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おじさん岩を叩いてみる

 川にたどり着いて、約一ヶ月程の遭難生活も終わりの兆しが見え、彼女達がここを去った日から二日が経った。


 早ければ明日には来るのかな? と遠足を待ちわびる子供のように、落ち着かなくなっているおじさんが私です。


 彼女達が来てもすぐにここを出るわけでもなく、言葉を勉強したりしなければいけないのだろうけど、高揚してしまうよね。来てくれるのが美人さんとなればなおさらだ。


 食べるときに使うようにと、リジーさんからナイフを借りている。アイリーンさんからも、髭を剃る用に小型のナイフを借りていて、本当に至れり尽くせりだ。


 ナイフが一本あるだけでこんなに違うんだなぁ。便利さが素手とは段違いだ。


 世話になりっぱなしだとしみじみと朝食の肉を焼きながら思う。


 ただ借り物だし、刃物使いなれないし、パワーで折っちゃいそうだし怖いんだよね。


 焼き肉大会でも思ったのだが、胃腸も丈夫になったのか、朝から大量の肉を食べても全然胃もたれしない、もっと寄越せと言わんばかりに肉が入っていく。


 肉と交換でいくつかいただいたこちらの保存食も、ナッツ類とドライフルーツを小麦でまとめて、硬いクッキーにしたものだろうか? 素朴な味わいだがとても美味しい。大切に食べよう。


 異世界に来て四十日前後で痩せた身体がどんどん元に戻るのは怖いくらいだ。




 野球のバット程の巨大猪の骨と、牙の大小を私の背丈程の川岸の岩の近くに並べる。


 これから耐久テストというよりは、破壊力テストだ。私の手で削れる位の岩だからちょうどいいとは思う。


 まずは骨から、野球の打者のように構える。岩の破片が怖いから目を閉じた方がいいか?


 バットを構えるのは高校の体育以来だね。


 では、バッター山田権蔵、ポジションは遭難者! フルスイング!


 轟音。


 爆散する猪の骨と岩。


 腕を中心に身体に感じる無数の衝撃。


 勢い余って尻餅をつく私。


 欠片が着弾し、無数の水飛沫を上げる川。



 やべぇだろこれ。



 あの猪とかでかい生物相手なら、めっちゃ心強いパワーだけど、こんなもん人相手に向けられんぞ? 加減なんかできるか? 下手に加減して反撃食らうのは嫌だし、そんな器用なことが私にできるとは思わない。


 私が敵対相手に攻撃するような状況では、絶対にそのときの全力を出してしまう。岩がこれなら人は? 最悪爆散か血煙、または当たった部分の消失……あの緑色の小さいのの腹部が無くなったのがこれかよ。


 素手なら調節ができる。借りているナイフはまだ壊していない。角スコップだって少し曲がっているがまだ現役で使える。


 攻撃の意思か勢いを付けたときか? なにかが壊れている感じがする。アクセルに足を乗せたら、いきなりエンジンの回転数が最高まで上がった感じだ。


 言葉が話せるようになり聞き取りもできるようになって、まだ彼女達と交流を維持できていたら相談しよう。迂闊に誰彼構わず相談していいもんじゃない気がする。


 こんなもん人里で調節できなかったら大惨事だ。一発で極悪人になってしまう。



 私は武器の類いを持っちゃいけない人間なのかもしれない。



 呆然としてしまったが、立ち上がって違和感を感じる。視線を下に移すといくつか岩が当たっていたのか、穴の空いた作業着。腕の部分はボロボロで、七分袖に布が垂れ下がっている程度。


 こりゃダメだ。言葉がどうとか相談がどうとかじゃなく、アイリーンさんには明日以降で絶対にバレる。


 もう一着同じ作業着があることは知られているから、服を着替えろと絶対に言われる。いや身振り手振りなんだけど。



 それでも念のため、猪の牙の小さい方を試すか。大きい方はもし壊れたら、いざというときの主力武器が無くなる。大きい牙はやめておこう。


 服もボロボロだし、もうこのまま穴が増えても変わらんだろう。小さい牙だけでもやっちゃおう。


 牙はグリップもなく、骨みたいに野球のバットのお尻の部分のようにスッポ抜けないようには膨らんでないから、最悪どこかに飛んで行く危険があった。


 叩き付けるのは振り下ろす感じがいいか?


 ド素人の構えでド素人の振り下ろし。


 猪の牙は表面に細かな傷が付いたけど、壊れることはなかった。


 骨みたいに爆散しなかったからなのか、パワーで反発なんかを押し切ってしまうのか、私の振り下ろしが不格好で下手で衝撃が散ったのか、そもそも振り下ろしがダメなのか、何か他の力が関係していたのか、私には理解できない何かがあるのか。


 岩は砕け散った。


 私は全裸になった。


 全裸にすることはないじゃん。下着一着しか持ってないんだよ? ベルトに色々引っ掛かって全裸の腰マントみたいになってるよ? 足首に巻き付いてる裾が、悲しいことになっている。


 衝撃と岩の欠片で全裸はさすがに予想できねぇよ、爆散か真っ二つかって思うじゃん。



 どうすんだよこれ。


 申し訳程度に身体に残った作業着と下着の名残を、無言無表情で取り外しながら拠点へ向かう。


 唯一残ったベルトと小さい牙は、無くさないように拠点へ置いてくる。


 先程よりさらに拠点から距離を置く。


 川からは十歩程離れる、眼前には岩、拠点を背にして男、山田権蔵。


 全裸で仁王立ち。


 使わないでおこうとさっき決めたばかりの大きな牙を、背後まで振りかぶって不格好な大上段。



「っっっっっ!!」



 もうこの牙折れちまえ!!


 歯を食い縛り怨念も込めて、全身全霊で大きな牙を振り下ろす。


 やけくそだ。


 でも怖いから目は閉じる。



 大轟音。



 大地が揺れる。



 牙を握りしめ拠点方向に吹っ飛ぶ全裸の私。



 形を保ったままの牙。



 対岸の崖に着弾した大小の岩の破片が、土煙を上げる。



 これでも壊れないのかよ。この牙どうなってんだ。


お読みいただきありがとうございます。


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