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おじさん怒られる

 大きな牙を振り下ろした翌日のお昼。


 私の目の前には、身振り手振りと地面の絵と「ゴンゾウ!」だけは聞き取れる異世界語で、お説教している赤髪の女神アイリーンさん。


 アイリーンさんの隣でいたずらした小さい子を見る目で、額に手を当てながらこちらを見る、金髪大食いエルフのリジーさん。


 その後ろ、少し離れたところには腹を抱えて爆笑している、大きな獣人のセイランさん。


 さらにその後方、クレーターに溜まった水の周辺を興味深そうに観察している、天才中学生のエナさん。


 そして現代日本とは似ているがデザインが少しだけ違う、異世界の厚手でシンプルな作業着を着た私が正座をしている。



 昨日。


 アイリーンさんにやぶれていた部分を縫ってもらった二着しかない貴重な作業着の一着を全損させ、キレてやけくそで大きな牙を叩き壊そうとを全身全霊で振り下ろし、十歩程の距離を吹っ飛ばされ「どうなった!?」と、全裸で周囲を確認した私は一気に素面に戻った。



 細かな傷は付いたものの、欠けてすらいない牙。


 地面には直径で二十歩はないが、大きなクレーター。


 川にクレーターの端が届いたのか、水が流れ込んでいる。


 近い樹木に突き刺さる、大小の岩の欠片。


 異世界に来て一番の衝撃と、一番の痛みを感じる体の前面数ヶ所から血を流す全裸の私。



 いったぁぁぁ!


 岩がめり込んだ!? 痛い! 目は見えている大丈夫! 権蔵のゴンゾウも大丈夫! 腕と足と腹から出血している!? 顔や背中は? こんな状況で外傷はまずい! くっそ! キレて周りが見えなくなるとか、ろくなもんじゃねぇな!? どうするどうする! 治療は? 川に飛び込んだら出血が増えるか? 雑菌は? 止血はどうする!?


 どの程度の時間混乱していたかわからないが、まずは怪我の確認だ! と腕を見ると痛みがない。全身の痛みも無くなった?


 改めて腕にどんな傷ができたのか恐々と見ると、血の跡はあるが傷がない。


 傷の中に岩の破片やらなにかが、埋まっていることもない。腹や足も血がついているが傷がない。


 どうなってんだ?


 それでも念のため川には入らず、煮沸済みの今朝作った一番新しい水をそっとかけ血を洗い流す。


 見える範囲の血にも水をかけるが傷がない、肌に岩の欠片も埋まっていない。


 身体能力が上がったから回復力? そんなものまで強化されている?傷も今思えばあそこまで派手に血濡れになったことがない、皮膚が切れた程度だった?


 確かに痛かったが、転げ回ったり泣き叫んだり蹲る程ではなかった。


 これもパワーが解決しちゃうの?



 その後それでも川で洗い流すのは怖かったので、昨日は煮沸し冷ましたお湯で体を拭くだけに止めた。


 そして今日のお昼より早い時間に、なにか慌てた様子のアイリーンさん達を出迎え、「なにかあったのか?」とクレーターを指しながら身振り手振りで聞いてくるアイリーンさん達に、今後言葉を理解したときに相談にのってもらいたい打算もあり、こちらも身振り手振りに地面の絵も合わせて昨日やらかしたことを全て伝えた。


 理解したのか額に手を当て、残念な人を見る目で私を見つめるアイリーンさんとリジーさん。


 早くもクレーターに興味を引かれるエナさん。


 爆笑しながら私を抱えあげ、そのまま川に投げ込んで服を脱がそうとするセイランさん。


 暴れたらセイランさんにとんでもない傷をつけるかもと、怖くてなすがままにされる私。


 無駄に高い技術を使って抵抗する間もなくポポポーンと全裸にされ、下着がないことでまた爆笑するセイランさん。


 顔を赤くして手で目を覆うけど、指の隙間から見ているアイリーンさんとリジーさん。


 完全にクレーターに興味津々のエナさん。


 セイランさんに頭をワシワシ洗われて、私のために買ってくれたのであろう服や下着をいただき。今に至る。




「ゴンゾウ」


 アイリーンさんが心配げな表情をするものだから、罪悪感がものすごい。本当に申し訳ない。


 身振り手振りと地面の絵からは、助けのない状況で怪我をする危険性、する必要のない無理無茶無謀、やるなら私たちを待て、自棄を起こすな、髭の剃り残しがある等々アイリーンさんの心配と正論が身に刺さる。ん? 剃り残し?


 私は色々と、浮かれてしまったんだろうなぁ。


 油断したら簡単に命が散ってしまう状況だってのに、見えた希望に周りが見えなくなっていたのかもしれない。


 この川にたどり着いたときと同じではないか。改めて自分の浅慮が浮き彫りになると辛いものだ。


 しっかりと反省して、絶対に失敗しないとは自分でもできる気はしないが、気を付ける努力を忘れないようにしよう。



 なによりもアイリーンさんが、泣きそうな顔で心配してくれているのが辛かった。



 本当にごめんなさい。


お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白かった、なんやこれつまらんなど下部の☆☆☆☆☆を押して評価していただけると作者が喜びます。ついでにモチベーションにも繋がりますので評価お願いします。





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