾燥した木材の皮を剥いて、長さを測って輪切りにするのが俺達の担当だ。それを板にしたりすんのはまた別のところなんだが、この輪切りにした後の丸太を運ぶのが大変でなぁ。もちろん運搬専用の重機や台車を使うんだが、何度も運ぶのは手間がかかるし、まとめて運ぶには重すぎる。
板に加工する所ともっと近けりゃいいんだが、大量の木材は場所を取るし近いと危ないってんで距離を取らなきゃならんらしい。もっと楽になればいいんだが、学のない俺にゃ難しいことはわかんねぇしなぁ。
「ん? そこに積んどいた丸太どうした? 向こうが待てなくて持ってったか?」
「さっきゴンゾウさんが持ってったろうがよ。あんた見てなかったのか?」
「お前仕事に集中するのもいいけどよ。もっと回り見ろって親方にも言われてんだろ。それなんとかしねぇとあぶねぇぞ」
「わりぃわりぃ。どうにも集中するとなぁ。って待てよ、ゴンゾウさんが持ってったってあのひょろい男が一人でか? いや無理だろ。冗談か?」
「俺らも最初はなんかの冗談と思ったんだよなぁ」
「さっきここの丸太持ってったから、そのうちここに追加持ってきてくれんだろ。そんときに見てりゃわかるから、ちゃんと周り気にしろよ?」
いやいや冗談だろう? いくら輪切りにしたって言っても、一番でかいのは俺らの身長の倍以上はある丸太だぞ? それを何本も積んだ台車一人で持ってったってどういうことだよ。
それに追加持ってくるってなんだよ。輪切りにする前の丸太なんて数人がかりで重機と台車使わなきゃ無理だろ。なに言ってんだこいつら。
って思ってたら本当だったよ。え? なんでゴンゾウさんが一人で加工前の丸太こっちに引っ張ってきてんの? 重機どころか台車しか使ってねぇじゃん。
「ここでしたよね? では台車から、降ろすので、離れてください」
マジかよこの人。台車からの降ろしまで一人でやっちまった。
「この丸太を、向こうに持っていけば、いいんですよね」
「あ、ああ。頼んだよ。ゴンゾウさん」
「はい、任せてください」
切った丸太を乗せた台車を、苦もなく引いていくゴンゾウさんを見送りながら呆気にとられちまう。
「な? 見てればわかるって言っただろ?」
「あ、ああ。確かにお前らの言ってた通りだがよ。なにあの人。流れの高ランク冒険者か?」
「高ランクがわざわざここの依頼を受けるかよ」
「親方と話してるのちらっと聞こえたがよ。あの人まだFランクらしいぜ」
「F!? いやうっそだろ! あの怪力でそれはあり得ねぇって!」
「てめぇら! なぁにくっちゃべってやがる! 今日はゴンゾウさんがいんだ! 回転早いからさっさと手を動かせこらぁ!!」
「「「はい! すんませんっ!」」」
親方怖すぎんだろ!
どやされちまったが、親方の言う通りゴンゾウさんが一人いるだけで丸太を運ぶ手間が無くなるどころか、追加もどんどんとゴンゾウさんが持ってくるから手を止める暇がない。
昼休みに板加工の連中とも話したが、向こうもゴンゾウさんが運んでくる俺達の切った丸太が山のようになっているらしい。
昼休みの後も淡々と平気な顔で丸太を持っていき、追加を運んでくるゴンゾウさんが悪魔に見えてきた。それを見て上機嫌の親方は大悪魔だろうか。
おいおい何日分やらせるつもりだよ。無理無理! もう限界だって!
追加されていく加工前の丸太がずらっと並んでいるが、俺達は限界を迎えて座り込んでいる。親方も俺達が限界だってわかっているのかどやされることはなかったが、マジでゴンゾウさんの腕力と体力どうなってんだよ。
丸太の置場所が無くなるまで平気な顔で運んで、ゴンゾウさんのやることがなくなったからか親方にめちゃめちゃ感謝された後、まだまだ日も高いうちに全く疲れた様子を見せないで帰っていきやがった。
ゴンゾウさん一人でこれだけやるんだ、朝に親方が大歓迎で迎えるはずだよ。何日分の丸太を切ったかわかんねぇよ。板加工の連中はしばらく地獄じゃねぇかな。
「おう! ご苦労! 明日からお前らもしばらく板加工な。あっち終わらねぇわ! ゴンゾウさんが一日来るだけで捗るなぁ!」
ですよね! そうだと思ったよ! 上機嫌で高笑いまでしやがって、ちくしょう!
そしてゴンゾウさんが来る日は、俺達の地獄の始まりを意味する日になったんだ。
ここで働かねぇかって親方の誘いを、ゴンゾウさんが断ってくれて本当に良かったよ……
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