おじさん盗賊と遭遇
「大人しく積み荷を置いていけ!」
「女もいるじゃねぇか! 上玉だ!」
「おい! そこの荷物背負ったおっさん動くんじゃねぇ! てめぇの荷物も置いていけ!」
二ヶ所目の休憩所でも夜を明かし、後はアンゴンヘ到着するのみとなった移動三日目のそろそろお昼休憩かといった頃に、私達は六人の盗賊に襲われ威嚇されている。
こいつら本当に出てきたよ。ちくしょう! 殺ってやらぁ!
時間は少し遡る。
二ヶ所目の休憩所を出る早朝に、行商人さんも交えてセイランさんから注意が促された。
「なにもなきゃ今日の日暮れ前にはアンゴンヘ到着できるんだが、一ヶ所バカが集まる地点がある。街道から森が近くなるって言っても距離はあるんだが、その辺りは冒険者の間じゃバカがバカをやる地点として有名だ。行商人のあんた方は知ってたかい?」
「ええ、知っていますよ。盗賊が出やすい場所のことですよね? 頻繁に盗賊が出る有名なところですね。何度か遭遇したこともありますよ。被害はありませんでしたが」
「アンゴンに近ぇし隠れられる森も近ぇから、噂を集めることもしない考えなしがそこに集まるって話だな。商人の間でも有名だぜ」
行商人の男性二人が答え、女性二人も知っていると相槌を打っている。そんなに有名な場所があるのか。
「そうそこだね。隠れやすい地形だと思ってんだろうが、アンゴンに近いからすぐに討伐されるし、定期的にそこの盗賊関連の依頼も冒険者ギルドに出るんだ。
有名な場所なんだが、その程度の情報も集めないバカが勝手に集まるから、冒険者ギルドも衛兵もやり易いって放置してんだよ。実際被害は出てないからね」
散々な言われようである。まるで天然の盗賊用の罠のようだが、警察機関や冒険者ギルドはそういった輩が集まるポイントがあると、変に散らばっているよりやり易いのは想像できる。
今まで通りに進むが、その地点は盗賊が出ることが予想できるから気を付けるように、と言われて休憩所を出発したのだが私はどうしようか。
と考えて歩を進めていると、同じく殿にいるセイランさんから問いかけられる。
「ゴンゾウはどうする? 盗賊が出てきたら殺ってみるかい?」
「悩んでいます。今まで一度も、人と争ったこと、人を殺したこと、ないです。オレに、できるでしょうか」
「絶対に大丈夫とは言えないね。でも、冒険者としてやっていくなら必ず通る道だよ。今回は予測できるが、突発で盗賊に遭遇したときに経験が一度もないってのは危険だ。
それを踏まえてだ。ゴンゾウ、覚悟が決まらないって言うなら今回はやめとくかい? あんたは荷物持ちだ。無理しなくていいよ」
「覚悟は、出来ていません。取り乱す、かもしれない。……でも、やらせてください。殺らなければ、殺られる、怖いです。オレのせいで、みんながケガする、殺される、もっともっと、怖いです。それはダメだ。絶対にダメだ」
セイランさんに答えるうちに、アイリーンさん、セイランさん、リジーさん、エナさんが殺されることを想像してしまった。
それだけは絶対にダメだ。殺らなきゃ殺られるなら、殺ってやる。
「いい顔つきだ。ありがとうよゴンゾウ、あんたは優しい男だね。……十人以上なら、あんたは背負ってる荷物を盾にして後ろの馬車の商人を守るんだ。もしも、あたいらを抜けた盗賊が近づいたら、荷物を盾にして抑えるだけでいい。すぐにあたいかアイリーンが助ける。
十人より少ないなら、あたいと一緒に行動するよ。やることは単純だ。合図したら盗賊しかいない方向に、砕いた石を全力で二回ばらまくだけでいい、後はあたいがやる。道中で手頃な石を拾うから持っておきな」
そう言い残してセイランさんは、馬車の左右を護衛するリジーさんとエナさん、先行するアイリーンの元へ駆ける。
おそらく私が参戦することと、それによる対応を伝えに行ったのだろう。
街道から距離はあるが、進行方向の右側に森が広がっている場所を通っていると、通行を邪魔するように倒木が街道に転がっていた。
隊列はそのままに馬車を停めると、街道の左右の草むらから馬車を挟むように、剣や槍、ナイフを抜いてこちらに向けたみすぼらしい男達が三人ずつ出てきた。
弓などの遠距離を狙うような盗賊はいないようだ。なにか喚いているようだが……
私はそれどころじゃないんだよ! 本当に出てきたよこいつら! なんで出てくるんだよ! ちくしょう! 殺ってやらぁ!
殿にいた私とセイランさんはエナさんの方へ向かう。リジーさんの方へはアイリーンさんが駆けていくのが見えた。
「ゴンゾウ! やれっ!」
セイランさんの合図が出され、セイランさんに渡されて両手に握っていた拳ほどの石を砕く。
これを外したら私もみんなも殺されると思いながら、全力で盗賊へ向かって砕いた石を投げ付ける。
一投目、正面から直撃した盗賊が一人、血しぶきを上げて転がる。
さっきまで喚いていた盗賊二人が静まるのを見てキレた。
呆然としてんじゃねぇよ! こっちは必死でやってんだぞ! 遊びじゃないんだ!
二投目、振りかぶった私を見て盗賊の一人は両手で防御したが、防御の上から血しぶきを上げて転がる。
「エナ!」
「ッス!」
セイランさんが、呆気にとられている一人だけ残った盗賊に、一瞬で肉薄し片手斧で叩き切る。
エナさんは投石を受けた二人の盗賊に、それぞれ短剣を刺し込んで止めを指す。
こちら側の盗賊は討伐されたのだが、セイランさんもエナさんも速すぎませんかね。投石終わって一呼吸ほどで終わらせたよこの二人。
「ゴンゾウ、大丈夫だった?」
声をかけられ振り向くと、アイリーンさんとリジーさんがこちらに来ていた。あれ? そっちにも三人盗賊いなかった? もう終わったんですか。増援の心配もない? え、索敵まで終わらせたんですか?
こうして私の覚悟というか気合いの割りに、呆気なく盗賊討伐は終わったのだった。
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