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おじさんと魔石

 休憩所の壁内でも完全に安全ではないため、行商人さんも交え二交代で夜を明かす。

 

 日が落ちてからは行商人の男性と女性が一人ずつ各馬車の荷台に体をねじ込むようにして休んでいる。


 起きている二人は、八の字に並べた馬車の御者台に座り寝ている人を起こさないように、小声で話しているようだ。


 私達「春の風」は、八の字に停められた馬車の間に天幕を小さく張り、アイリーンさんとリジーさんが先に休み、セイランさんとエナさんと私が夜警についている。


 セイランさんは馬車の左側後方に座り、エナさんと私はペアで馬車の右側後方に座っている。


 馬車前方を行商人さん、それ以外を私たちで警戒する形だ。 


 街道の休憩所は日が完全に落ちると、入り口の門が閉められ門と建物、井戸など各所に灯りが灯される。


 光は弱く薄暗い程度で全く眩しくはないが馬車周辺が明るくなり、警戒もしやすくなった。


 できるだけ暗がりの死角が無いように馬車を停められる場所を選べるから、早い到着に行商人さんは喜んでいたのかな。



 電球のような見慣れた光だったので今まで全く注意が向かなかったが、野外で見ると違和感があってやっと気が付いた。タイゴンにもあったなあの灯り。


 松明や提灯のように火を灯しているわけでは無さそうだけど、この文明で電球のような光が私には不自然に感じる。


「どうしたッスかゴンゾウ。灯りを不思議そうに見て、なにか気になることでもあったッス?」


 灯りを見て不思議そうにしている私が気になったのか、エナさんが小声で問いかけてきたので、私も小声で聞いてみる。


「あの灯りは、どうやって、光ってるか、考えてました。火じゃない。なにあれ?」


「どうやってって、難しいこと考えるッスね。魔石を使った灯りを灯す道具ッス。タイゴンにもあったじゃないッスか」


「魔石? なにそれ?」


「魔石を知らないッスかぁ。なにって言われても……ほら、魔物から取り出した石みたいなやつッスよ。あれッス」


「魔物の解体は、シールドボアしか、やってない。他は……エナさん達、しっかり解体、してました?」


「そういやゴンゾウが同行してるときは、調査と移動でしっかり解体ってしてないッスね。牙とか角とか高額な部分を剥ぎ取っただけだったッス。

 うぅん……魔石がなにかッスか。当たり前にあるものだから、気にしたことなかったッスね」


 ちょっと待ってるッスと言い残してセイランさんのところへ向かい、なにやら話しているエナさんとセイランさん。二人で戻ってきたな。


「エナは右、ゴンゾウは後方を見てな。あたいが左を見る。よし。で? 稀人の所じゃ魔石を使わないのかい?」


 三人で間隔を開け背中合わせになってから、セイランさんが小声で問いかけてくる。


「魔石は、見たこと、聞いたこと、ないです。向こうでは、違う方法で、火じゃない、灯りを灯します」


 セイランさんに地球にも同じような光る道具があり、似ている光だったので野外で見るまで違和感を感じなかったことを伝える。


「魔石ってのは魔物や動物、あたいら人間の体内にもある魔力を含んだ塊だよ。魔核とも呼ばれて人や動物のは石みたいに堅くはない、内臓の一部だね。鉱山から採れる魔力を多く含んだ結晶や鉱石もあるよ。

 よく使われるのは、魔物や鉱山から採れる硬い石みたいな塊だね。大きさや魔力の含有量は様々で、その魔石から魔力を抽出して道具に利用してるんだよ」


 セイランさんが言うには、魔石は灯りを灯すだけではなく、道具によっては、火を着ける、水を出すなど様々な効果がある。


 そういった魔石を使う道具は「魔道具」と呼ばれ、値段も庶民が買えるものから、城より高値が付くものまで幅広く、専門に作る職人や開発者もいる。


 また、含有魔力が少なくなったら術者が魔力を補充できるが、徐々に劣化して使えなくなる。


 電気のようなエネルギーなんだろうな。補充出来て劣化するとか電池みたいだ。


 セイランさんも専門的なことは詳しくないから、これ以上はリジーに聞いとくれと言って、元の場所に戻っていった。


「はえぇ。魔石っていろんな所に使われてたんッスねぇ」


「エナさんは、知らなかった、ですか?」


「知らなかったってより、気にしてなかったって感じッスね。知らなくても問題なかったッス。魔道具って壊れやすいから、冒険者ってあまり携帯して持たないッスよ」


 それだけ生活に魔石が密着しているのだろう。


 私だって発電方法の詳しいことなんて知らないし、スマートフォンや家電製品は使っていても、構造や理論なんか説明されたって理解できないことの方が多いだろう。


 それにしても魔道具かぁ。見てみたいな。お金が貯まって余裕ができたら、買ってみるのも良いんじゃないかな。


お読みいただきありがとうございます。


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