おじさんの部屋
「いい雰囲気のところ申し訳ありませんが、もう休みなさい。暗くなって時間も経ちましたよ」
カエラさんの声に私とアイリーンさんの肩が同時に跳ねる。
素早く身を離したアイリーンさんが席に座り直すと、どうやら私とアイリーンさんは手を握りあったまま、セイランさん、リジーさん、エナさん、カエラさんに生暖かい視線を向けられていたらしい。
さっきまでの心配するような少し暗い雰囲気ではなく、「なにやってんだこいつら」といった呆れた雰囲気を四人は纏っていた。
「私はもう休むわ! おやすみなさい!」
アイリーンさん逃げないでよ! ……もういないし。どうするよこの空気。私には逃げ込む部屋のあてがないんだよ?
「ゴンゾウも大丈夫みたいだし、あたいらも寝るかね。あんなに必死に訴えたのに、アイリーンに手を握られたらコロッと表情変えやがって。これだから男ってやつは」
「はいゴンゾウ。エナも手を握ってやるッスよ。どうッスか。……なんで頭撫でるッスか? まぁいいッス。ゴンゾウも早く寝るッスよ」
「ふふふ、やっぱりゴンゾウさんは面白い人ですねぇ。アイリーンさんも仰っていましたが、これからいっぱいお話ししましょうねぇ。稀人の世界の話をもっと詳しく聞きたいですぅ」
セイランさんが呆れた表情で呆れた視線を私に向けて、頭をかきながらリビングを出ていく。あ、ため息ついた。
エナさんは私を心配して手を握ってくれたのだが、その純心無垢な心遣いが嬉しくて、思わず小さい頃妹にしたように頭を撫でてしまうが、気にしていないようだ。セクハラにならなくて良かったよ。
リジーさんはエナさんの頭を撫でる私を楽しそうに眺め、言葉を残して私の腕を数度優しく叩いてから、エナさんとリビングを出ていった。
「それではゴンゾウさん。空き部屋に案内しますね。荷物は明日片付けましょう。こちらですよ。一階は全て共有スペースになっています。トイレはそこです。二階三階に狭いですが個室があります。細かいことは生活しながら覚えてくださいね」
リビングに残った私にカエラさんが声をかけて、二階に誘導しながら軽く教えてくれる。
「ゴンゾウさんはこちらの部屋を使ってください。大丈夫だとは思いますが、夜這いは同意を得てくださいね?」
「夜這い? 夜這いとは、何ですか? わからない単語が、まだまだ多いです」
「あらそうでしたね。……男性はあなただけですから、二階と三階の部屋に許可なく入らないでくださいね。明日は遅くなっても構いませんから、起きたらリビングに来てください」
「わかりました。ありがとうございます」
「他には何かありませんか?」
「いえ今は、なにもないと、思います。ありがとうございます」
「やっぱりまだ言葉に慣れないのか、堅い口調ですね。これから慣れていきましょうね。では、おやすみなさい」
私もおやすみなさいと返し、カエラさんはまだ仕事があるのか一階に降りたので、部屋に入るか。
確かに狭い。入って左の壁は入り口の壁から部屋の突き当たりまで繋がった二段の棚。
右に私のヘソほどの高さのベッドがあり、ベッドの下も物が置けるようだ。部屋の突き当たりは木製の扉の窓がある。
棚とベッドで部屋はほぼ占有されており、部屋の縦長の中央スペースは一畳半くらいだろうか。狭いところが苦手な人は無理だろうなぁ。
でも、大木に開けた穴蔵で生活していた私には天国だ。ベッドで眠れて、食事だって出してくれる家政婦さんのいる生活。
遭難して絶望していた私に言っても、信じられないような幸運だろう。
このパーティーハウスに住むことを提案して、おじさんと住むことに抵抗を見せない皆に感謝しながら、ベッドに登って横になると、すぐに眠気が襲ってくる。
三日間の移動と野営、人を殺めたストレスで精神的に疲れた。
明日からどうしようか。しばらくは休みだと言っていたし、皆に相談してみよう。
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