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おじさんの吐露と狼狽

「次に私の視界に入ったら、刺し違えてでも全員殺す」


 静まり返ったリビングに穏やかな声色で、穏やかではない台詞が大きな声でもないのに響く。


 私達全員の肩が跳ね上がり、五人でキッチンへ振り向くとお盆を持ったカエラさんが出てくる。


「ごめんなさい。驚かせてしまいましたね。今のは最後に私が元夫家族に伝えたことです。彼らはアンゴンには近付かないでしょう。仮に来たときには……」


 そこで黙らないでもらえますかねぇ!?


 穏やかな笑み、穏やかな声、穏やかな佇まい。全く怖いことなどないのだが、冷や汗が流れる。


 穏やかな中から滲み出るような迫力は、経緯を聞いたことによる錯覚だろうか。


「カエラ、あんた気配消して脅かす機を見てたね? 趣味が悪いよ、まったく」


「全然気配なんか感じなかったッスよ!? っていうか怖いッス!」


「びっくりしましたぁ。もうカエラさんったらぁ」


「カエラさんあまり驚かせないでちょうだい。ゴンゾウが固まったじゃない」


「ごめんなさいね。話は変わりますが、この年齢で初めて人を殺したゴンゾウさんのフォローはしましたか? ゴンゾウさんのような人は内に溜め込みますよ」


 ハーブティを配りながら私を見るカエラさんの言葉に、私の肩が再度軽く跳ね上がる。会って半日も経っていないのに見透かされている?


 セイランさん達にわざわざ自分の過去を話させたのは、これを話すきっかけを作るためだったのだろうか。


 四人は心配そうに各々大丈夫かと声をかけてくれるのだが、一番の年長であるおじさんが、年若い女性たちに心配をかけていることが情けないやら恥ずかしいやら。


 しかしこれだけ心配されて気づかってもらえるのに、心情を吐露しないのは失礼だろう。


「今まで、人と争ったり、ケンカもしなかった、人を殴ったことも、ないと話したと、思います。住んでいた国で、人殺しは、どんな理由があっても、罪が重い。子供の頃から、私達は、そう教育されます」


 一度吐き出してしまうと、止まらなかった。


 必死だったから、最初から盗賊の顔なんぞよく見ていなかった。それでも私の手で初めて人に危害を与えた。


 道中でセイランさんから、盗賊がいかに害悪でどうしようもない存在だと説明してもらい気持ちは軽くなった。


 カエラさんの衝撃の過去に驚いて忘れかけていた。


 それでも胸と腹のむかつきは完全に晴れていない。


 私や私の大切な人ではない人間がどうなろうと知ったことじゃないと本気で思っているし、害意を向けられたのなら尚更だ。それでも心になにかが引っ掛かっている。


 そんなことをまだまだ流暢には話せない言葉で、たどたどしくも自分でも驚くくらい必死に伝えたように思う。



「フォローはできるし相談にものれる。でも完全に晴らしてあげることはできないよ。今聞いたことだけでも、あたいらとは常識が違いすぎる。あんたが自分で折り合いを付けるんだ」


「ゴンゾウ! そんなに思い詰めていたなら相談するッスよ! 水くさいじゃないッスか! エナは先輩ッスよ! 頼るッス!」


「まぁまぁエナさん落ち着いてぇ。ここでゆっくりするまで、落ち着いて話せませんでしたからぁ。ゴンゾウさんを責めちゃいけませんよぉ」


「ゴンゾウ。あなたはそのままでいいと思う。あなたは殺すことに慣れてはいけないわ。でも私達の世界でそれは難しいわ。いっぱい悩みなさい。そして私達と話をしましょう。

 しばらくは休みなんだから、今まで落ち着いて出来なかった話をいっぱいしましょう。あなたのことも私のことも、私達四人とゴンゾウはもっとわかり合う必要があるわ」


 セイランさんはリーダーとして努めて厳しく聞こえることを言い、隣に座っているエナさんは怒りながら私の背中を叩き、リジーさんは加熱していくエナさんを落ち着かせながら心配そうに私を見る。


 向かいに座ったアイリーンさんが、テーブルから身を乗り出して手を伸ばし私の手を取って、真剣な表情で私に語りかけてくれる。


 真剣に語りかけてくれるアイリーンさんには非常に申し訳ないが、手を握られたことと見えそうな胸元に意識が向いてしまい、話に集中できない。


 アイリーンさんのような美人に手を握られることのない人生だったから、しょうがないね。


 盗賊を手にかけたことなど、皆に心配されアイリーンさんに手を握られることに比べれば、些細なことに思ってしまう。


 そんな現代日本では不謹慎極まりないことが、この世界では常識なんだろう。この世界で生きるには敵意殺意を向け、奪おうとしてくる相手にはこのくらい楽に、雑に考えた方がいいのかもしれない。


 などと心配してくれる皆には申し訳なく思いながら、心の引っ掛かりとこれからも付き合っていくかと、アイリーンさんに手を握られて狼狽えながら、かろうじて動いている頭で考えていた。


お読みいただきありがとうございます。


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