おじさんアンゴンヘ到着
盗賊を倒したあと、リジーさんとエナさん、それから私が馬車の近くで警戒を続け、セイランさんとアイリーンさんが左右に別れてそれぞれ倒した盗賊を調べたり追い剥ぎをしている。あ、セイランさんが盗賊を草原に投げた。
「瞬く間に盗賊を倒してしまいましたね。流石と言いますか、やはり皆さんお強い。武器などは荷物になるでしょうから、よろしければ買い取りますよ」
「兄ちゃんの投石ヤバイな! 不格好だったが威力がとんでもねぇわ。長所で押し通すやり方好きだぜ」
「お怪我はありませんか……って返り血すら付いていない皆さんに聞くのは野暮ですね」
「あの盗賊はなにを考えて襲ってきたのでしょうか。私達九人ですよ? 六人でどうにかなると本気で思ったの?」
行商人の四人がそれぞれ労ってくれたり、感想を言ったりしている。一応警戒中のため私達は黙って会釈を返して、セイランさんとアイリーンさんを待っているとすぐに二人は戻ってきた。
「ゴンゾウ。街道を塞いでいるあの木を退かしてほしいんだけど……大丈夫?」
「アイリーンさん、ありがとう。たぶん大丈夫です。退かして、きますね」
アイリーンさんが少し心配そうに聞いてくるが、今のところ少し気分が優れない程度なので大丈夫だと思う。
倒木を持ち上げて草原に投げ込むと、行商人さん達から「おぉっ!」っと歓声が上がった。苦笑して頭を軽く下げてから、皆の元へ戻り再び隊列を組んですぐにアンゴンヘ向けて出発。
倒した盗賊はどうするのか。セイランさんが並走しながら説明してくれた。
盗賊の所持していた武器は隠し持っていたナイフも含めて、ゴブリンなど武器を持てる魔物や他の盗賊が持つと危険なので全て回収。今回の盗賊は防具は着ていなかったが、防具も同じ理由で剥ぎ取るらしい。
回収した武器は行商人さんが買い取ってくれたようで、依頼達成金と一緒に分配が決まっている。
現金や換金出来そうな物は回収するが、ここに出る盗賊はろくなものを持っていないことが多く、期待は出来ない。
今回の盗賊も武器以外は、衣服と食料くらいで回収したのは武器だけだ。
こいつらどうやって今まで生きてたんだよ。アンゴンの街から出稼ぎ盗賊でもやってんのか。
遺体は道中で倒した魔物と同様に草むらに投げ込んでおけば、魔物や動物が綺麗に処理する。
衛兵や対盗賊を得意とする冒険者は殺さずに捕縛し、奴隷として売るらしい。やっぱり奴隷制度あるんだなぁ。
盗賊の討伐依頼や賞金首でもないと倒しただけでは報酬は出ず、護衛など他の依頼中に出てくる盗賊は邪魔にしかならないため、盗賊に対する冒険者のヘイトは高いらしい。見敵即殺が基本とのことで、まるで害獣扱いだ。
たぶんセイランさんは私が初めての人殺しで思い詰めないように、盗賊が如何に迷惑な存在で魔物や害獣のように大袈裟に説明してくれているんだと思う。面倒見の良い、とても優しい人だから。
え? 大袈裟じゃないの? 魔物よりたちが悪い? そこまで言いますか。でも、ありがとうございます。胸や腹のむかつきが軽くなったようです。
「ゴンゾウ。あれがあたいらが拠点を置くアンゴンだ」
「あれが、アンゴンですか。すごい……」
昼休憩を挟んですぐに、街道の起伏が少し高くなっている小さな丘のような地点を通過していると、壁に囲まれた巨大な人里が視界に広がる。
あれが「春の風」が拠点にしているアンゴンの街……すごい。語彙力がなくなってしまうほどすごい。
広い人里をタイゴンと同じ暗い灰色の防壁が街の中心部と外周を二重に囲み、農地を守る一番外周の丸太の柵は、見える範囲でどこまでも続いているように見える。
防壁を掠めるように大きな川が流れ、その川を跨ぐ巨大な橋が川の向こうに続き、細い川がいくつか防壁を貫通して街中に入っている。
近くには森が広がり、森の奥、遠方には山脈が広がっている。あの山々から大きな川が流れてきているようだ。
これだけの規模の人里を作り、巨大で途切れることのない防壁で囲み、何百年もしかしたら千年以上人が営みを続けてきたのだろうか。
そう思うと心の底からじわじわと熱が這い上がってくるようだ。今もなお続く異世界の歴史的構造物のほぼ全体が広く見渡せたことで、感動で腕に鳥肌が立っている。
丸太の柵を通過して、タイゴンの町でも見た防壁が私たちを迎え入れる。
こうして私は「春の風」が拠点を置いている、アンゴンヘと到着した。
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