おじさんの回復力
早朝に目覚めた瞬間にわかった。
完全に回復している。この体は今までの私の体じゃない、別物だ。
いや、私の体ではあるのだが、回復力が地球の体と全く違う。異常だ。
地球にいた頃の疲労まで全て回復したのか、全身に鉛つきのギブスを着けていたかのように、昨日までの体を重く感じてしまうほど体が軽い。
やはりパワーで体を軽く感じていたことで、疲労や消耗に対する感覚がおかしくなっていたんだなぁ。
そして怖い。
数ヶ月分の遭難生活の疲れどころか地球での疲労まで、一日しっかりとした休養を取ることで完全に回復してしまう。
一日で少し肉付きも良くなった気もするし、どうなってんだよこの体。
しかも回復した体に比例するように、今ならなんでもできそうな全能感が襲ってくる。自分がおじさんで良かったと心から思った。
これがまだ現実を知らない十代の頃にこの全能感を感じてしまったら確実に、絶対に、盛大に調子に乗る。
子供の頃から戦うことが当たり前かもしれず、大人のほぼ全てが武装しているかもしれない、強靭な魔物がいるこの世界で、ケンカの経験もない私が全能感に任せて調子に乗る。絶対に地獄を見る。
朝食の席で相談した結果。
「疲労が抜けただけで、なにをそんなに大袈裟にしてんッスか。それよりもゴンゾウが膨らんでないッスか?」
「回復が早いなんて良いことじゃない。あら? 確かに痩せ細った感じが無くなったわね?」
「一日で溜まった疲労が抜けるなんてうらやましいですねぇ。今がゴンゾウさんの万全の状態なのでしょうねぇ」
「ゴンゾウの言いたいことはわかるがね。疲労が抜けただけであんたは変わってないよ。自覚できて怖いと感じるのは良いことだ。安心しな、なにかやらかしそうならあたいらが止める。
それに今までが痩せすぎだ。まだまだ細いよ、もっと食べな。ほれ」
セイランさんに追加のパンを渡されて、一気に全能感が無くなった。と同時に自分の体に対する不安も無くなる。
そうだね。大袈裟すぎるよね。回復が早くて困ることもないもんね。なんか急に恥ずかしくなってきたぞ。
そんな一幕もあったが今日は明日以降の準備の日である。
領主様からの報酬があると昨日の夕方に冒険者ギルドから知らせがあったので、朝食後冒険者ギルドに全員で行く。
高額らしいのでアンゴンで換金できるように、セイランさんが書面で貰っていた。そんなこともできるのね。
準備と言っても武器防具のメンテナンスオイル、保存食、布などの消耗品を買ったり、壊れそうな道具や依頼で必要になる道具を買ったりと単純なことだが、
「準備を怠ると簡単に命を落とすわよ」
とアイリーンさんに解説されながら準備を手伝う。
低ランク冒険者が準備不足で無理をして、負傷したり死亡することが多いらしい。
冒険者ギルド周辺には消耗品や武器防具、道具類を扱う店が多くあるが、馴染みのない店では粗悪品を売り付けられることがあり拠点外の町などでは、割高でもギルドに紹介してもらった方が変な物を掴まされなくて済むらしい。
あの露天は素人の私でもがらくたってわかるのだが、買う人いるのだろうか? 「修繕して使う人もいるッス」リサイクルもしてるんだね。
パーティーの荷物持ちとしての道具などはアンゴンで揃えるとのことで、皆の買ったものを私の背負った大きいリュックに入れていく。
てっきり、このまま私が荷物を全て持ってアンゴンに向かうと思ったのだが、宿に戻ったら皆自分のリュックやポーチに入れていく。
一人に消耗品や道具を集中すると、「いざというときに手持ちがないと命に関わりますからぁ」らしい。
私が私個人の荷物の他に担当するのは、天幕セットに長いロープや大きめの鍋、消耗品の予備など共用する物や嵩張るものだ。
パーティーの共用物を持つので皆にも確認してもらいながら、でかいリュックの中を整えていく。
そんな作業中にも明日の移動兼「護衛依頼」のことを考えてしまうなぁ。
昨日私が日中も寝ている間、午前にアイリーンさんとリジーさんが冒険者ギルドで明日の朝出発のアンゴンまでの護衛依頼を見つけたらしく、私たちの日程とも合致するので昨日の午後にセイランさんとエナさんが受注していた。
急に依頼を受けるとか突然すぎない? とは思うのだが、こちらでは普通みたいだ。行き先が同じで怪しい依頼ではなければ、ついでとして受けることは能力がある冒険者には当たり前らしい。
受注ランクは不問で推奨がDランクからとなっているのだが、私が同行してもいいの? ランク「制限」ではなく「推奨」なら、冒険者登録直後でも加入したパーティーとしての実績があれば問題ないらしい。
これは確実に私が寄生している。依頼人という同行者もいるんだから、迷惑かけないようにしなければ。
こちらの世界の常識なのだろうけど、ついでで護衛とかなかなかにハードだね。こういうところにも慣れないとなぁ。
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