おじさんと武器防具屋
リビングに一日居座った翌日の朝食後。
やはり皆は過去を話したことなど毛ほども気にしていないのか、私を交えて普段通りに会話をしている。
気にしすぎるのも悪いと思いつつ会話に参加していると、
「あたいは今日ボブの店に顔出しも兼ねて、装備を点検に出そうかと思ってんだが、皆はどうする?」
「ボブさんのお店には二ヶ月以上行ってませんでしたねぇ。私も一緒に行きますぅ」
「エナも短剣見てもらいたいッスね。ゴンゾウ見てたら投擲も良いかなって思ったッスから、相談してみたいッス」
「ボブのお店に最後に寄ってからもう二ヶ月以上……三ヶ月近くは経つのかしら。ゴンゾウも一緒に行きましょう。あなたの装備も相談した方が良いわ」
ボブさんとはパーティーハウスに通いで家政婦をしているアンナさんの夫で、アンナさんと同じく「春の風」に所属していた元冒険者だ。
アンナさんと結婚後、お子さんが出来たことで夫婦で冒険者を引退し、ボブさんの父親がやっていた武器防具屋を継ぎ、現在は店主をやっていると昨日アンナさんから聞いている。
現在の私の装備は「春の風」の四人がタイゴンで揃えてくれた、肘や膝を革で補強した作業着、くるぶしまで完全に覆う頑丈な革のブーツ、ノースリーブシャツのような肩が出ている焦げ茶色の軽装革鎧、腕と脛には革に鉄板を組み合わせた具足、武器として巨大シールドボアの牙の大小。
それと防災用具として車に積んでいたヘルメット。
武器は牙をそのまま使っているので、持ちやすい物があれば換えたいのだが、防具まで相談する必要があるのだろうか? あ、ヘルメットは地球の記念品として取っておきたい。
防具は四人に揃えてもらった物だから愛着もあり、壊れてもいないからこのままでもいいんじゃないかと思っていたのだが、
「ダメよ。革鎧は換えた方が良いわ。変な物は渡していないけど、ゴンゾウが直接見てもらった鎧じゃないし、私達もボブさんの店で買うまでの繋ぎとして考えていたから、ゴンゾウの革鎧は鎧の中でも安いのよ」
アイリーンさんにそう言われたなら、鎧を相談するしかないよね。私には武器防具の良し悪しはわからないから。
「なんだなんだお前ら、朝っぱらからぞろぞろとフルメンバーで来てどうした。あ? そういやもう三ヶ月も経つのか。お前らがそんなに長いことここを離れるなんて珍しいな。
ん? 一緒にいる細い野郎は初めて見る顔だな。……運搬担当だ? まぁいい、とりあえず中に入れ」
店先で扉を拭き掃除していたボブさんは、四十代後半程だろうか。身長は私より少し高い程度だが、筋肉の厚みが違いすぎる。
半袖から出ている腕は丸太を思わせる太さで、胸板も厚い。日焼けした全身と剃り上げたスキンヘッドも相まってボディビルダーのようだ。
「稀人で、その細い体でセイランより力も体力もあって、パーティーの運搬担当として勧誘した、ねぇ。……怪しすぎるわ! お前らが納得してるってんなら口出しはしねぇが、これだけは言わせろ。ゴンゾウだったな。お前こいつらの信頼を裏切るようなことするんじゃねぇぞ」
「怪しいことは、わかっています。それでも四人は、命の恩人です。裏切るようなこと、不義理なことは、絶対にしない」
ボブさんの仰る通り、私は「春の風」の女性四人を知っている人が見たら怪しすぎるんだよなぁ。「春の風」の先輩のボブさんからしたら四人はかわいい後輩だ。心配もするよね。
まぁそんなのはわかっていたことだ、私は誰にどう思われようと、四人を裏切ることは絶対にしないと決めている。
しかし、ボブさんの風貌で凄まれると威圧感と迫力がすごいな。目が怖いって! 眼光で人を倒せそうだよ。
「そうかい、期待してるぜゴンゾウ。で? フルメンバーで来たのは紹介のためだけじゃねぇだろ。装備の点検か?」
「ああそうだよボブ。ちょいとゴンゾウのおかげで、かなり稼がせてもらったんだ。あたいら全員の装備の点検と整備、ゴンゾウの装備を見繕ってもらおうと思ってね」
「エナは投擲も良いかなって思ったから、投擲武器も見たいッス。ボブさんなんかいいのないッスか?」
「ゴンゾウさんが遠征では荷物を持ってくれますから、もっと丈夫な盾でもいいのでしょうかぁ。ボブさん盾を見せてくださいぃ」
「私はこの剣と槍を長く使っているから、状態をボブが見て替え時なら新調した方がいいかしらね。どう? ボブ」
「この鎧は、やめた方が、いいと皆さんに、言われました。鎧を見て、ほしいのですが、運搬に適した、鎧がいいです」
「だぁぁ! 待て待て! 五人で一気に喋るな! 今日は親父が弟子連れてっちまったから、俺一人なんだよ。一人ずつだ、一人ずつ! ゴンゾウおめぇまで、なんで息ぴったり合わせてんだよ!」
そんな感じで全員の装備の点検と整備と新調、私の装備を見繕ってもらうことになったのだが、予算はどうなってるんだろう?
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