おじさんの冒険者登録
まだ薄暗い早朝に目が覚めた。数ヶ月ぶりに木の穴蔵や地面ではない、普通のベッドで寝たからか体の調子がすこぶる良い。
いくらパワーで強化されていても、長期的な疲労はしっかりと体を蝕んでいたらしい。異世界に来てから一番体が軽く、正に絶好調といった感覚だ。
ちょっと起きる時間が早すぎたのか、「春の風」の四人は起きてこない。
宿の従業員はもう動き始めている音が聞こえるので、下で水をいただいて顔を洗ったり体を拭きたいのだが。
「ゴンゾウはタイゴンにいる間は宿の中でも、トイレ以外は一人で行動しちゃだめよ? 話しかけられても返事をしちゃだめ。
初めての町で初めての人混み、常識が違う世界から来たゴンゾウは一人で行動したら、絶っ対にトラブルになるわ!」
「そうッスね。確実に面倒事になって混乱して、身ぐるみ剥がされてるゴンゾウが簡単に想像できるッス」
「身ぐるみ剥がされるのはぁ、裏通りに行ったときでしょうがぁ。騙されて連れて行かれるのもぉ、想像できちゃいますねぇ」
「ってわけでゴンゾウ。ここタイゴンの町に滞在している間は不自由だろうが、あたいらと全ての行動を共にしてもらうよ? 今日の様子じゃ一人にはできんわ」
昨日の夕食後の話し合いで四人から単独行動禁止令が出ている。過保護だと思うのだが、自分でも四人の言ったことが完全に否定できない、平和ボケしたおじさんであることも自覚している。
早く慣れないと四人に迷惑がかかってしまうし、この世界の常識を身に付けなければ。
四人が起きてリジーさんの魔術で出した水で顔と体を拭き、朝食をゆっくりと食べて、冒険者ギルドに到着。
昨日のように混乱したり驚愕したりしないので、改めて良く見てみようと周りを見回していると。
「ゴンゾウ? キョロキョロしてないで早く着いてきなさい。迷子になるわよ?」
とアイリーンさんに言われて、慌てて付いて行く子ども扱いされるおじさん。
冒険者ギルドのカウンター横の通路から階段を登り、十人ほどは余裕で座れる丸テーブルを囲んで、昨日のギルド職員らしき四十代ほどの男性、三十代ほどの似たような服を着た女性、最後に現れた五十代ほどの仕立ての良い服を着た男性。
三人が揃ってから始まった調査報告を聞きながらギルド職員らしき三人は話し合ったり、「春の風」に質問したりしている。
調査の詳細は荷物持ちとして行っただけの私にはわからないので黙ってその様子を見ているが、ギルド職員らしき三人は話が進む度に嬉しそうにしている。
うん、良くわからんね。
「……詳細な報告ありがとうございました。調査期間中にも定期的に報告をいただいていましたが、やはり春の風の皆様に依頼してよかった。
これは香木の採集や輸出だけではなく、新たな開拓村になることはほぼ確実でしょう。領主様忙しくなりそうですね」
「ああ、忙しくなるだろう。ここタイゴンからは少し距離があるがこれほどの範囲に香木がある。水源も近くにあるなら開拓村を作ることも容易だろう。人口増で困っている各町に、開拓移民を受け入れることで恩も売れる。
森の奥の木の植生を今までしっかりと調査しなかったのが悔やまれるな。良くやった春の風、調査報酬とは別に報酬を出そう。楽しみにしておれ」
四人と一緒に頭を下げる。五十代の男性はこの町の領主様だった。
いや、昨日の今日で現れるとか領主様フットワーク軽すぎんか? と思ったらすぐに出て行った。やっぱり忙しいのね。
「では、これで調査依頼は達成となります。お疲れさまでした。最終報告の報酬がこちらです。ご確認を……よろしいですね?
ゴンゾウ様の冒険者登録はこちらの彼女にお願いします。改めて長期間の調査お疲れ様でした」
四十代の男性も去って行くね。今回の調査でわかったことは結構大事なのでは?
「ゴンゾウ様の冒険者登録をしますので、こちらにご記入をお願いします。代筆もできますがいかがなさいますか? アイリーン様が代筆ですね。ではこちらをお使いください」
「ゴンゾウ? 名前はゴンゾウで良いのね? ヤマダ? 稀人は皆姓を持ってるのね。登録は名前だけで良いの? わかったわ。そういえばゴンゾウの年齢って知らなかったわね。さすがに十二より下ではないでしょ? 三十八ね……三十八!?」
「はぁ!? ゴンゾウ三十八ッスか!?」
「えぇ? セイランさんと同じくらいだと思っていましたぁ」
「本当なのかいゴンゾウ? ニホンジンは若く見られる? そういうもんなのかい? まぁ嘘を言っているようでもないしアイリーンそれで書いちゃいな」
「ゴンゾウ様、三十八歳? 特技なし、特記で腕力が強い。お間違えないですね? 春の風へのパーティー加入も承りました。本日の夕方には加入証明ができますから、一階の受付でゴンゾウ様の冒険者証と一緒にお受け取りいただき、皆様の拠点であるアンゴンの冒険者ギルドに提出をお願いします。
冒険者としての説明もできますが……はい、では春の風の四人に説明をお願いしますね。部屋は本日貸し切りにしておりますので、お食事などをしていただいても構いませんよ。
以上ですね。領主様からの報酬は明日か遅くとも明後日にはお渡しできますので、宿へ知らせを出しますね。
それでは私も失礼いたします。改めまして長期の依頼達成とゴンゾウ様のご加入おめでとうございます」
こうして私の冒険者登録も「春の風」への加入申請も全て終わった。個室で全て終わったので絡まれることも難癖をつけられることもなく、稀人だからと渋られることもなく、呆気なく終わった。
え? こんな簡単でいいの? エナさんこんなもんなの? こんなもんなんだ。
リジーさんどうしたの? 昼食をエナさんと買ってくる? 昼食まだでしたね。荷物持ちで一緒に行きましょうか? 面倒事になりそう? ……いってらっしゃい。
セイランさんは私の頭を掴んでどうしたのよ? アイリーンさんまで一緒になって。若く見える? ありがとうでいいのかな? 報告が始まって一番大きい声が出たのが私の年齢だったね。
魔力の影響かも? なにそれこっわ! いやいやセイランさんもアイリーンさんも怖くない? 自分が知らないうちに若返ったかもしれないんだよ? 贅沢言うな? セイランさん顔がこわ……いえなんでもないです。
はい、そうですね。はい、おっしゃる通りです。はい、ごめんなさい。
年齢の話しをするのはやめよう。
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