おじさん言葉を教わる
森の中を歩いてきた四人を労い、お昼は肉はダメにする前に食べようと提案したら目をキラッキラ輝かせる四人。
もう四日? 五日? ずっと焚き火の近くで干されて水分が抜けているのか、リジーさんの加工の腕が良いのか、まだまだ悪い臭いはしないのだが量が量なので一人では絶対にダメにする。念のため四人にも確認してもらって、焼き肉大会を実施。
満面の笑みを浮かべて、相変わらずよく食べるセイランさん。
セイランさんより食べているのに、どこに入っているかわからないリジーさん。
対抗して食べるけど、またお腹をぽっこりさせて転がるエナさん。
私の隣で「やらかさないだろうな」と、表情が保護者のアイリーンさん。
言葉も通じない、彼女たちが誰なのかもわからない、予想はできるけどどういった仕事をしているのかも知らない、武装強盗か?など失礼なことを考えもした。
なのに三日振りの焼き肉大会が、ひどく懐かしくて楽しくて笑顔になってしまう。
何かしら仕事のついでなのかもしれないけど、こんな私に笑顔を向けてくれて、心配して怒ってくれて、わざわざ足を運んでくれる。本当にありがたいことだ。
食後、お湯を片手に身振り手振りに地面の絵と、名前だけを呼びながら話し合い。いやエナさんだけはまだ転がっているな? 大丈夫? お湯飲む?
細かいニュアンスはわからなかったが、
・森には三日居て三日帰るを繰り返す。期間は最長二ヶ月。その間ここを使いたい。
・しかし仕事? 急ぐ? で来ないか早まるかもしれない。延びるかもしれない。
・ここに居る三日間は周辺? 森? 動物? を調べる。手伝う?
・その間にゴンゾウは、単語でいいから会話出来るようにする。
・会話出来るようになったら、一緒に行動? 仕事? しないか。でも、ここには戻って来れないかもしれない。
・断って人里で暮らすも良し。でも紹介できる仕事が少ない? 危険?
・ここは半年は確実に大丈夫? 一年先はダメ? 開発? 開拓?
・今日すぐにでも人里に案内はできるが、一番危険。
・これから色々と持ってくるが、先日持って行ったゴンゾウの取り分の猪の牙を売って買っているから気にするな。
こんなところだろうか?
話し合い途中からもう私の涙腺は限界だった。
私にこんなに都合のいい話があるのか? あっていいのか?
彼女たちは涙を流す私を笑いもしなかった。セイランさんに、頭をガシガシ撫でられる。リジーさんは、目に涙を浮かべて手を握ってくれる。エナさんに、背中をバシバシ叩かれる。慈しむような表情のアイリーンさんに、涙を拭かれる。
嗚呼、彼女たちと、話がしたい。
言葉を覚えたら感謝を伝えよう。
パワーでなんとかならないだろうか。
なんとかなりました。
いやね? 薄々そうじゃないかと思っていたのだけど、記憶力が上がっているようなのだ。
もちろん興味のないことや、意識を向けていないことまで全部覚える完全記憶ではない。理解力や頭の回転が早くなったり、聡明になったわけでもない。思い出そうとしなければ思い出すこともない。思い出すのに時間がかかることだってある。だから同じような失敗だってしてしまう。
異世界に来てから、浅慮短慮で行動したことは多くある。
でも、異世界に来てから意識を向けたことや、興味を持ったことをとても忘れにくくなっている。思い出しやすくなっていると言ったほうがいいのか、暗記物にとても強くなっている。思い出そうとすれば時間がかかることもあるが、以前より明度高く思い出すことができる。
異世界に来る前はそんなに勉強を頑張った記憶もないから単純比較はできないだろうが、明らかに脳内メモリの容量が増えているようなのだ。
そのおかげなのか、私に熱意があったのか、彼女たちの教え方が上手かったのかわからない。頭のいい人なら、もっと早く異世界言語が堪能になったとは思う。
それでも私は異世界言語を少しだけ、本当に少しだけ理解できた。
「セイランさん、ありがとう、リジーさん、ありがとう、エナさん、ありがとう」
「アイリーンさん、命、オレ、の? 助ける、ありがとう」
彼女たちに感謝を言葉で伝えられたのは、意外と早かった。
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