おじさんの食事情
セイランさん、アイリーンさん、リジーさん、エナさん、そして私の「春の風」五人が揃い、皆が席に着きやっと落ち着いたような気がする。
「カエラさんとアンナさんが夕食準備してるらしいッスから、もうすぐじゃないッスか? あとゴンゾウが緊張してるッス」
エナさんが笑いながら私を見る。緊張するなって方が無理では?
「助かるわ。今日はもう着替えちゃったから外食で外に出たくないもの。なんで緊張してるのよゴンゾウ?」
「アイリーンさん、オレは人の家に、泊まったことが、ありません。慣れないし、男一人だよ? 緊張しますよ。本当に、ここに住んで、いいの?」
「やっぱりそうだろうと思いましたよぉ。ですから今日までゴンゾウさんには、ここで暮らしてもらうことを伝えなかったんですぅ」
「気にしなくていいよ。とは言ってもすぐには慣れないだろう? エナも最初はガチガチだったからね。それに比べりゃゴンゾウはまだマシだよ。徐々に慣れるさ」
「セイラン先輩!? なにバラしてるんッスか! ゴンゾウも笑うなッス!」
どうやら私がどういう反応をするかは読まれていたようだ。あんなに訳知り顔で先輩風を吹かせていたエナさんは、私より緊張していたのかよ。今のエナさんからは想像できなくて面白いな。
と五人で果実水を飲みながら談笑していると、奥のおそらくキッチンからアンナさんが呼びかけてきた。
「みんな待たせたね! 夕食の用意ができたよ。エナとリジーは運ぶの手伝っておくれ。あぁゴンゾウは立たなくていいよ。今日は緊張してるだろ? 気持ちだけ貰っとくから座って待ってな」
「お待たせしました。到着がずれるかもと思って食材が少なく、簡単なものになりましたが。それからセイランさん、今日は体を休めるためにも、お酒は一杯までです」
運ぶのを手伝うため席を立とうとしたところでアンナさんに止められ、カエラさんに先手を打たれたセイランさんが肩を落としている。アンナさんにも緊張が読まれているかぁ。セイランさんはドンマイ!
山盛りのマッシュポテトを主食に、同じく山盛りの肉野菜炒め、褐色のスープ、バナナを短くして横に太らせたような果物。
簡単ではあるのだろうけど、一人暮らしが長く食にこだわらなかった私には、手間をかけた家庭料理というだけで十分にご馳走だ。
肉野菜炒めは、塩で味付けされただけだが、野菜の甘味と香辛料の香りと辛味がアクセントになり食が進む。
褐色のスープは、色で戸惑ったが具材の色が溶け出しただけで、優しい味わいのミネストローネに近いだろうか。
丸いバナナのような果物は、少しだけ甘味が少ない気もするがバナナだった。マッシュポテトは、マッシュポテトだね。
今は初夏程度で熱帯というほど暑くもなく、湿度もそれほどでもない地域なのにバナナ? と思ったが、そういう植生なのかもしれないし、教えられたところでわかるとも思えないから考えても意味がないかな。
タイゴンで食べた食事も、今いただいている食事も、馴染みのない野菜や香辛料、牛豚鶏とも味も食感も違う肉、食べたことのない味付けなど、食文化の違いを感じるが美味しくいただけることに感謝だ。
日本食にこだわるような人なら大変だろうなと思うし、私だって日本食を食べたいが今の食事を美味しくいただけている。さらに旨いものを出せと料理ができない私が言うのは、この世界の食文化と何より作ってくれた人に失礼だろう。
それに優先順位を間違えちゃいけない。私は労力を食開発に割けるほど、器用でもなければ知識もない。簡単に死ぬかもしれない世界で、食べることが出来ているならそこにリソースは割くべきじゃない。
腕力があるだけのおじさんが、あれもこれもとやっていたら早死にしそうだ。パワーじゃどうにもならない。固いものも難なく噛み切り、噛み砕けるパワーには感謝しているけど。
この世界に完全に慣れて、生活も安定して、金銭に余裕が出来るようになったときには考えなくもないけど、そんな先のことを考える余裕は今はないかなぁ。
そんなことを考えながら黙々と食事をする。現役冒険者の四人も食事中はあまり話をしない。食後に食休みを兼ねて歓談するのが通常だ。
私も口数は少ないし、食事中にしゃべることはしないから助かる。こういうところでストレスを感じるとやっていけないんだろうなと思う。
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