おじさんタイゴンを出る
移動日の早朝。
アンゴンへの移動連絡と、護衛依頼の確認のために冒険者ギルドに行くと、私の冒険者ランクが「Fランク(運搬限定E)」になった。
え? 限定ランクってこんなに早く上がるの? まだ一回しか依頼達成してないよ?
「限定Dまではこんなもんッス」エナさんありがとう。こんなもんなんだ。……緩くない?
「依頼達成率が低いと限定でもCに上がりにくくなりますよぉ」リジーさんありがとう。気を付けます。
そんなこともあったが、冒険者ギルドの前に私を含めた「春の風」と護衛の依頼を出した行商人の男女二名ずつの計九名が集まった。
行商に使っているであろう荷物が満載された馬車が二台、それぞれロバのような動物が一頭ずつ繋がれている。……ロバなんかでかくね?
ロバの実物は見たことないけど、体高が私より高いし足も太い。そういう種なのかな。
行商人の男女は四人とも見た目は三十代、それぞれ夫婦で行商しており毎回一緒に行動しているらしい。
「まさかBランクの冒険者さんが、私達の依頼を受けてくれるとは思いませんでしたよ。依頼料は冒険者ギルドに提示した金額でよろしいのですか? Bランクが率いるパーティーでは安いのでは」
「あぁその事かい。あたいらも一仕事終えてアンゴンに帰るところなんだ。ちょうど出発時間なんかも合致していたから、金額は関係ないのさ。
合致する依頼がなけりゃそのまま帰るつもりだったんだ。だからって手は抜かないから、安心しておくれ」
セイランさんが行商人の代表らしい男性と、会話をしながら握手している。
「あの、そちらの男性は大きな荷物を背負っていますが大丈夫ですか? 私達の荷台には空きがなくて、お載せできないのですが」
行商人の女性が心配してくれるのだが、荷物が詰まった大きなリュック程度なら重りにもならない。やはりパワーが解決してくれる。
「大丈夫ですよぉ。彼、ゴンゾウさんは優秀な運搬要員ですから、むしろ荷物の少ない私達が遅れないように気を付けないといけないくらいなんですぅ」
「そりゃすごい人もいたもんだ! よろしくな兄ちゃん!」
「ありがとうございます。ご迷惑、かけないように、がんばります」
「ゴンゾウ。そんなに固くならなくても大丈夫よ。あなたは調査依頼のように私達に着いてくれば良いのよ。警戒は私達がやるから荷物お願いね」
「そうッスよ。何かあったらエナ先輩が助けてやるッスから、ゴンゾウはしっかり着いてくるッス!」
そんな感じで移動を開始した。
縦列になった馬車二台の前方にアイリーンさんが先行、左右にリジーさんとエナさん、殿にセイランさんと私だが、私はなにもすることがない。
遠くには山々が見え、視界の端には森が見える。
穏やかな起伏がある草原に、馬車がすれ違いできる幅で人の往来で踏み固められたであろう土がむき出しの地面が街道として続いている。
そこを大荷物を背負って馬車に遅れないように、ただ黙々とランニングするだけである。正直なところ暇だ。
タイゴンからアンゴンは日中移動して三日かかると聞いている。馬を代えるなどで強行すれば一日で行けるが、簡易柵で防御した休憩所が二ヶ所あるらしく、人や動物を休ませるためにもそこで一晩明かして進むらしい。
途中休憩を入れたりゴブリンなどの魔物が出て停車することもあるが、ランニングほどの速度で朝から夕暮れまで移動を続けるなら、およそ七時間弱を一日に移動するのかな。
一日の移動距離は七十kmより少ないだろうか。三日移動するならアンゴンまでは二百kmくらいか。
遠いのか近いのかわからんね。日本なら「ちょっと隣町行ってくるわ」で移動する距離じゃないと思う。でも、魔物が出没する世界で三日で次の人里に行けるのは近いのだろうか。
それにだ。私はインチキパワーがあるから革鎧を装備して大荷物も背負ってランニングしても、肉体的な負担はほぼないのだが、武器や革鎧を装備してリュックも背負って移動する「春の風」の四人と、荷物が満載で人を二名ずつ載せている馬車を牽くロバのような動物がすごいな。
三日間毎日フルマラソンの倍近い距離を走って魔物も出てくるのに、疲労はしているが疲労困憊で立ち上がれないということはないようだ。
人も動物も生物としての強度が地球とは違いすぎない? エナさん中学生女子くらいの年齢だよ。めっちゃ元気なんだが。
倒した魔物は高値の付く牙や角は回収して、残りは街道の邪魔にならないように私が草原に放り投げている。放っておけば他の動物や魔物が綺麗に掃除するらしい。
魔物が寄ってきたりして他の通行人が危ないのでは、と思ったのだが、この街道は人の通りが多いため魔物があまり近寄らず、近辺の魔物も弱く数も少ないから問題ないそうだ。
他では倒した魔物は、埋めたり焼いたり狼煙を上げたりなど街道や場所によってルールが違うから、移動するときは冒険者ギルドから説明を受けるらしい。
それでも寄ってきた魔物や動物に対処できなかったら、対処できない能力と人数で移動している方が悪い。
というのがセイランさんが知る限りでは、どこでも共通の一般常識とのこと。対処できない人はできるように強くなるか、人里からは出ないらしい。
前から思っていたけどさ。この世界脳筋すぎんか?
そんなことを考えながら、たまに現れる魔物から取った素材を私の荷物に追加して、残りを放り投げながらランニングを続ける。
そして、まだ日が暮れ始める前に最初の休憩所に到着することができた。
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