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おじさんの遭難生活の終わり

 私の不安も晴れ……戦闘や冒険者としての方針は気にする段階ではなく先送りで、新生活の不安が完全に消え去ってもいないな。晴れてはいないな? でも、焦りは消えて「春の風」のお世話にはなってしまうが、新生活の不安も軽くなった。



 翌日。


「あたいらがここに来るのは、次が最後だ。次の最終調査に同行したら、早朝に一緒に町まで行くよ。持って行くものを整理して待っといておくれ。

 ここは一年以内に開拓が始まる。開拓に参加しないなら、もう戻って来ることはないからね」


 セイランさんが告げて「春の風」の四人が去る姿を、次は私もあそこに加わるのかぁ。と不思議な感覚を持ちながら見送る。



 さて、やることは多くはないが、なにもせずここを着の身着のままで去るわけではないので、準備をしていかなくてはいけないな。



 私と転移してきた衣類や荷物なんかは、すでにほとんどが壊れたり破れたり歪んだりしている。


 無事なのは数品、スマートフォンはバッテリーが切れたし、ペットボトルには穴が空いて無事なのは一本だけ。他にもいくつか無事なものはあるが、異世界の人里で使う機会はあるだろうか。

 

 ひとつひとつ手に取る度に郷愁の念が沸き上がるが、もう戻れないのだから、この感覚とも上手く付き合えるようになれるといいな。


 もう使えないものもゴミも、私の最後の地球との繋がりだから、防災用のリュックや肩かけ鞄にまとめて、私が八人は入れる革のでっかいリュックにすぐにしまえるようにしておく。ここに来たときより、さらに地球の荷物が少なくなったな。


 その代わりに増えている、異世界産の衣類や荷物が感慨深い。



 食料も保存食は残しておき、足の早いものから消費してしまうか。量があるから「春の風」にも消費を手伝ってもらおう。地球から一緒に転移した栄養ブロックはまだ二箱残っているが、これは残しておくか。


 ここへ辿り着いたときには考えられない食料事情に、不思議な感覚を覚えてしまう。



 香木や焚き火で出た大量の灰や燃えカスをそのままにして行くのは気がとがめるが、灰や燃えカスも含めて延焼にだけは気を付け、そのままにしていてほしいと冒険者ギルドが言っているそうだ。


 灰や燃えカスにも使い道はあり、所有物とゴミの始末だけでいいらしい。やっぱり日本とは常識が違うんだなぁ。



 あとは香木から大きなソリを削り出す。巨大シールドボアの牙の大小は私のリュックに入るからいいのだが、それ以外の骨や額の盾と、「春の風」と調査で収集した森の採集物や魔物素材などは全部積みたい。


 最初は香木ではない木から作ろうと、「春の風」の四人に相談したのだが。


「香木のアピールにもなるし、総香木なら向こうで素材として売れるわ。削りカスはここでの魔物避けにも使えるから、香木で作った方がいいんじゃないかしら?」


とのアイリーンさんの意見が採用され、総香木のソリの削り出しが決定した。


「どうせならでっかいの作って、調査で収集した物も全部乗せられるの作るッス」


「大木一本程度が通れるルートならぁ、いっぱいありますからねぇ。周辺警戒は私たちがやりますしぃ」


「でかくてもいいが、ゴンゾウが引っ張っても壊れないようにしなよ? 途中で壊れたら大変なことになる」


と意見があったのだが私に作れるだろうか? と一抹の不安を抱える。なんとかなるだろうか。



 パワーでなんとかなりました。



 製作期間は二日、大きさにして縦十五歩、横七歩ほどの引っ掛からないように先に向かってなだらかに丸くなった、ソリと船の中間のような歪な荷台が誕生した。


 不器用な私の作るものだから、見栄えは非常によろしくない。しかし削り出しているのでとても頑丈だ。足をめり込ませて歩くのも速度が出ないので、下に噛ませる棒もいくつか用意して、入れ換えを四人に相談してみよう。



「春の風」の四人を待つ三日で準備を終わらせて、その後の最後の調査も無事に終わり、明日の早朝に世話になった川の避難拠点から去る日が来た。


 香木の荷台には山盛りの収集物が乗せられ、大きな葉っぱや香木の皮などで囲い、荷崩れしないようにロープを巻き付けて固定してある。


 準備と最終確認も四人が手伝ってくれて、強くぶつけたりしなければ大丈夫なはずだ。



 出発日早朝。


「みんな準備はいいね? 今回はゴンゾウが荷物を引いている。到着予定は日が落ちる前だが、余裕を持って夜営するつもりでいな。

 ゴンゾウ。この森にはいないが手に終えない強力な魔物が出てきたら、あたいらの指示に従いな。荷物捨てることも考えておくんだよ」


「ゴンゾウを中心に四方を警戒ね。ゴンゾウは焦らなくていいから、いつもの調子で先導する私に着いて来るのよ」


「それにしてもでっかい荷台作ったッスねぇ。船じゃないッスかこれ。総香木製で分厚いからいい稼ぎになるッスよ」


「荷台に噛ませる棒の交換はぁ、セイランさんとエナさんと私が順番にやりますからぁ、後方はお気になさらずぅ」


「皆さん、ありがとう。後方お願いします。アイリーンさん、調査ではないなら、もう少し速く、移動しても、大丈夫です」


「先行とルート選択は私。ソリの左右と殿はセイラン、リジー、エナ頼んだわ。速度微増ね、棒の交換もあるから様子を見て速度を調整するわ。でもゴンゾウ? 何かあったらすぐに声を上げるのよ。では、出発!」


 アイリーンさんに先導されてソリを牽く。重さは感じるが、棒を噛ませているので完全に脱力した巨大シールドボアよりも、断然軽く普通に歩ける。香木が壊れないなら走れるくらいだ。


「春の風」の四人は今回も調査の時も、全ての荷物を私に持たせることはない。装備はもちろん、各自の荷物もリュックやポーチに入れて移動している。



 苦しい遭難生活ではあったが「春の風」に助けられてからは、楽ではなかったが楽しく過ごすことができた。この拠点もこれで見納めになるのかな?


 ここを去ることは全く惜しくはないが、思い出がいっぱい詰まった拠点を離れるのは、学校を卒業するときの気分だ。


 ここを開拓すると聞いているがどうなるのだろうか。伐採や製材所を兼ねる村のようになるだろうか。冒険者となったら依頼で、ここを訪れることがあるのかもしれないな。


 思い出や今後に思いを馳せるのは良くないな。調査で教えてもらった行動時の注意事項を思い出しながら、これも訓練練習と考えて移動に集中しないと。


 とりとめのないことを考えながら、荷台を牽いてアイリーンさんを追いかける。



 私の異世界生活はこれからだ!


お読みいただきありがとうございます。


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