エナから見たゴンゾウ
エナはアンゴンの街を拠点にする冒険者パーティー「春の風」に所属しているDランク冒険者ッス。
エナの歳でDランクってなかなかのもんなんッスよ?
まぁそのせいで同年代とは連携が取り辛かったり相性が合わなくて、ほとんどソロで冒険者してたんッスけどね。
Dランク帯の依頼は一人じゃなかなか稼げないし、ずっと討伐依頼で食い繋いでいたけど伸び悩んでたんッスよねぇ。
そんなときに拠点の冒険者ギルドからの評価が高い、Bランク冒険者セイラン先輩が率いる「春の風」に誘ってもらったッス。あのときは驚いたッスねぇ。
ソロで討伐しているエナの戦闘力と「まだまだ伸びるから今の内にと思ってね。あたいらとも合いそうだが、どうだい?」って感じに言ってくれたッス。
討伐やってて良かった!
セイラン先輩もアイリーン先輩もリジー先輩も、エナより強くて優しくて稽古までしてくれるッスけど、セイラン先輩どうなってんッスかね?
強すぎて意味わかんないッス。Bランクはまだまだ遠いッスねぇ。
収入も増えていっぱい食ってるんッスけど、なかなか身長が伸びなくて悩んでるのは置いておくッス。
そんな感じで身長に悩みつつ「春の風」に加入して半年たった頃、タイゴンの冒険者ギルドから依頼された森の調査中にゴンゾウに出会ったッス。
ゴンゾウはエナと同じ黒髪で、痩せて髭を生やしてボロボロの姿だったのに妙に清潔だったッス。毎日水浴びでもしてたんッスかね?
最初は怪しんだッスねぇ。だって森の奥に一人でいる暗い表情の怪力の男ッスよ? 怪しんでくださいって言ってるようなもんッス。
でも、全然妙な素振りも怪しい行動もしないし、動きは隙だらけと言うより隙しかないッス。エナを見るゴンゾウの茶色い眼は侮ることもなくて、なんか優しいんッスよね。絆されてないッスよ?
なんやかんやあって長期調査依頼にゴンゾウが「春の風」に同行して、片言だけど話をできるようになった頃には、不信感は無くなってたッスけどね。
話してわかった「稀人」ゴンゾウの境遇が、かわいそうと言うか哀れと言うか、最初の絶望して死にそうな感じもあって放って置けないって感じッスか? エナの初めての後輩でもあるッスからね。
「ゴンゾウの髭が気になる理由? そういえばエナも髭を剃りたがるわよね。言われてみればなんでかしら?
そうねぇ……私とエナって孤児じゃない。ゴンゾウは見た目の年齢のわりに妙に落ち着いて年寄りじみているし、私達を変な目でも見てこないから、私とエナは父親に重ねているのかしら? それともなにかやらかしそうな子供。だから構いたくなるのかしらね」
「確かにエナのことも小さいとか、年齢で侮ってこないッスね。父親に子供ッスかぁ、いないから良くわかんないッスね。父親ってどういうものなんッスかね? ゴンゾウは頼りになるんだかならないんだか、わかんないんッスよねぇ。
でもなんか構いたくなるのはわかるッス。不思議ッスね。父親とか子供ってそういうもんなんッスかね」
「アイリーンさんもエナさんも難しく考えなくてもいいのではぁ? 髭を剃られているゴンゾウさんもぉ、楽しそうにしていますしぃ、とても穏やかな人ですからねぇ。
こちらの世界のことをなにも知らないからぁ、子供のようにも思えるんでしょうねぇ。アイリーンさんは子供を見守る母親みたいになることがありますからぁ」
「あたいは父性は感じないが、ゴンゾウは構いたくなる人柄っていうのかねぇ。口数は少ないが穏やかで真面目だ。こっちじゃなかなか見ないタイプの男だね。
あれだけの腕力があったら邪魔になるくらい戦いたがるんだが、自分が戦いに慣れていないことを自覚している。
それに荷物持たされて連れ回されたら、不満くらい持つがその気配もない。いっそのことパーティーの運搬担当兼、父親子供枠として扱ってみるかい?」
そんな感じでゴンゾウには内緒で、父親兼子供として扱うことになったんッスけど、父親ッスかぁ。でもゴンゾウは腕力があるけど弱いッスからねぇ。
それになんか頼りないから、守ってやった方がいいんじゃないッスかね? よくわかんないッス。
今まで戦闘どころかケンカもしたことがないって、稀人の住むところは不思議な所ッスね。ゴンゾウが隙しかないのも納得ッス。
ただあの腕力で繰り出される一撃が直撃したら、耐えられる生き物いないんじゃないッスか? 当たればッスけど。
それに運搬担当してもらうと、めっちゃ楽なんッスよ!
今までエナ達は狩った獲物とか討伐した魔物の素材とか、皆で分散して持ってたから、目的のもの以外は大量には持って行動出来なかったッス。荷物が多くなると動きが悪くなるッスから。
ゴンゾウが収集物全部持ってくれるから、最後まで動きが鈍らずに動けて、収集物も大量にあるから収入も増えるッス。
どれだけ荷物が増えても平気な顔で「まだ大丈夫」って繰り返して、普通にエナ達の移動速度についてくるッス。どんな体力してんッスかね。
定期報告でタイゴンまで戻るときに持って帰れない量になったのは、調子に乗りすぎたって皆で反省したッス。
まぁゴンゾウが一緒に町に行くときに、でっかい荷台作ってくれたから良かったけど、あの山盛りの収集物全部荷台ごと売ったらかなり稼げるッスねぇ。あれは荷台じゃなくて見た目は変な船ッスけど。
車輪も付いてないのに山盛りになった荷台を、平気な顔で黙々と普通に牽いて歩くゴンゾウはヤバイッス。
……あれ? ゴンゾウ頼りになるッスね。
でもまだまだエナが先輩として色々教えてやるッスよ。
だからエナのことを、エナ先輩って呼ぶッス。
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