おじさん飲みに行けない
「限定D昇格おめでとうございます。昇格が早いとは思っていましたが、まさか昨日の今日で昇格して来るとは思っていませんでした。遅くても明後日には皆さん戻って来ますから、驚くでしょうね。エナさんは特に」
「カエラさん、ありがとうございます。早くランクを、上げて皆に、協力出来れば、いいのですが。
それと、明日も朝一で、仕事に行きますが、ジスさんと飲みに、行くかもしれないので、私の夕食は、作らなくて大丈夫です。勝手に予定を、決めて、申し訳ないです」
「ゴンゾウさん、そんなことで謝らなくてもいいのですよ。でも、お気遣いありがとうございます。
飲みに行ける友人知人が、春の風以外に出来たことは良いことじゃないですか。でも、ジスさんと飲みに行くのは構いませんが、帰りの夜道をゴンゾウさん一人は心配ですね……」
「あ、帰りのことを考えて、いませんでした。どうしましょう」
夕食後にカエラさんから改めて限定ランクがDに上がったことを祝われたが、明日の帰りのことを考えていなかったことで、二人で頭を悩ませてしまう。
異世界の常識にも疎く、非常識なパワーがあるが技術が追い付いていないため、完全に自衛出来るかと言われるとまだまだ自信を持って頷けないのだ。
パーティーハウスの広いリビングには、カエラさんと私だけだ。アンナさんは夕食前には帰宅したし、「春の風」の四人はまだ戻ってきていないため、唯でさえ広いリビングが余計広く感じる。
「ゴンゾウさん、明日はここでジスさんとお酒を飲むのはいかがですか? 私もジスさんとはしばらく会っていませんでしたから、ちょうどいいです」
カエラさんの提案に驚いたが、現状私が安全に酒を飲むためには宅飲みが最適解だとは思う。思うのだが、パーティー外の人を連れてきて更に飲み会までやっていいのだろうか。
「大丈夫ですよ。私も面識はありますし、彼は少し特殊な冒険者ですから」
カエラさんが言うにはジスさんは、冒険者ギルドと契約を結んでいる冒険者とギルドの中間の立場にいるらしい。
経験豊富だったり人望や信頼の厚い冒険者が、冒険者ギルドと冒険者の間に立って揉め事や困り事、新人の補助や不審者の監視などを冒険者ギルドからの依頼として受けている。
それでジスさんは私を気にかけてくれていたのか。例え業務だったとしても、ジスさんの気遣いにはこの二日間助けられていたので、特に嫌な気持ちにはなりませんから大丈夫ですよ、カエラさん。
宅飲みの予定をカエラさんと軽く話したが、ジスさんは来てくれるだろうかという疑問にカエラさんは、「ジスさんなら必ずや来ますよ」と何か確信しているようだ。
ジスさん付き合い良さそうだし、店飲みとか宅飲みとか気にしないのかな?
そんな話し合いをカエラさんと行った翌日の朝食後。
日が完全に顔を出して街も活気を増し始めた頃、今日の仕事先であるアンゴンまで護衛して一緒に旅をした行商人さんの依頼を受けるべく指定された倉庫区画まで来ていた。
アンゴンや他の人里も居住、倉庫、製造及び加工など大雑把だが区画分けされているらしい。防壁内の人口が増え人口密度が居住区画の許容範囲を越えた近年は、一番広い居住区から溢れて居住区の外で生活する人も多いらしいが、製造区画は昼夜物音がするから静かに暮らすにはあまり適していない。
カエラさんに教えられた区画分けの話を思い出していると、指定された一軒の貸倉庫の入り口で作業をしている、見覚えのある行商人さんを見付けた。
「ハンスさん、おはようございます。 先日はお世話に、なりました。春の風のゴンゾウです。今日は、よろしくお願いします」
「おおっ!? 兄ちゃんじゃないか。おはよう! まさか昨日出した依頼をもう受けてくれたのか!」
行商人の威勢の良い話し方をする男性、ハンスさんが少しだけ驚きながら私に対応してくれる。他の三人はこの貸倉庫にはいないようだけど、ハンスさんだけで仕事をしていたのだろうか。
「ああ、他の三人か? あいつらは店番だよ。俺達は二家族共同で店と行商をやってるんだ。行商は一緒に行くが、店に四人居ても客は増えないからな。三人が店番で俺が倉庫番と商品の在庫管理って訳だ。
それにしても昨日の今日で依頼受けてくれて本当に助かった。行商の荷物が片付かないうちに大口の取引あってなぁ。格安で仕入れられたのは嬉しいことなんだが、見てくれよこれ」
苦笑いのハンスさんが倉庫の引き戸を横にずらすと、入り口すれすれまで倉庫内にみっちりと木箱が詰め込まれて、なんとか引き戸が閉められているといった感じだ。
私の頬が引きつるのを感じる。これはハンスさんが冒険者ギルドに依頼を出すわけだよ。よくもまぁこんなに詰め込んだね。
そんな感じでハンスを見るとハンスさんは苦笑い継続中だ。
しかし、せっかく私を指名してくれたのだ。気合いを入れて取り掛かりますか!
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