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おじさんと猪の解体

 朝日が完全に顔を出して新しい朝がきた。


 気分はすこぶる爽やかだ!


 ニヤニヤするセイランさんと、その影に隠れている顔を真っ赤にして私からまたとんでもない速度で離れたアイリーンさんの二人は見ないものとする。


 リジーさんとエナさんはまだまだすやすや並んで眠っておられる。尊すぎんか?


 しかし、個人差があるだろうけど人体と心の不思議と言うのか。でっかい肉食べて空腹が満たされ、美人に抱き締められたら熟睡できて、目が覚めたら気分爽快とかどうなってるんだろう?


 少ない食料でずっと空腹で、孤独に一ヶ月以上遭難して、転移して全てを失ったと自棄になっていたのは自分でもわかるけど、満たされ温もりを感じ人と接するってすごい安心感があるんだなぁ。


 昨日の私はひどい顔をしていたのだろうとは簡単に想像できる。かなり深刻に思い詰めていた。


 下着事件から思い詰めた顔でリアクションを取らなくなり、差し出された大きな硬い肉をブツンブツン噛みきって、泣きながら食べ終わったと思ったら無言で眠りにつこうとする異常な力のおじさん。

 

 やべぇな?


 そんな私を心配して抱き締めて寝かしつけるアイリーンさんはまさに女神ではなかろうか?

 

 今までが代わり映えのない追い詰められるだけの生活だったから、出会って丸一日も経っていない彼女達と濃い時間を過ごしているのは、つくづく不思議なもんだと思う。

彼女達からしたら森で、おじさんに出会った程度かもしれないが。


 しかし、こんなに怪しいおじさんと一晩一緒にいることに、彼女たちは抵抗がなかったのだろうか?


 私としては先の見えない状況は少なからず好転し、美人に囲まれて嫌な顔をされないのは、非常にありがたいことではある。


 あわよくば救助してくれないかとも思っているが、私には差し出せるものもほとんどない。角スコップとかもらっても彼女たちだって困るだろう。


 なんて今後のことを考えていると、リジーさんとエナさんも起き出して、朝食の時間だ。しかし、私は食料をほとんど持っていない。生活力のない遭難おじさんだ。


 どうしようか。と考えながらもリジーさんとエナさんに身振りでおはようの挨拶。二人とも一瞬目を見開くと、セイランさんと同じく今までで一番の笑顔で挨拶を返してくれた。


 二人が身支度を始めたとき、セイランさんの方から油が弾ける音と肉が焼ける匂いがする。


 振り向けばセイランさんが来い来いと身振りして、いい笑顔で石焼きステーキを指してた。ありがたく御相伴に預からせていただくことにする。


 近くにはあの猪のでっかい足が転がってるから、昨日もこれを焼いてくれたのかと納得。



 そのときの肉に気分が浮かれる私は知らなかった。


 セイランさんとリジーさんの食欲と、これから三日間続く三食焼き肉大食い大会と怒涛の肉加工大会の開幕を。



 復帰したアイリーンさんに改めて昨日はありがとうと身振り手振りでなんとか伝え、照れるアイリーンをやはり女神と再認識する。


 立派な体格から予想通りの食欲を見せるセイランさん、それ以上に食べたリジーさん、対抗してお腹をぽっこりさせて転がるエナさんを横目に楽しい朝食の時間は過ぎていく。リジーさんどこにそんな大量の肉入ったの?



 食後、転がってるエナさんは放置して、今後の予定を話し合う。と言っても身振り手振りに地面の絵なのだが。


 猪の解体は話し合いの後に開始。


 四人は今日から三日間ほどここに滞在したいようだが、私の土地でもないので頷く。この周辺を見る? 散策? 林業的な何かだろうか? よくわからないがとりあえず頷く。


 他にも細々とした彼女たちの予定はあるだろうけど、協力を求められたら恩返しのためにも手伝おうと思う。



 そして猪の解体である。


 川から猪を引き上げて、パワーが必要なら呼ばれるので手伝う。セイランさんが際立っていたが、皆とても手付きが良く迷うことなく解体していく。


 しかし猪は軽トラよりもデカイ。手伝うことはとても多く、気分は人間重機である。


 内蔵は昨日取り出していなかったので心配だったが異臭もなく、グロテスクではあるのだが特に気分が悪くなることもなかった。むしろこれが命を食べることなんだと感動した。


 サイズ感で現実味がなかったのもあるかもしれないが、昨日までの私ならとてもできなかっただろうな、と作業を手伝いながら思いを馳せていた。


 終わる頃にはお昼になっていたので、お昼も焼き肉大会である。案の定お腹をぽっこりさせて転がるエナさん。たんとお食べ。


 食事の前に水浴びをするのだが猪の脂が全く落ちない。でもアイリーンさんがかけてくれた、灰色の粉で擦るとみるみる落ちる。すごい便利!


 午後は解体した部位から肉を取り出したり、いらない部分の廃棄。拾って来た倒木をパワー任せに適度に砕いて作った、キャンプファイヤーのような巨大な焚き火に、廃棄部分を放り込み焼却。


 内蔵は全てを焼却するため、周囲に充満するすごい匂いにむせる。リジーさんが燃えていく内蔵に悲しそうな顔してお腹を押さえている。追悼? 違うな確実に大食いキャラだこの金髪エルフ。


 しかし、これだけの匂いが拡散されているのに動物がチラリともしない。四人は警戒はしているようだが、あまり気にしている様子がない。


 この樹木というか土地がなんかおかしいんじゃないか?それとも動物が集まってきても問題ないの?


 焼き肉大会で使用する石の浅鍋や鉄板代わりの石板は、パワーが全て解決してくれた。加熱中に割れても新しいものを即作成。


 素手でゴリゴリ石を抉ったり割ったりする私を、アイリーンさんだけは「それでこそゴンゾウ」的な保護者のような表情でウンウン頷いていたが、他の三人は「知ってた」みたいな顔をしていた。アイリーンさんだけ反応おかしくない? 疲れてない?


 四人と日が暮れるまで一緒に作業をしていたが、やはり現代日本とは考え方や道具など、大きなものから細かいところまで違いがあるんだなぁ。


 そして彼女たちも現代日本では考えられない身体能力を持っている。


 セイランさん本気出したら、もしかして私と同じことできるんじゃないの? パワーで解決していると、セイランさんだけはうんうん頷くことが多い。


お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白かった、なんやこれつまらんなど下部の☆☆☆☆☆を押して評価していただけると作者が喜びます。ついでにモチベーションにも繋がりますので評価お願いします。





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