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おじさんと模擬戦闘

今話からゴンゾウ視点で「 」は異世界言語、『 』は日本語です。

 ナイフ振り回し髭剃り事件が落ち着き、私の髭が無くなってツルツルになった日の夕食後、暖かくなってきたので焚き火からは離れて皆でお茶を飲んでいる。とてもいい香りのするハーブティーだ。


 猪の肉はなくなった。五人も食欲旺盛な人間がいると山のような肉も、あっという間だね。四人はいつも顔をテッカテカにして帰って行ったのだが、人里でなにも言われないのだろうか?


 肉の礼にと保存が効く食料や新鮮な野菜、途中で仕留めたであろう丸い鳥、人里で買ったでっかいパンなど私の個人としての食料はむしろ増えている。



 会話が拙いが出来るようになったので、相談したいことや今まで身振り手振りや地面の絵では伝え方がわからなかった物事を、四人の仕事の邪魔にならないように聞いたり相談している。


「ゴンゾウ。あんたがとんでもない力を持っているのはよく知っているよ。でもあんた戦ったこともケンカもろくにしたことがないだろ? もしかして経験が全くないのかい?」


「そう、セイランさん、オレ、戦う、ケンカ、ない。稀人、前、住む、戦う、ない、場所、いっぱい」


 お昼に私が転移してこちらに来たことを伝えると、四人は「やっぱりね」という反応だった。私のような存在は、こちらでは「稀人」と呼ばれるらしいが今は置いておく。


「気を悪くしないでね? ゴンゾウの身体の動かし方ってとっても雑でぎこちないの。ゴンゾウが常識的な大人の腕力だと、年齢が一桁の子にも負けちゃうかもしれないわよ?」


「そうですねぇ。私たちならぁ、一人でゴンゾウさんを簡単に倒せちゃいますねぇ。とても頑丈な体と腕力は脅威ですけどぉ、それだけですからぁ」


「先輩たちとも話してたッスけど、ゴンゾウってなんでもかんでも腕力に頼ってるから、めっちゃ隙だらけというか、隙しかないッスよね。一人でスラム行ったら、一瞬で素っ裸になりそッス」


「マジ!?」


「マジッスよ?」


 どうやら私は、とんでもなく弱いおじさんのようだ。


「よし! 明日は調査の合間に軽く模擬戦闘してみるかい? あたいらの言ってることも、体験してみなきゃわかんないだろ?」


「お願いします。でも、力、怖い、当たる、とても、とても、危険」


「「「「大丈夫大丈夫」」」」


 四人は優しく私を見つめながら、心配するなと言うのだが本当に大丈夫なの?



 私が四人を心配するなんて自惚れもいいところだったよ。



 翌日、模擬戦闘の前に猪の骨で岩を骨ごと爆散させてみたのだが、「お~!」と歓声はいただくものの四人は全く気負うこともなく、仕事の合間に私と模擬戦闘を開始した。


 骨と岩を爆散させるときは服をダメにするといけないので、全裸でお土産でいただいた毛布代わりの毛皮を腰に巻いた蛮族スタイルだ。


 セイランさん? 笑顔で毛皮取ろうとしないで?



 エナさんの場合。


「ホイホイホイっと。ゴンゾウなぁにまだ遠慮してんッスか? もっと全力で枝振り回すッス! もう百回以上斬られて刺されてるッスよ!」


「これ、全力、もっと、速く、できない!」


 やはり見た目が完全に中学生なので、最初躊躇していたらなめられたと思ったエナさんがムキーっと怒り、そこから両手に持った枝で怒濤の連続打撃を繰り出す。


 最終的に私はエナさん程の大きさの枝を全力で振り回すのだが、エナさんはポニーテールにかすらせることもなく、私の振り終わりどころか振り始めにも枝でポンポン叩いてくる。動きも速くてちょくちょく見失いもする。



 リジーさんの場合。


「はぁい。そぉれ。〈水〉よいしょぁ。あらあらぁ。ゴンゾウさんすごい力ですねぁ。でもぉ、それだと死んじゃいますよぉ」


『え? ちょっ! あぶっ! おわぁ!?』


 掛け声はとても可愛らしいのだが、やってくることがえげつない。


 リジーさんはおっとりしてローブを着て見るからに後方支援を得意とするような感じなのに、私の振り終わりに枝を当ててくるのはもちろん、魔法? の少量の水や足元の土を私の顔に蹴り上げたり目潰しをしてくる。


 最終的に私の振った枝に盾を合わせてくるので、危ない!! と思ったのだが、衝撃を感じることなく逸らされて、転がされてしまう。



 アイリーンさんの場合。


「なにかしらね? このぎこちない動き。膝? 腰? 肩? 腕に集中している? 背中かしら? いえ違うわ。全部ね。ほらゴンゾウ! 止めないの! ……ここまで体がバラバラに動いているなんて、すごくないかしら?」


『いやいやアイリーンさんどこにいんの!? 全く見えないんだけど!』


 もう何て言っていいかわからない。


 まず私の視界に映らないのだ。とても近くで声も聴こえるし、視界の端に綺麗な赤がちらつくこともあるので、アイリーンさんがとんでもない速度? 体捌き? で私の周囲にいることはわかる。


 たまに正面にも回ってくるのだが、顎に手を当てながら振り回す枝を見もしないで避けていく。私に攻撃することなく、動きをずっと観察しているようだ。


 時折止めるなと言われるので枝を振り回すのだが、アイリーンさんが視界にいないので、どこに振り回していいかもわからない。


 女神は女神でも戦女神だった?



 セイランさんの場合。


「アイリーンの言ってたとおりだねぇ。動きが面白いくらいにバラバラだ。武器振らせりゃ一目瞭然じゃないか。こいつは矯正できるのかね? バラバラなのに型にハマっちまってる。ほれ」


『ちょ!? あああああぁぁぁぁぁぁぁ』


 セイランさんは私が想像していたより、遥かにとんでもねぇな? 謎技術で私に構ってくれるから力と技を両立させてはいるが、身体も大きいし筋肉も山のようにあり私と同じようなパワー型なのかと思っていたのだけど、私の振り回す枝をその場から一歩も動くことなく、正面から全て逸らしていく。


 素手で。どうなってんだよこの人。


 ちょいちょい身体の各所を軽く叩いてくるのだが、それがなんの意味があるのかわからない。矯正してくれようとしているのかな?


 最終的に枝を壊すこともなく、身体に痛みも衝撃も感じずに上空へ吹っ飛ばされた。



 夕日が綺麗だなぁ。森ってかなり広いんだなぁぁぁ。



お読みいただきありがとうございます。


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