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おじさんと異世界の住居事情

「はぁ? ゴンゾウはまたそんな先のことで悩んでたんッスか? ずっとここに住めばいいじゃないッスか。エナはそのつもりッスよ」


「将来のことですかぁ。私たちは皆帰る家がありませんから、結婚するかどこかの貴族様にお仕えするか住み込みで働ける所でもないと、防壁内で新たにお家を持つのは厳しいですねぇ」


「リジーの言う通りね。あとは開拓団に参加して、自分の土地を確保するくらいじゃないかしら。探せばもっと手段はあるでしょうけど、独立して自分の家を持つってAランク冒険者になるより難しいかもしれないわ」


「あたいもBランクに上がった頃に家を探してみたんだが、防壁内は無理だったね。カエラとパーティーハウスには助けられてるよ。ずっと宿暮らしは金がかかりすぎるし、賃貸も今の三倍以上の出費になっちまう、なによりここは居心地がいいからねぇ」


「セイランさん、ありがとうございます。ゴンゾウさんも昨日はごめんなさいね。私も少し酔っていたのかもしれません」



 おじさん二人とカエラさんの飲み会は、カエラさんの正論でおじさん二人が撃沈した後に、カエラさんが言い過ぎましたと謝るのをおじさん二人がなだめながら続き、夜も更けた頃にジスさんは帰っていった。


 翌日の朝食後に、私も含めて「春の風」全員が休養日のため、飲み会で話した内容を四人にも相談したわけだが、四人は転機が訪れない限りはずっとここに住み続けるつもりのようだ。


 カエラさんも将来的に出ていけなどとは言わないし、権利は「春の風」名義になっている住居なので、言える権利もないとのこと。



 皆と話してわかってくるこちらの住居事情は日本の都心よりも、もっと大きな問題じゃないだろうか。


 防壁内という安全ではあるが限られた土地の中で、新たに個人の家を持つことは非常に難しいみたいだ。


 では、他の冒険者や防壁内の住人がどうしているかというと、賃貸や宿暮らし、ここのように共同生活、住み込みで働く、親類から相続する、開拓団に参加する、防壁外の地元に戻ったり田舎に移住しているらしい。


 それでも防壁内は田舎より魔物の襲撃があっても安全なため、住居を確保できなくても路上での生活を選択する人は珍しくないのだとか。


 タイゴンの領主様が、新たに開拓できそうな土地が見つかったことに私達がいる前で喜んでいたのも、そういった人口問題が絡んでいるようで行政は頭を悩ませているんだろうなぁ。


 また、「春の風」元パーティーメンバーの引退ラッシュが起きたときには、パーティーハウスに何人かは残るだろうとセイランさんもカエラさんも思っていたらしいが、二十人近い元メンバーが散り散りになったため当時はとても驚いたそうだ。


 武器防具屋のボブさんのように家業を継いで家に戻った人、上位パーティー在籍の実績を買われて開拓団に参加した人、地元に戻った人など見事なほど散り散りになり、当事者たる元パーティーメンバーの人達も想定外だったらしく、一時はこのパーティーハウスの存続も危ぶまれたらしい。


 その時にはアイリーンさんとリジーさんが在籍していたことと、カエラさんの財産、Bランク冒険者セイランさんの稼ぎでなんとか手放すことにならなくて良かったと、当時を知る四人は笑っている。


 私と今その事実を知ったエナさんは笑えないよね。エナさんがこちらを見て「良かったッス」と真顔で言っているが、本当に良かったッスよ。  


 ではここに居住する前のアイリーンさん、リジーさん、エナさんはどうしていたかというと、冒険者ギルドには住居のない冒険者向けの宿泊施設があり宿や賃貸よりも安いが、十人前後で一部屋に相部屋で生活するらしい。もうあの生活には戻りたくないと三人は真顔だった。


「私からゴンゾウだけじゃなくて皆に提案なんだけど、このパーティーハウスを将来に渡って維持できるように、パーティーとして収入を増やして貯蓄財産を多くすることを目標にするのはどうかしら? もちろん強制はしないけれど、個人でやるよりも一番現実的で確実だと思うの」


「それは良いですねぇ。私達は先輩方のように頼る地元がありませんから、ここを維持するか開拓団に参加するかの二択が現実的なところですねぇ」


「あんたたちはまだ若いからいいが、あたいとカエラにゴンゾウは今から住み込みで働こうってのは難しいから、それが現実的かね。ゴンゾウが一緒に行動出来るようになれば、収入も一気に増えるだろうからね」


「あら? 皆さんが結婚してここを離れても私は構いませんよ? その時には新しいパーティーメンバーを迎えていただけると助かりますが」


「カエラさんが言うと笑うに笑えないッスね。え、カエラさん真顔でこっち見ないでほしいッス!? 怖い! 怖いッスよ!」


「エナさん何で、オレを盾に、するのさ。カエラさんの、冗談ですよ。……冗談ですよね?」


 真顔でエナさんを捕まえようとするカエラさんから視線を外して、私にとってのいつもになった皆との賑やかな休養日を過ごす。


 ずっとここにお世話になることも視野に入れて、早くランクと収入を上げられるように頑張ろう。



お読みいただきありがとうございます。


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