おじさん力を示す
「明日から仕事を始めるが、皆準備は出来てるね? 最短で日帰り、最長四日戻ってこないよ。完了後は最短でも二日は休んでから仕事に出る。目ぼしい依頼がなきゃソロなりペアで臨機応変に行くよ。場所はいつもの西の森の討伐依頼を優先する。ま、あたいらはいつも通りだね。
問題はゴンゾウだ。一人で大丈夫かい?」
「やってみないと、わかりませんが、まずはやってみます。無理だと判断したら、一度戻って、カエラさんとアンナさんに、相談します」
「エナ達が教えた通りにするッスよ。必ずギルドを通した依頼を受けるッス。知り合いでも個人的に依頼受けちゃ絶対にダメッス! 壁内で大荷物は要らないッスから持ち物も最小限にするッスよ!」
「エナさんは逃げられたことがあったらしいですぅ。ゴンゾウさん、慣れるまではギルド職員と依頼主以外の人とは、挨拶程度に止めて長話をしないようにしてくださいねぇ」
「そうね。冒険者ギルドの依頼中、仕事中って言えば大抵の人はギルドからの罰則や報復を恐れて引き下がるわ。それでも引き下がらない様なら、無視してギルド受付に逃げ込みなさい。あなたの力なら数人引き摺りながらでも行けるわ」
「ギルドで取り合ってもらえなかったら、ここに戻って来てくださいね。私は常にいますから、排除します。」
朝市に参加した翌日、全員での休日最終日の夕食後、皆が私を心配しながら声をかけてくれる。所々物騒な発言があるが、私のために言ってくれているのだ。
明日から私が本格的に冒険者として活動することで、気を付けることなどを皆に相談したら、誰かが補助に付こうかと提案されたのだが、それは断らせてもらった。
もちろん提案はとても嬉しかったし、冒険者の先輩に補助してもらえれば、確実に安全に依頼も達成できるし余計なトラブルなんかも起きない、慣れない私が最初から一人でやるなんぞ無謀や慢心だと自分でも思う。
しかし、その優しい提案を受け入れてしまうと、私がいつまでも独り立ち出来ず「春の風」のお荷物になると思う。別に高い志が有るわけじゃないが、私に補助に付けばその期間彼女達は収入も実績も稼げない。これ以上負担をかけたくないし、早く運搬限定ランクを上げて皆に貢献したいという、おじさんのわがままだ。
それでも皆から見て無謀だと思うなら補助をお願いしたいことを伝えると、ギルドを通した低ランクの荷運びや運搬などは、別の町に移動するような依頼でもない限り問題はないだろうということで、運搬限定Cランクに上がるまでは私の修行も兼ねて、一人で冒険者の仕事をすることになった。
そんなやり取りがあった翌日。
日が昇りきったばかりの早朝に、武器防具だけ装備した私を含めた「春の風」の五人で冒険者ギルドに来ているのだが、セイランさんとエナさんがニヤニヤしている。なんだ?
五人でギルドの受付まで行き、セイランさんが受付の女性と話しているのを見ながら、四人とは数日はお別れかぁと思っていると少し待つようにアイリーンさんから言われる。
セイランさんが受付の女性と話終わった直後、
「お前らおはよう! 前置きはいいか! 面白いもん見せてやるから時間がある奴は修練場まで来な! すぐに終わるよ! ジス! 前金で報酬渡すから手伝っておくれ!」
「なんだよセイラン。朝っぱらから……」
セイランさんが突然ギルド内に響き渡る大声で注目を集め、黒いローブを着た中年男性の冒険者に呼び掛ける。
何が起きているかわからないまま、皆に冒険者ギルドの中庭のような場所に連れて行かれると、地面がむき出しの小さい体育館ほどのスペースだった。ここがセイランさんが言っていた修練場なのだろうか。
「ジス、中央にうんと硬い背丈程度の石柱を出しとくれ。報酬はこれな」
「本当になんなんだよ……まぁそれだけなら報酬はいらん。今度奢れ、片付けは手伝わんからな」
報酬を断ったジスと呼ばれた冒険者が、修練場の中央で手をかざすと周囲の土が盛り上がって変質し、セイランさんの身長ほどの石の柱が出来上がる。魔法か魔術かわからんがあんなこともできるのか!
その頃にはギルド内にいた冒険者の半数以上が、修練場の中央を囲むように群がりこちらを見ている。本当になにが起きてるのさ。
「ジス、ありがとよ。ゴンゾウ! この石柱を素手で壊しな! やり方は任せるよ」
セイランさんが私の肩を叩きながら片目をつぶる。
その言葉を聞いた周囲で見守っていた冒険者は、
「素手?」「今、素手って言ったよな?」「素手は無理」「出来んことはないが、あの細い野郎じゃ無理だろうな」「身体強化得意でも限度があんぞ」「だれだれ?」「春の風ってパーティーよ」「最近見ないと思ったが朝からなにやってんだ」「あいつ手袋もしてねぇぞ」「やめなよセイラン怪我するって」「エナたんかわいい」
好き勝手なことを言いながら、周囲の冒険者がざわつき始める……変なやつ混ざってない?
セイランさんのやりたいことがわかった。これは私のアピールだ。ここで力を示して私を認めさせるための催しだろう。
セイランさんとエナさんはまだニヤニヤしているし、アイリーンさんとリジーさんも微笑んでいる。四人は私のことを微塵も疑っていない。
嗚呼。四人が私なら造作もないと、私なら出来ると信じてくれるなら、借り物のパワーでもなんでも使ってやってやるさ。
パワーで解決できることなら、なんだってできる。
四人の信頼に胸が熱くなる。頷きを返して石柱に向かう。
石柱の前に仁王立ちし、両手で石柱を抱きしめる。良し、手は届く。
周囲から「なにしてんだ」「殴れよ」「怪我するぞ」など野次が飛ぶが無視。
力を込めて石柱を根元で折り、抱え上げて肩に担ぐ。
地面に足をめり込ませて、周囲に見せつけるように歩く。
今度は周囲から「おぉ!」と歓声が沸き起こる。反応に困るが会釈を返す。
中央に戻り、担ぎ上げた石柱を両腕に一気に力を込めて砕き折る。
「こいつがあたいら春の風の新メンバーで運搬担当のゴンゾウだ! 皆よろしく頼むよ!」
周囲から歓声が沸き起こる中で、セイランさんの大声が早朝の冒険者ギルドに響き渡った。
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