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おじさんと家政婦さん

 黒髪お団子ヘアのカエラさんは私達と夕食を共にしたが、茶髪ポニーテールのアンナさんは夕食の配膳が終わると「また明日!」と言い残し出ていってしまった。


「あぁ、アンナは結婚していて旦那と住んでるんだよ。ここには通いだね」


 セイランさんが言うには、アンナさん夫婦は「春の風」で出会い共に冒険者を経て現役時に結婚し、子供ができると共に夫婦で冒険者を引退、今はお子さんも一人立ちして余裕があることから元々愛着のあった「春の風」のパーティーハウスで家政婦をやってくれている。もちろん適正な報酬を払ってだ。


 もっと詳しく知りたいなら本人に聞くといいと言われるが、根掘り葉掘り聞く趣味は持ってないよセイランさん。


 アンナさんの旦那さんは武器防具を扱う店をやっており、後日、私の装備の相談で行くらしい。


「アンナさんはいい旦那を見つけましたからね。彼ならアンナさんを私のようにはしませんよ。……あら? どうしたのみんな黙って? 私はもう気にしていないのだから笑うところよ」


 カエラさんの一言で空気が固まったんだけど、どうした?


「笑えねぇよ」という心の声が聞こえてきそうなセイランさんとアイリーンさんとリジーさん。


 エナさんは私と同じでなんのことかわからないのか、不思議そうな顔をしている。


 何か触れちゃいけないことでもあるのだろうか。


「カエラさん、ゴンゾウさんに伝えてもぉ?」


「いい機会ですから、あなたたちからゴンゾウさんとエナさんに詳しく説明してあげてください。私は洗い物もありますし、明日の準備もありますからね」


 エナさんも知らないとか、なにか不穏な空気を感じるぞ。


「なんで私達が……って、行っちゃったわ。もうしょうがないわね。ゴンゾウ、この家も土地も元はパーティーメンバーの物だったって話は覚えている?」


「はい、アイリーンさん、結婚して、アンゴンを離れるから、当時のパーティーに、売って改築したと。もしかして、カエラさんが?」


「あらぁ。カエラさん説明が面倒になった感じですねぇ。そうなんですぅ。カエラさんがそのメンバーなんですよぉ。離婚して戻ってきてから、ずっとここに住み込みで家政婦さんをしていますぅ」


「カエラさんは結婚して夫の実家がある町に移住して、離婚して戻ってきた。くらいにしかエナも知らないッスけど……何かあったんッスか?」


「あぁ、何て言ったらいいかねぇ。あたいも知ってるが元夫は悪いやつじゃ……いや悪いか? ま、問題は母親だね。元名家だか先祖が貴族だかで、かなり拗らせているらしくてね。ひどい扱いを受けたらしいんだ。ただの一般人なんだがね」


 セイランさん、アイリーンさん、リジーさんが難しい顔をして説明するのを、私とエナさんがなんとも言えない変な顔で聞いているのだが、異世界でも嫁姑問題は変わらずあるものなんだなぁ。



 カエラさんは「春の風」に所属する元冒険者で、Bランクに昇格も間近の「Cランク冒険者」だった。


 ここアンゴンで衛兵をしていた元夫と知り合い、交際期間を経てから結婚。


 結婚と同時期に衛兵の元夫が昇進して、実家のある別の町に衛兵隊長として異動が決定してしまう。


 親族を亡くして一人でここに住んでいたカエラさんは悩んだが、一人ではもて余していたこともあり、元夫と一緒に移住することを決断して土地ごと家を「春の風」に売る。


 しかし移住した町で待っていたのは甘い新婚生活ではなく、義母からの苛烈極まるイジメ。義父は我関せず。昇進したばかりの元夫は業務に忙殺されてほとんど家に帰ってこず、帰ってきても疲れから取り合ってくれない。


 元夫が新任隊長ということもあって、負担をかけないようにとカエラさんは結婚から二年間、元夫からのフォローが一切ない状態で我慢の生活を続けた。


 同時にBランク目前の「Cランク冒険者」の潜伏期間でもあった。


 最悪な新婚生活が二年を過ぎた頃、カエラさんの堪忍袋の尾が切れる。


 当時二十名以上のメンバーを抱え、近隣では最大規模の人里であるアンゴンで最上位の評価を受けていた冒険者パーティー「春の風」所属、Bランク目前の「Cランク冒険者」が一般家庭で本気でキレる。怖くて想像したくない。


 能力をフル活用して、潜伏期間中に周囲にも入念な根回しを行っており、元夫と義両親が泣いて謝っても許さず、連日気絶するまで肉体的精神的に追い込んだらしい。


 離婚の根回しも完璧なカエラさんは憔悴した元夫と簡単に離婚、実家を売却したお金全てと、元夫宅の財産の五割を持ってアンゴンへ戻り、事情を聞いた当時の「春の風」に元自宅に迎えられる。


 当時の一部メンバーや仲の良い冒険者が激怒して五割も財産を残したカエラさんは甘すぎる、殴り込みに行くぞ! と興奮するのをなだめるのは大変だったと、懐かしそうにセイランさんが語る。

 

 元自宅の売却金と元夫宅の財産の半分、微々たるものだが「春の風」から渡される家賃で、カエラさんは冒険者として命を賭ける必要がなくなり、家政婦兼管理人を元のメンバーから頼まれたこともあり、今に至る。


 全力を出したカエラさんの入念な根回しは近所や商店街はもちろん、元夫にバレないように冒険者ギルドを通じて衛兵隊にも及び、離婚の届け出も正式に受理されている。


 衛兵隊長である元夫と元義両親もどこに相談しても夫婦喧嘩、家庭内不和として扱われ、家庭の事情を持ってくるなと門前払い。それ以降どうなったかはカエラさんも知らない。というのが十年前にあった。



 三人の話が終わって静寂がリビングを包み込む。当時を知っている主な説明をしてくれたセイランさんは疲れた表情だが懐かしそうにしている。


 アイリーンさんとリジーさんは疲れた表情をしている。私も同じ表情だろう。どういうリアクションしたらいいんだよ。


 エナさんは……呆気にとられた表情で、口を半開きにしたまま呆然としている。


 気持ちはわかるけど、お口閉じなさい。


 

お読みいただきありがとうございます。


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