おじさんの世界が広がる
おはようございます。ゴンゾウです。
こっちの世界に来て初めて熟睡していたようです。
現在、朝日が昇る前の夜空が八割、明るくなり始めた空が二割といった空模様。
天空のグラデーションがとても神秘的で感動的です。
こちらに気付いた大きな獣人のセイランさんは、焚き火の管理をしながら、今までで一番の笑顔を私に向けとても優しい目で見る、と口元に立てた人差し指をあて「しー」っと合図。
その合図こっちでも使っているんですね?
金髪エルフのリジーさんと天才中学生のエナさんは毛布? マント? に包まり、隣り合って寄り添うようにリュックを枕にぐっすり寝ています。なにこの尊い光景? 浄化されそう。
寝顔を観察するのも失礼なので、できるだけ物音を立てないように身体を起こし周囲を見回す。
赤髪の女神アイリーンさんがいないね。身支度でもしてるのかな?
改めて周囲を見回す。
こんなに綺麗だったか?
ゴミが落ちていないとか早朝の空のグラデーションが綺麗とかそういうことではなく、なんだろう?
景色や夜空はここを拠点にするようになってから、いつも見ている風景だ。早朝よりもっと早い時間から起きていたこともある。早朝の空のグラデーションだって何度も見てきた。
いつもと違うのは自分が地面で寝ていたこと、誰かが掛けてくれたであろう毛布のようなもの、そしてアイリーンさんはいないけど彼女達。川に沈んだままの猪。
でも見慣れないとかじゃない。視界全てが薄暗いのに輝いているように見える。本当になんだこれ? 魔法?
それに転移してからずっと感じていて、昨日ピークに達していた胸や頭の重苦しい感じがしない。ちょっとは感じるけど、日本にいたときよりも軽いくらいだ。
もう三十年は感じていなかった、小学校の夏休み初日の朝のラジオ体操が終わったあとの解放感のような感覚に似ている。
朝日が昇る方向、川の上流から輝きが強くなる。感動しているのか? 鳥肌が立ってなぜだか涙が溢れそうになる。
輝いて見える世界で、解放感に身体を任せて大きく深呼吸をする。早朝の冷たい空気、今までで感じたこともなかった木々の香り、川の水の匂い、大地の香り、いつもの煙の匂いが肺を満たす。
生きている
再度、深呼吸。
生きている
なんだこれ。そりゃ昨日だって生きていたけど、今日は生きている実感が凄まじい。
昨日までの死んでもいいって感覚がどこにもない。肉食ったからか? どんだけ単純なんだよ私は。
とてつもない解放感、凄まじい生きている実感、輝き広がっていく世界。
「ゴンゾウ?」
横からアイリーンさんの不安そうな声が聞こえる。
私を見つめるアイリーンさんが両手を胸の前で祈るように握り立っている。
昇ってくる朝日に照らされ、輝く赤い髪。
私を見つめる、青く透き通るような美しい瞳。
背は私より少しだけ低いが、真っ直ぐ伸びた姿勢の良さは騎士のよう。
祈るように胸の前で握られた両手も合わさり、まさに女神だ。
「アイリーンさん、おはようございます」
解放感、生の実感、輝く世界でなお美しいアイリーンさんに笑顔で挨拶する。
「ゴンゾウ!」
アイリーンさんがすんごい速度で突撃し私を抱き締める。
え? なに? めっちゃ速い! 反応すらできなかったぞ!?
しかしパワーを得た私には子猫が飛び付いてきたほどにしか感じない。
やはりパワーが全てを解決するな?
川の上流から昇る朝日に照らされ、直立したまま一歩ほどの距離を押し込まれて地面に二本線を引きつつ、アイリーンさんに抱き締められてパワーがどうとか関係ないことを考え混乱する私。
視界に映るニヤニヤしているセイランさんと、すやすや眠るリジーさんとエナさん。
そして、泣きながら私を抱き締めるアイリーンさんから感じる暖かさは、昨日眠りに落ちる前に感じた暖かさと同じだった。
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