おじさん休憩所での一幕
「日が暮れるにはまだ時間があるのに休憩所に到着できたのは、流石Bランク冒険者さんが率いるパーティーですね。私共は野営場所を確保したら商談に向かいますので、セイランさん同行をお願いできますか?」
「大荷物背負った兄ちゃん、あんたすごいなぁ。まだまだ余裕そうな顔してるじゃないか」
街道の途中にある休憩所は砦のようだった。
周囲を丸太や石で作った隙間のない壁で囲い出入口は一ヶ所のみ。
壁内はとても広く竈や井戸などがあり、天幕を張って野営している冒険者のような人や、馬車を囲んで設営している人もいる。
中央には石と煉瓦と木で作られた、大きな二階建ての冒険者ギルドに似た建物が建っていて、行商人の男性二人が建物に入っていく。
「ゴンゾウ。あの建物は宿屋と酒場と緊急避難所を兼ねているのよ。簡単な道具や保存食なんかも売っているわ。でも、基本は野営よ」
「あそこ売ってるもの全部高いんッスよねぇ。同じものでも町で買う倍くらいするッス。物資が足りなくなったら買うくらいッスね」
「しょうがないですよぉ。輸送にもお金かかりますからぁ。その代わり行商人さんが運んだ物が売れますからねぇ」
「護衛している、行商人さんも、ここで商売を?」
「ああそうだよ。町より高く売れるものもあるからね。道中で食肉にできる獲物を狩れば、町より高く買い取ってるよ。狩りの得意な冒険者は街道の休憩所を巡るのもいる。専属の狩人になることもあるね」
みんなに解説を受けながら、今日野営する所まで馬車を護衛しながら移動する。
「やっぱり皆さんのおかげで早く到着できたみたいですね。野営場所が選び放題です」
と行商人の女性が喜んでいる。
確かにタイゴンを出発するときは私達だけではなく他の隊商もいたけど、どんどん距離が離れていったな。大人数だと移動速度が落ちるのだろうか?
「いいゴンゾウ? 他の利用者には不干渉が原則よ。特に護衛しているときは、依頼主以外とは関わらないこと。知り合いがいても挨拶くらいにしないといけないわ」
「商人さん同士で商談することもありますが、私達は黙って護衛ですぅ」
「エナ達が護衛じゃなくても、相手の冒険者が護衛とか他の仕事してる場合もあるッスから、話しかけちゃダメッスよ」
「もし緊急事態があった場合は、大声で周囲に知らせるか、建物の中に報告したらいいよ」
なるほどなぁ。基本は不干渉だけれど臨機応変に対応しろってことか。壁内を利用している人は皆慣れているのか、良く見渡せば騒いでいる人もいないし、仲間内でしか話していないようだ。
以前にニュースで見たキャンプのルールみたいだね。こっちはもっと殺伐としてるけど。
私が背負っていた天幕セットの設営が終わって野営の準備は完了、焚き火は燃料がもったいないのでやらないようだ。気温も低くないので問題ないのかな。
セイランさんは商談に向かう行商人の男性二人の護衛として、建物の中に入っていった。その間に私達は交代で食事を済ませる。全員で一緒に食事をすると、何かあったときに即応できないからだそうだ。
食事はリジーさんが魔術で出してくれた水と、保存食を食べて終了。味気ないが遭難していたときに比べれば、水も食料も心配しなくていいからなんてことはないな。
残った全員が食事を済ませてロバの世話をしたり、武器や道具の点検をしているとセイランさんと行商人の男性二人が、一抱えはある木箱を持って戻ってきた。
「ゴンゾウ。あんたの出番だよ」
なんかやることあったっけ?
どうやら商談がまとまり、行商人の馬車から商品を中央の建物まで運ぶらしい。そういうことなら私の出番だな!
馬車から荷物を降ろすのを手伝い、行商人さんが木箱に塩や香辛料など壺や小箱を詰めて終えるのを待つ。
小麦などの嵩張るものは、休憩所と契約している大きな隊商が定期的に届けているらしいので、不定期な行商人は塩や香辛料などの他、休憩所で不足している小物を売るのが主流らしい。
「やっぱり兄ちゃんすげぇ力持ちだな! おれもこいつも持てんことはないが、持てるだけでそこから動けんのに平然と歩いとる。本当に今回はあんたたちに護衛受けてもらえて幸運だった!」
「そう言って、いただけると、ありがたいです」
「うちのゴンゾウはまだランクは低いが、運搬に関しちゃあたいらBランク冒険者でも勝てんほどさ。このくらい軽い軽い。な? ゴンゾウ」
「セイランさんが仰るなら相当な実力ですね。ここまでも一切疲労を感じさせていない……ゴンゾウさん、機会があれば直接依頼を出すかもしれません。そのときはよろしくお願いしますね」
商品が詰め込まれた木箱を抱えて、先行する行商人の男性と二人と、木箱を落としてもすぐ対応できるように横に着いてくれるセイランさん。
男性二人には驚かれて感心されて、仕事もいただけそうだ。たぶんセイランさんは、アンゴンで仕事が来るように私を売り込んでくれている。有り難いことだ。
木箱を落としたりぶつけたりしないように、気を引き締めよう。
木箱を建物の裏口まで運んで指定された台の上に置く。行商人の男性が休憩所の従業員らしき男性とやり取りして、ここでの商売は終了らしい。
うん。「春の風」の皆が言うように、私には戦闘よりもやはりこういう仕事がパワーも十分に生かせるし、性格的にも向いているようだ。
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