おじさん生活力を指摘される
上空に吹っ飛ばされた私は落下地点にいたセイランさんに、これまた謎技術で落下の衝撃を逃がすようにくるくる回されながら、地面にふわっと擬音が付くかのように優しく立たされていた。
まさか完全に真上に飛ばしたのかこの人!?
ポカーンとする私。
いい笑顔で私の肩を優しく叩くセイランさん。
「エナも飛びたいッス!」とセイランさんにまとわりつくエナさん。
柔らかな笑みで夕食の準備をしつつ、こちらを見るリジーさん。
装備の点検をしながら何度も頷いている、表情が保護者のアイリーンさん。
「ゴンゾウが腕力あるのはわかっちゃいたが、完全に捌いたはずなのにまだ手に痺れが残ってるよ。体も頑丈。あたいらは見ちゃいないけど出血もすぐ止まったんだろ? それに持久力もあきれるくらいにある。あたいとしちゃこれ以上ないほどの運搬係だと思うんだが、皆はどう思う?」
「セイランさんは盾どころかグローブもしないで素手でやるからですよぉ。荷物持ちとしてなら、確かに最高の人材ですねぇ。慣れてきたら報酬を均等分配してでも、一緒に来てほしいと思いますぅ。むしろ依頼の内容によっては多めに出すべきかとぉ」
「ゴンゾウはずるいッス! エナも飛びたいのに、力がないから飛べないってセイラン先輩が言うんスよ? 今度飛ぶの手伝うッス! 後輩なんだから、ここ引き上げる前にエナを飛ばすッスよ! ここ一緒に出たあとに向こうでエナに協力してもいいッスよ!」
「エナ? あなたなんでゴンゾウが一緒に行くの前提で話してるのよ。私からはそうねぇ。もちろんゴンゾウに私たちと一緒に来てほしいわね。荷物持ちでも前衛の盾持ちでも、頼りになると思うわ。戦闘技術なんて練習したらいいんだから。でもゴンゾウ? あなたはどうしたいの?」
夕食をいただいたあと、ハーブティを飲みながら談笑していると私に話題が飛んできた。模擬戦闘では全くいいところがなかったのに、めっちゃ褒められてない?
皆同じ言語でも訛りがあるのか完全には理解しきれないのだが、誰も私が一緒に行くことを疑っていないんじゃないか?いや私も一緒に行けるなら、それが一番いいとは思っている。
そのための準備だって四人に頼んで、猪の牙の売却金で揃えてもらった。
この隣人生活が始まるとき、すぐに人里まで案内してもいいこと、言葉を覚えたら人里で就職すること、四人と行動を共にすること、それぞれリスクがあることを説明されている。
その中でも生活基盤もなく行政など、頼るものもわからない私に一番リスクが少ないのが、四人と行動を共にさせてもらうことだと思っている。
なにより出自も不明のパワーしかないおじさんを、受け入れてくれる四人と一緒にいたかった。
恩を少しでも返せるなら、なんでもやろうと思っている。
でもなぁ、美人の女性四人におじさんが、紛れていていいのか?
「セイランさん、リジーさん、エナさん、アイリーンさん、ありがとう。みんな、一緒、行動、お願いします。仕事、なんでも、する。でも、みんな、女性、オレ、男性、一緒、大丈夫? イヤ、ない?」
単語の組み合わせだから自分では伝えたつもりだが、ちゃんと伝わっているか心配だ。また身振り手振りと地面の絵も使ってみるか?
「おおっ! 来てくれるかい! あんたの荷物買ってるから一緒に行くこと前提だってのはわかっちゃいたが、改めて本人の口から言ってもらえるのは嬉しいねぇ」
「良かったですぅ。ゴンゾウさん、私たち春の風は元々女性だけじゃなかったんですよぉ? 今女性だけなのは偶然なんですぅ」
「エナはゴンゾウが一緒に来るってわかってたッスよ? 本当ッスよ? 嘘じゃないッスよ。わかんないことがあったらエナに聞くッス。先輩ッスからね」
「エナ? あなたもしかしてゴンゾウが来ないと「そんなことないッス! わかってたッス!」そう? 良かったわゴンゾウ。あなたを歓迎するわ。元々私が春の風に加入したときは、引退しちゃったけど男性メンバーもいたから気にしなくていいわよ? 以前は男女半々だったんだから。
それよりもゴンゾウ? あなたは生活力がないのに、遠慮して一緒に行かないなんて言い出すんじゃないかって心配だったのよ? 髭も剃れないし。服だって私たちが言わなかったら、あなた遠慮してずっと以前の服を着回すつもりだったでしょ? 料理だって私よりできないじゃない? 髭も剃れないし。それからね? ゴンゾウは・・・」
おや? アイリーンさんが男性がどうこうよりも、保護者の表情でなんか私の生活力の無さを指摘し始めたぞ。ちょいちょい出てくる「春の風」って言葉もなんだろうか?
ん? 髭剃り出来ないって二回言わなかったか? あ、今絶対髭剃り出来ないって言った! 三回! それ三回目だよね? アイリーンさん、周り! 周りの三人を見て? すっごい生暖かい視線で私たち見てるから!
わかったから、生活力ないのわかったから!
あ! また髭剃り出来ないって言った! 四回目! 四回目だよ!
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