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おじさん初めての魔物討伐

「わかるかいゴンゾウ? 今まで魔物との戦闘をやらなかった理由。それにでかいシールドボアと正面から組み合っただけで、他の魔物を見たことがないんだったね?」


「香木の煙で、魔物が来ない。あと言葉が、わからないと、危険だから? 他は、わからないです。魔物は、緑色の小さい、人間みたいな、変な生き物と、とても大きい、犬? は見たけど、ちゃんと、戦ってないです」


「その通りだよ自信持ちな。あとは目的が調査ってのもあるがね。意思の疎通がすぐにできないと、大事故を起こすこともあるんだ」


「でかいシールドボアと、正面から組み合っただけってすごい違和感ある言葉ッスね」


「あの光景は凄かったわねぇ。緑色の小さい人間みたいな変な生き物? この近辺ならゴブリンよね?」


「とても大きい犬は大型のウルフでしょうかぁ」



 香木の分布調査も佳境に入り、「春の風」の四人は香木の生育範囲はほぼ把握しているのだが、念のため足を伸ばして調査をするため、こちらに四日滞在することになっている。


 今後は香木の煙の届かないところも調査する必要があり、煙に追いやられた魔物と遭遇する可能性も高いため戦闘経験の話になったのだが、私は戦ったことがない。


 アイリーンさんの言う「ゴブリン」は、咄嗟に振り上げた枝に当たったら死んでいただけ。


 リジーさんの言う「大型のウルフ」は、怖くて愛車の中で震えていただけ。


 シールドボアも牙を掴んで踏ん張っていただけ。


 四人との模擬戦闘も枝を振り回しているだけ。


 荷物持ちとして共に行くとしても、荷物どころか自分の身も守れないのはやべぇな?


 本当にここは安全な避難所だったんだなぁ。



 今日はでかいリュックに、くるぶしを完全に覆う頑丈なブーツ、作業着の上からアイリーンさんの革鎧に似た焦げ茶色の軽装革鎧、手足に革に鉄板を合わせた具足、武器として巨大シールドボアの骨を装備して森の中で一泊し広範囲調査の日です。


 拠点が近くにあり本来安全が確保しにくい森の中では、夜営は安全のためにも当たり前だがやらないらしい。緊急時や今回のような広範囲調査で仕方なくやる場合があるなら、


「森なんかの安全が確保できない場所じゃ、夜営を前提にするんじゃないよ。緊急手段だ。そんな場所での夜営を前提にするのは、そういう依頼を受けたときに専用の装備を持って、しっかり事前に計画も物資も、不足なく準備してから万全の態勢で余裕を持ってやるんだよ。

 それでも危険だ。まぁゴンゾウは素手で、木や岩に穴を掘って避難できるがね」


と、最後は苦笑気味のセイランさん談。


 それでも知らない経験がないでは、いざというときに危険なので練習させていただくことになりました。


 今回は拠点から香木の枝も持ってきている。一般的には焚き火を起こすときに、香木の木片を焚き火に入れるだけで良いそうだ。


「素手で木や岩に穴を掘って避難って、違和感すごいッスね」


 うん、エナさん私もそう思う。


「私たちは初日は様子見だったのに、ゴンゾウさんの拠点にお邪魔して、お泊まりして、着替えの存在を全員で忘れていましたけどねぇ」


 リジーさん、それバラしちゃって良かったの? セイランさんとアイリーンさんが、私から目を逸らしたよ? エナさんはきょとんとしないで? もっと気にして?



 何事もなく二交代で夜営をこなし調査再開。今日はこのまま距離を稼いで、日が高い内に拠点を目指す。状況によるが、二泊から三泊を計画している。



「いいゴンゾウ? 難しく考える必要はないわ。魔物を良く見てあなたは骨を細かく振ればいいの。大振りはいらないわ。当たれば勝てる。ゴンゾウの攻撃ならかすっても吹き飛ばすんじゃないかしら? 

