おじさん人里に到着
森の中を重量物が木の棒の上を転がる? 引き摺られる? なんとも言えない音を聴きながら、たまに「春の風」の四人からの指示を聞きながら森を突き進む。
香木の荷台の下に噛ませる棒も一本で十分だったので、移動速度も調査に同行しているときより少し速い。
森の中は音をたてながらの移動だったが、魔物が多数押し寄せることもなく、たまに現れて向かってくる魔物だけを「春の風」の誰かが瞬殺する。
換金できる魔物素材を取って荷台に乗せる。出てくる魔物も弱い部類らしく、換金率の良い素材も牙や角だけなので、流れ作業のようになっていた。
始めに魔物が現れたときは停まるか聞こうとしたのだが、聞く前にアイリーンさんが魔物を切り伏せる。
指示が出たら停まろうと思ったまま、そろそろお昼休憩かな? と思っていると森の出口が見えてきたようだ。
「もうすぐで森を抜けるわ。森の外周は同業者が魔物の討伐をしているから森の中より魔物は少ないけど、町に到着するまで気を付けてねゴンゾウ」
「魔物が出てきてもエナ先輩が守ってやるッスよ! それにしても襲ってくる魔物が全部金に見えてきてたッス。これはヤバイッスね。危機感なくなりそうで怖いッスよ」
「こんな荷台牽いて行くのは今回だけだよ。もっと稼ぐようになってからになるが、ゴンゾウが背負える限界の大きさの背負子を特注してもいいかもね。うんと頑丈なやつをね」
「お仕事の幅が広がりそうで楽しみですねぇ。私は皆さんより力がないからぁ、収集物で重くならないのは助かりますぅ。お昼休憩は森を抜けてからが良さそうですねぇ」
「アイリーンさんわかりました。セイランさん、リジーさん、エナさん、町まで、お願いします」
私を先導する赤髪の女神アイリーンさんから、移動の終わりが近いことが知らされる。
荷台後方からは、年齢も中学生だった天才中学生のエナさん、大きな虎の獣人でパーティーリーダーのセイランさん、魔術を得意とする金髪大食いエルフのリジーさんの会話が聴こえる。
まだ正式に「春の風」に加入どころか、冒険者にもなっていない私をパーティーメンバーのように扱ってくれるのは、気が早いと思うのだが嬉しくも思う。
彼女たちに恩返しできるように頑張ろう。
森を完全に抜けると膝下まで雑草の繁っている起伏のなだらかな草原が広がり、中天に差し掛かったお日様に照らされた草原が、時折吹く風で輝く緑のさざ波のように揺れている。
膝下まである草原が摩擦を少なくしてくれるのか、荷台の下に棒を噛ませず、足を地面にめり込ませなくても進むことが出来るのは幸いだ。
遠くに人工物が小さく見えているが、あれが異世界初の人里かぁ。なんか境界がはっきりしていて不思議な感じだ。そこに向かって行く馬車も遠くに見えるのだが、なんか馬でかくない?
日本のように市街地が繋がり、途中から市町村や都府県が変わるのではなく、都町村がそれぞれ防壁や柵で囲われているとは聞いていた。
実際に目にすると、あれが異世界の町かと軽い感動と大きな不安を覚えた。
遭難生活で「春の風」から今向かっている町について、どのような町なのかを聞いてわかったことから想像したのだが、
・この世界では魔物と呼ばれる危険な生物が生息している。
・人間も地球の人間より多種多様で強靭なのだが、魔物がさらに強靭で多種多様なため人間の生存圏は狭く限定的。
・町や村を防壁などで魔物から守り、対魔物の防衛陣地のように発展している。
・私が遭難生活の拠点としていた香木の群生地や魔物の少ない地域など、人間の生存に向いている場所を基点に人間の縄張りを広げている。
私が想像できた異世界事情は、全世界規模での魔物との生存競争だった。
町や村は戦場の砦や、防衛陣地のようなものだろうか。常に戦場の前線のような所で生活するとか私は耐えられるのか? それとも悲観的に考えすぎているのか。
町に近付くと、一番外側に腕で抱え込めるかわからない太い丸太を支柱にして木の柵が遠くまで続いており、柵の内側に畑が広がっている。
かなり間隔を開けて、大きな脚立に鉄板のようなものがぶら下がっている。なんだあれ? 防犯装置かな。
見える範囲に武装している人が幾人かうろついているけど警備だろうか。
丸太の柵を越え、町まであと半分ほどの距離まで進むと、足元が石? 煉瓦? コンクリート? を組み合わせたようなアスファルトではないが硬い道になっている。
そのせいで足元の摩擦が減り、荷台を牽いている私の足が滑る。町に着く前に靴が削り破れなけれいいんだけど、踏み壊す訳にもいかないし、慎重に足を運ばないと。
さらに畑の奥には灰色の防壁が見える。尖塔や建物の屋根なども見えているが、でかくない? 遠近感おかしくない? ……こんな場所が人が住む所全てに存在するの?
これからの生活に対する不安が、どんどん大きくなっていくのがわかる。緊張してくるな。
「お疲れ様ゴンゾウ。予定より早くタイゴンの町に着いたよ。昼を過ぎたくらいでまだまだ明るいねぇ。ゴンゾウ、あんたホントどんな体力してんだい」
「お疲れッス! 街道荒らさないためって草原進んだッスけど。車輪の付いてない荷台牽いたまま移動速度上がるって、どうなってんッスか?」
「ゴンゾウさんお疲れ様でしたぁ。売れるものがいっぱいですし、ギルドに寄ったら今日は美味しいもの食べに行きましょうねぇ」
「ゴンゾウ、本当にお疲れ様……って全然疲れた顔してないわね。なに呆けているの? まぁいいわ、ここで三人と待っててね。門で衛兵に説明してギルドへの連絡をお願いしてくるわ」
「……え? あぁ。皆さんありがとう。皆さんも、お疲れ様でした。棒の交換と、案内、とても助かりました。……ここがタイゴン、すごいところ、ですね」
タイゴンの町に到着して四人から労いの言葉をいただき、手続きがあるのかアイリーンさんが馬車が並んでいる門まで走っていく。
「なんだありゃ」「変な船引っ張ってきたのか?」「荷台? 車輪付いてねぇぞあれ」などなど、総香木製荷台と私たちが周囲から変なもの見た、とでも言いたげに見られているが、気にならない。
いや、町を囲む防壁がでかくて、威圧感もすごいから周囲からの視線など気にしていられないのだ。
防壁は私が立っている足元と同じく、石や煉瓦、コンクリートのようなものを組み合わせているような建材でできている。高さは三階建ての集合住宅より確実に高い。
その防壁が前にも上にも飛び出たりしながら、防壁がずっと続いている異様な光景だった。
どれ程の人口がいるかわからないが、全部この規模の壁で町を囲ってんの? どんな建築技術だよ。
槍を持って上を巡回している人が、逆回りで巡回している人と譲り合うことなく擦れ違ったから、奥行きもかなりあるのだろう。
門は木材を金属で補強しているのだろうか? 私の身長以上の厚みがないかあの門。どうやって開閉してんだ?
圧倒されて「すごい」としか言葉が出なかった。この防壁といい外の丸太を使った柵といい、やっぱり大きさおかしくない? 遠近感狂いそう。
呆然としていると、アイリーンさんがスーツのような服を着た男性と、こちらに向かってきたのがわかった。
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