おじさん髭を剃られる
私は今、なにかの実験台にでもされているのだろうか。
「ゴンゾウすごいわよ! 赤子だって言葉を覚えるのがもっと遅いのに! もうこんなに話せるなんて、すごいじゃない! あなたはできる子よ!」
「アイリーンさん、言葉、速い、半分、わからない、赤子? なに? ナイフ、危険、オレ、子、なんで? 怖い!? ナイフ! ナイフ!」
「先輩! 待って! エナに代わって! それゴンゾウじゃなかったら顔切れてるッスよ!?」
「エナさん、大丈夫? オレ、顔、切れる、ない? 怖い!?」
「ゴンゾウはあの二人に大人気だねぇ。リジーはゴンゾウで遊ばないのかい?」
「私はゴンゾウさんを見ているだけで楽しいですからぁ」
「セイランさん! リジーさん! 遊ぶ!? 楽しい!? 見る、ない、助けて!?」
ビュンビュン振るわれるナイフに、髭が剃られていく。
アイリーンさん達との隣人生活が始まって、一ヶ月が経った。
三日一緒に行動させてもらい、三日四人を待って復習をする。
こんな世界だからやったこともない鍛練を私なりにしようとしたのだが、力を入れるとパワーが無意味に仕事をしてしまい、筋トレもヨガも持久走も効果を発揮しているかわからないのだ。
私が不器用なのもあるかもしれないが。
重く感じる巨大な岩や樹木は持ち上げようとすると、抉れて落ちる。押そうとすると、体ごと埋まっていく。引き摺ろうとしても、岩や樹木は抉れてしまう。
おそらく接触面積に対して、出力が強すぎるのだろう。
仮に鍛えるとするなら金属製の重量物が必要になる。でも、私に必要な重量の金属など、人里では金額も置場所も持ち運びも現実的ではない。
持久走は半日拠点回りをぐるぐる全力疾走しても、疲労感がほとんどない。
ヨガはそもそもポーズがわからないが、負荷の掛かりそうな体勢で長時間居ても負荷がかかった気がしない。
川の中で息を止めることだけは、水中で千までは数えることができた。息が続かないので効果はあるのだろうけど、そもそも持久走で疲れない。ただ息止めだけは続けようと思う。
彼女たちは来る度に牙を売ったお金で、色々と買ってくれる。なにか欲しいものはないかと聞かれるが、そもそも何があるかわからない。なので四人と行動を共にさせてもらうときに、必要なものだけを買ってもらっている。
買ってもらっているんだけど。
最大まで広げたら、私が八人は入れそうな巨大で頑丈な革のリュックとか、予算越えてない?
着替えや色々な道具に保存の効く食料も買ってきてくれるし、本当にお金出してないの? と聞いても本当に予算は越えていないし、まだゴンゾウの分はあるぞ? とこちらの世界の貨幣を出してくる。
一応こちらの貨幣価値も教えてはもらっているのだが、まだまだあるね。それ銀貨だよね。私の認識が間違ってなかったら、異世界では銀貨一枚で最低でも日本円で十万円以上の価値がなかった?
銅貨も大銅貨もいっぱいあるし、あの猪の牙ってそんなに価値があるの? 私の使えないメイン武器で、叩き折ろうとしたんだけど。人里出たら売っちゃうか?
などと回想しながら現実から目を反らしたい、いや反らしたら余計危ないか?
感謝は以前に伝えたのだが、まだまだ会話はできなかったし、言っていることもほとんど理解できなかった。
なんとか言っていることの三割程理解できるようになったので、今日のお昼に単語を連ねるだけの拙い言葉で会話を試みたら、アイリーンさんが歓喜してこの状況である。
アイリーンさんとエナさんは、なぜか私の髭を剃りたがる。
気にしてなかったけど、これも不思議部分だ。いや、二人が髭を剃りたがることも不思議ではあるけど、そっちではなく。
なぜ普通のナイフで、私の髭や髪など体毛を切れるのか? 爪だって一定の長さを越えると石で擦っただけで削れるが、それを越えると急に石を削り出すのだ。意味がわからない。
なんらかのパワーが、皮膚から離れたものは認識しないのだろうか。まぁ不便ではないし、気にしても私にはわからなそうだし考えるだけ無駄かな。
リジーさんが魔法? 魔術? が詳しそうだからもっと言葉を理解できるようになったら、聞いてみようかな。
元々器用ではない私は、使いなれないナイフということもあるし、変にパワーが仕事をするとざっくりと切ってしまいそうだったので髭が上手に剃れない。
それを見つけると、二人は剃ろうとしてくるのだ。特に三日のうち、初日の到着したときは髭を見るとテンションが上がっている。
美人に囲まれて髭剃りなんて天国のようだろう。
目の前で興奮して、ナイフをビュンビュン振り回されなければだが。
しかもそれでいて、しっかり髭を剃っているんだから、アイリーンさんのナイフ術は凄まじいのだろう。
生きた心地がまっっったくしないが。
それに微妙に褒められている気がしないのは、まだまだ私の異世界言語力が低いからだろうか。
なんだか言葉を理解しようと常に頭をフル回転させているからか、すさまじい速さで振られるナイフの恐怖感からか意識が遠くなってくる。
「アイリーン先輩! 危ないッスよ! ゴンゾウ!? 気をしっかり持って!!」
「そろそろ仕事の話もしたいし、止めるかねぇ」
「もうちょっと見ていたいですけど、そうしましょうかぁ」
「ゴンゾウ! もっともっとお話ししましょうね!」
「ナイフ! ナイフ!」
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