 今回は討伐や捕獲の依頼じゃないから、魔物の状態や当てる場所なんか気にしないで、当てることだけ考えなさい」


「そうですよぉ。ウルフはちょっと素早いと思うかもしれませんけど、ゴブリンは動きが速くないですし、どちらも耐久力はないですからぁ。 

 石や枝とか投げてもいいんですよぉ。ゴンゾウさんなら魔物に向かって、岩を砕いてもいいかもしれませんねぇ。力があるっていいですねぇ」


「ゴンゾウは頑丈だから、近寄られても目とか急所守れば、ゴブリンやウルフ程度は小石が当たった程度にもならないんじゃないッスか? でも、服破れるからちゃんと防具で受けるッス。

 ゴブリンは臭いからなるべく近寄らせない方が、精神的に楽ッスね。いざとなったらエナ先輩が助けるッスよ。気楽にやれッス」


「なに一人でやるんじゃないんだ。あたいらだってフォローに動く。でも、腕力あるからって魔物とは素手で戦おうとするんじゃないよ? 基本は武器で戦うんだ。使えるものは何でも使っていい。いい機会だ、いろいろ試してみな。

 最初に出るのはあたいらがやるから良く見てな。あんたたちも張り切って本気の全力で動くんじゃないよ。余裕をもってゴンゾウに見せてやりな」



 遭遇頻度は私の感覚では多いのか少ないのかわからないが、一度の遭遇でゴブリンは一匹から三匹、ウルフは二匹か三匹の複数出てくる。


 他にも私と身長の変わらない体格の良いゴブリンや、角の生えた大型犬ほどの兎、でかい鎌を両手に携えたエナさんほどの体高のカマキリのような魔物などが出てくるのだが、「春の風」が瞬殺。


 私の相手はまずはゴブリンと大型のウルフらしいので、それまでは荷物を守り、リジーさんが私をフォローしてくれている。


「ゴンゾウ。ホブゴブリンはここが弱点よ」


 解説しながら短槍を大きなゴブリンに突き刺し、こちらを見るアイリーンさん。前! 前見て! 大丈夫なんだろうけど見てる方が怖いよ。


 初めての本格的な戦闘を前にして緊張する私に、優しい励ましの言葉を掛けながら魔物を排除する「春の風」のお手本討伐の様子も確認して、今回は戦闘の訓練だから荷物は全て下ろしていいと言われ、戦闘前に全て下ろしておく。


 いざ出陣! と自分を奮い立たせて初戦闘は「緑のちいさいの」こと「ゴブリン」


 対時したときに固まって動けないほどの恐怖は感じず、魔物を殺すことに、「命を」とか「人の形だから」とか心理的な忌避感や嫌悪感も感じなかった。


 それよりも私は、これからもこの世界で生きるために必死なのだ。


 心が磨耗することはなく、体はパワーのおかげで疲労を感じず、その後の討伐も経験させてもらい、返り血を浴びることも体に触れさせることもなく無事に終わった。



 無事に終わったんだけどなぁ。



「ゴンゾウ良くやったわ」


と、初めておつかいを成功させた我が子を見る表情のアイリーンさん。


「こうなりますかぁ」


と、それは予想してなかった~って表情のリジーさん。


「わかってたッス」


と、わかってたッスと言いたげなエナさん。まんま言ってたわ。


「あぁ、良くやったよゴンゾウ」


と、指摘するべきか迷ってる感じで誉めてくれるセイランさん。


 わかっている。みんなが言いたいことはなんとなくわかっている。


 アドバイス通り、持ってきた巨大シールドボアの骨を小刻みに振り、石や枝を投げつけ、荷物に近づけないように、素手で触らず自分なりに試して戦ったのだが。


 私が戦ったあとに残る破壊の跡。


 無警戒に近寄ったゴブリンは、小刻みに振った骨が当たった部分を消失させながら吹っ飛び転がってボロボロになる。


 全力で投げるもコントロールが悪くてまっすぐ飛ばない石や枝が、周辺の木や大地に当たって抉る。弾け飛ぶ。


 それならと骨は届かないが近い距離で、砕いた石や岩を広範囲にばらまいたら、穴だらけになって吹っ飛ぶ体高が私の胸下まであるウルフ。


 ひょっこり現れた私の首ほどの体高の一般的サイズらしいシールドボアに、ウルフと同じく石を砕いた礫を側面から投げたら、ウルフと同じように側面が穴だらけになって倒れ伏す。


「春の風」がフォローしてくれるので常に一対一で戦闘をできるのだが、私が戦うと破壊しすぎる。


 ゴブリンは自主規制がかかるほどの損壊。ウルフとシールドボアは穴だらけで血ダルマ、売れない毛皮とダメになった肉。


 吹っ飛んだ魔物が周囲に血を撒き散らし、充満する血の臭い。投げて外した石や枝などが作る周囲の破壊の痕跡。


 拠点に戻ったら反省会しよう。


 戦い方か冒険者としての方針を、しっかり考えなきゃ「春の風」と共に行けないわこれ。

お読みいただきありがとうございます。


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