おじさんの宅飲み 前
「おかえりなさい、ゴンゾウさん。ジスさんもお久しぶりですね」
「カエラさん、ただいま戻りました」
「久しぶりカエラ。今日は呼んでくれてありがとうな。お邪魔するよ」
ジスさんさっきまでの浮かれっぷりを完全に消し去ったよ。本当に小器用な人だな。
ジスさんはリビングに通され、私は自室に装備や荷物を置いていつもの洗い場で体を清めてからリビングに行くと、カエラさんと楽しそうに話すジスさんと、それをニヤニヤと眺めているセイランさんとエナさんがいた。
「おっとゴンゾウも来たね。おかえり。限定ランクがDに上がったってカエラに聞いたよ。あたいらがいない間に一人で頑張ったんだね。お疲れさん」
「ゴンゾウお疲れッス。昇格が早いとは思ったッスけど、エナ達が戻ってくる前に上がってるとは思わなかったッス! なにしたんッスかゴンゾウ?」
「セイランさん、エナさん、二人も討伐依頼、お疲れ様でした。セイランさん、ありがとうございます。エナさん、何をしたって、普通に依頼を、こなしただけですよ」
「ゴンゾウさんの普通は私たちとは違いますよぉ。ゴンゾウさん、おかえりなさいぃ」
「おかえりなさいゴンゾウ。リジーの言う通りね。ゴンゾウ、無茶してないわよね? このあとゆっくり聞かせてもらうわ」
「リジーさんにアイリーンさんも、お疲れ様でした。無理はしていませんし、二人とも人聞きが、悪いですよ」
後ろからリジーさんとアイリーンさんにも声をかけられ、これで「春の風」が全員揃った。
ずっと一緒に行動していたので、二泊程度だが五人で揃うことがなんだか久しぶりな気がする。
「あたいらの無事の帰還と、ゴンゾウの昇格と、ジスの奢りの酒に乾杯!」
「「「乾杯!」」」
セイランさんの乾杯の音頭に合わせて、皆が木製や金属製の杯を掲げ夕食兼飲み会が始まったが、やはり冒険者は食事中はほとんど話さないのだろう。
ジスさんも私たちも食べ終わるまではほぼ無言で、特に討伐で二泊してきた四人はずっと保存食だったのか、腹に詰め込むように食事を進めていく。
エナさんが食べすぎて椅子に体を預けて動けなくなった食後に、ナッツや漬け物をつまんでジスさんの奢りの酒と、私がもらってきた蜂蜜酒を飲んでいる。
「今日はつまみどころか夕食まで世話になっちまって、すまねぇカエラ。夕食美味しかったよ」
「ありがとうございます。ジスさんにはお世話になりましたし、夕食くらい気にしないでくださいね」
ジスさんはさりげなくカエラさんの隣の席を確保して、夕食に感謝したり褒めたり近況を話したりと、私的な人付き合いが得意ではない私から見ると感心してしまう。
カエラさんも悪い気はしないのかジスさんと楽しそうに話しているから、人の恋路に口出しする気はないが、ジスさんならカエラさんを幸せにしてくれるかなと密かにジスさんを応援している。
「ゴンゾウが荷物持ちで一緒に行動することに慣れちゃったのかしら? 今回の討伐は以前より辛く感じたわ」
「ああ、それはあたいも思ったよ。二泊だったが荷物が邪魔だと感じたのは久しぶりだったね」
「そうですねぇ。私は皆さんよりも非力ですから、余計に荷物が重く感じたかもしれませんねぇ。ゴンゾウさん早く一緒に行動できると助かりますぅ」
「三ヶ月近く一緒に行動してたッスからね。ゴンゾウがいるときの稼ぎを知ってると、いつもの報酬も安くはないのに安く感じたッス」
「ありがとうございます。ギルドからも、Cには、早く上がるだろうと、今日、言われましたが、どれ程の期間で、上がるものなんでしょう?」
「お? ゴンゾウお前さんもうCが目前なのか。ギルドにそう言われたなら、この三日間みたいな依頼を三件程度こなせば上がるはずだぜ。ちなみに冒険者ランクは?」
「ジスさん、冒険者ランクは、Fです。あと三件ですか。このペースなら、三日で、こなせそうですね」
「Fランク!? やっべ、酒溢れた。あ、すまんカエラ」
「ジスさんズボンにかなり溢れてますから、染みになる前に洗いますよ。予備のズボンもありますし」
「いや、そこまでは流石に悪いって……」
このおじさん私を出汁にしてカエラさんと接しようとしてないか? 穿ち過ぎかな。いや、若干鼻の下伸びてるな。
「Fランクで限定ランクCって意味わかんないッスね」
「エナ、そうでもないんだよ。冒険者に登録してないだけで専門分野で高い能力を持っていて、登録直後に一気に限定ランクが上がっていくヤツはたまにいるのさ。衛兵辞めて冒険者になるヤツに多いかね」
「私達と護衛もしたし、途中で魔物や盗賊の討伐に貢献したこともギルドに伝えているから、ゴンゾウの冒険者ランクも近いうちに上がるんじゃないかしら?」
「Dまでは順調に上がると思いますが、運搬関連だけでCに上がるのは時間がかかるかもしれませんねぇ」
「あたいらと一緒に行動出来るようになれば、自然と上がるさ。Dになる頃には運搬限定ランクがBになってるかもしれないね」
「うわぁマジッスか。追い抜かれそうッスね。ゴンゾウ? ランク上げるのゆっくりでもいいッスよ?」
「エナさんは、その頃には、ランクが上がってる、と思います。総合的にはエナさんの、能力が高いし、心配しなくて、いいのでは?」
上機嫌になったエナさんに背中を叩かれながら、お酒を飲んで二日ぶりの団らんを楽しむ。
やっぱり四人がいなくて心細かったのかな、なんか安心するわ。
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