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おじさんの宅飲み 後

「へぇ、三ヶ月近くもそんな生活してたのか。ゴンゾウ、お前さん苦労してんだなぁ」


「初めて出会った、こちらの人が、アイリーンさんと、春の風の皆で、本当に良かったですよ」


 宅飲みは続いているが、今日帰ってきたばかりの「春の風」の四人は、眠そうにしていたエナさんを筆頭に体を休ませるため自室に戻っている。


 セイランさんはもっとお酒を飲みたそうにしていたが、カエラさんとジスさんに止められていた。


 カエラさんも洗い物や片付けなどで席を外しているので、当初の予定通り私とジスさんでの飲み会だ。


 他愛のない話や私のこちらに転移してからの経験など、ジスさんは聞き上手なのか話題に困るようなことにはならなかった。


 カエラさんがいなくなって残念がるとも思ったのだが、そんなそぶりは一切見せずにいるジスさんは流石のイケオジである。


「俺はちょいと特殊な立場でな。事情がありそうな新入りの観察も仕事の内なんだが、お前さんは上手いことやれてると思うぞ。ここで活動して三日くらいか? ギルドからの評価も高いみたいだし、ちょいとお堅いが穏やかで揉め事を起こすような奴じゃないのもわかった。

 限定ランク上げたらあいつらと行動を一緒にするんなら問題も特にないだろ。セイランは面倒見もいいからな。でだ、なんか困ってることとかあいつらに相談しにくいことあるか?」


「困ってること、ですか。常識の違いで、多々ありますが、慣れの問題なので、これは私が、慣れるしかない。それはいいんですが、悩んでることがあって……」


 私の悩みは今後の身の振り方だ。短期的には冒険者として経験を積み、「春の風」に運搬担当として貢献したい目標があるし、それがもうすぐに叶うとも思っている。


 でも長期的に、それこそ老後のことまで考えるならどうだろうか? ずっと今の居心地の良い環境が続くなら一番いいとは思っている。しかし今の私は、パーティーハウスにお世話になっているがこの世界では根無し草だ。


 アイリーンさん達は皆若い。冒険者以外の道を見つけることも十分に有り得るし、冒険者を続けたとしても、いつまでも現役でいられるわけでもない。


 もしかしたら解散して皆別々の道を歩むことになるかもしれない。そのときに私はどうなるだろうか。ここは私の持ち家でもなく、借用もせず居候しているだけだ。いつか居れなくなるかもしれない。


 それにいつまでも彼女たちに稼ぎも生活も頼りきりはあり得ないし、今は良くても今後は関係も悪くなってしまうだろう。


 年金も保険も生活保護もないこの世界で、根無し草の私は十年後二十年後を今から考えなければいけないと思っている。


 そんなことを酒の席の雰囲気に当てられたのか、つらつらとジスさんに打ち明けてしまう。


「今までの生活全部奪われてこっちに迷い込んだんじゃ、そりゃ悩むわなぁ。しかも勝手がわからないんじゃ尚更か。俺から話を振っておいて悪いが、今この場で無責任に答えちゃいかん問題だわ。すまん」


「ジスさん、頭を下げないで、ください。これは私が、考えなきゃいけない、ことです」


「おいおい一人で抱えるなって、今って言ったぞ俺は。すぐには解決できんが、どうにもならない問題じゃない。それからな、そういうことは同じパーティーのあいつらとカエラにも相談するべきだ。な? カエラ」


「な? じゃわかりませんよ。どうしたんですか?」


「ゴンゾウが生真面目すぎてなぁ。カエラやあいつらに稼ぎも生活も頼りすぎてんじゃないかって悩んでんだよ」


「あら、そうなんですかゴンゾウさん?」


 キッチンから出てきたカエラさんに、先程ジスさんに相談したようなことを説明すると、


「そんなのここにずっと居ればいいじゃないですか。以前も説明しましたが、家賃はパーティー資金から出ているので賃貸に住んでるようなものですよ。パーティーから離脱したら別ですが、それは考えてはいないでしょう?

 仮に独立しても、防壁内は人口が過密ですのでお金を積んでも持ち家は無理ですし、賃貸なら余計なお金を払うだけでここと変わらないと思いますが」


「カエラの言う通りなんだがな? それでも矜持ってもんがゴンゾウにもあるわけで……」


 なんだか住居問題は簡単に解決しそうだけど、頼りきるのはジスさんの言うように心苦しい思いがある。


「矜持? そんなもの生きることに必要ありませんよ。それとも矜持を抱えて死ぬ覚悟でも? ゴンゾウさん、将来のことを考えるのは良いことですが、矜持や将来の前に最低限こちらの常識を知る方が先ではありませんか? 貴方は世間を何も知らない幼児に、具体的に将来どうするかと聞きますか?

 ジスさん、相談に乗るのは良いと思いますが、ゴンゾウさんはこちらの常識を何も知らない、見た目が大人の幼児だと思ってください。貴方は何も知らない幼児に矜持だのなんだのと仰るのですか?」


「「はい、すみませんでした」」


と、正論で殴られおじさん二人で謝ることになった。


 完全にカエラさんの仰る通りで、将来のことは考える必要があるがそれよりも知らなければいけないこと、やらなければいけないことの方がまだまだ多いのが私の現状だった。


 冒険者として評価され始め、収入の目処がたち、衣食住で困ることが無くなり、少しの余裕が出来たことで変なプライドが出来たのか調子に乗っちゃってたかなぁ。


 

お読みいただきありがとうございます。


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