おじさんリビングに居座る
「みんなおはよう! あらエナはまた寝起きでなにも整えないでいるのかい? こっちにおいで!」
「アンナさん!? これから……待って! 自分でできるッスよぉぉ……」
朝食を食べ終わり、皆でキッチンに食器を下げてから食休みを兼ねて談笑していると、もう一人の家政婦をしてくれている茶髪ポニーテールのアンナさんが訪問してきた。
アンナさんはあいさつ直後に、まだ寝起きのままポニーテールを解いて寝癖でボサボサになっているエナさんを発見すると、強制連行していった。
アンナさんもエナさんを簡単に捕まえて軽々と連行できることから、元冒険者は伊達ではないんだなぁと思いながら、なにか喚きながら連れていかれるエナさんを見送る。
「アンナさんはエナさんがお気に入りですからね。では、私も洗い物など家事をしてきますから、皆さんはゆっくり休んでください。ゴンゾウさん。ここでわからないことがあったら、誰でも良いですから聞いてくださいね」
微笑みながらカエラさんはそう言い残して、キッチンに向かっていく。
「よっし。エナは連れてかれちまったがすぐ戻ってくるだろ。アイリーン、リジー、ゴンゾウ、今日はこのあと予定があるかい?」
「私は無いわね。今日は一日体を休めるつもりよ」
「私も一日お休みしますぅ」
「オレも、予定はないです。でも、出来れば皆と、話をしたい。常識が違うことで、問題が発生したら、大変ですから」
「さっきはそれで酸っぱい経験をしたからね。わかったよ。エナには後で確認するとしてだ、ゴンゾウあんたはまったく疲れてないだろう? あたいらはあんたほど頑丈じゃないから休ませてもらうが、ゴンゾウは今日リビングにずっといるってのはどうだい? 誰かしらは来るだろうし、アンナやカエラとも交流できるよ」
セイランさんが笑いながら提案してくれたことは、私には願ったり叶ったりだ。こちらからお願いしたいことなので、遠慮なく今日はリビングに居座らせてもらおう。
今後お世話になるアンナさんとカエラさんとも仲良くしたいので、手伝えることがあったら手伝いながら交流するのもいいかもしれない。
さっぱりしたエナさんが若干疲れた様子でアンナさんと戻ってきたので、今日は皆が一日休むこと、私がリビングに居座ることをアンナやカエラさんも含めて全員で共有し一度解散することになった。
セイランさん、アイリーンさん、リジーさん、エナさんは自室に戻り、カエラさんとアンナさんは分担して家事を行っている。
リビングには私が残り、まだリビングの隅に鎮座している私用の大きいリュックの中を整理したり、道具の点検と掃除をする。
皆が休むと言っていたし今日は暇になるかなと思っていたが、皆も暇なのか気を利かせているのか、入れ替わり立ち替わり話し相手になってくれてリビングで私が一人になることはなかった。
他愛ない雑談から、地球とこちらの世界の違い、地球での私の生活や皆の冒険者になった理由や過去の話など、話題が尽きることはなく、昼食後には私を含めた「春の風」メンバー五人揃って夕食まで話に花を咲かせ、アンナさんやカエラさんも家事の区切りや昼食後に参加してくれる。
そこで知った皆の冒険者になった理由や過去は、重い話に軽い話、笑える話と本人は笑っているがまったく笑えない話と、まさに十人十色。
皆の経験談から伝わる、この世界での命の軽さ。
それでも一生懸命に生きてきた一人一人の人生。
命を賭け札に生きている冒険者だからこそ、この世界でも濃厚な人生だと思うのだが圧倒されてしまいそうになる。
しり込みしそうになる度に、皆から気にするな。ゴンゾウはそのままでいい。無理をするな。しょうがないから守ってやるッス。と暖かい声をかけてもらう、アンナさん以外は私よりも年若い皆にここまで励まされれば、自然と心が奮い立つようだった。
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