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おじさん拠点まで案内する

 埋葬が終わって、猪をどうするか。それよりも今日はどうするか。そしてこれからどうするか。


 猪に遭遇したのは、早い時間だったように思う。そこからは言葉の壁から戸惑うことはあったが、作業はパワー任せで短時間で終わり、日もまだ高い位置にあるので日が落ちるまでの時間的な猶予はまだまだ長くある。


 大きな獣人セイランさんと天才中学生エナさんは、何か話し合いながら軽トラサイズの猪を検分している。背の低いエナさんと軽トラサイズの猪の対比がすごい。


 赤髪女神のアイリーンさんと金髪エルフのリジーさんは、周囲の匂いを嗅ぎ分けるような仕草をしながら、何か話し合っている。


 まさか私が臭いのか? 水浴びは晴れたときは毎日しているし、洗濯だって洗剤はないけど定期的にしているが、まさか加齢臭!?



 戦々恐々としていると、猪の検分が終わったセイランさんとエナさんがアイリーンさんとリジーさんと合流し、私を見ながら話し合っている。


 言葉がわからないし、仮に言葉がわかっても女性四人の会話に割って入るほどの、勇気というかコミュ力はない。


 やっぱり臭う? と凹んでいると四人が頷き、エナさんがささっと枯れ葉を集めて、枯れ葉に指を指しながら何事か呟くと、火が着いた。



 ん? 火が着いた? 魔法!? すげー! 初めて見た! 魔法ってあるんだな。さすが異世界!


 簡単に使っちゃうエナさんはやっぱり天才中学生なのでは?



 目を見開き思わず拍手してしまう。称賛されていることが伝わったのか称賛されると思わなかったのか、もじもじと照れているエナさん。可愛いかよ。


 私を含めて四人から暖かい目で見られていると、ハッと何かを思い出したエナさんが違う違うという風に手を振り、小さく上がっている煙を指し示し身振り手振りで煙が大きく上がっている状況を表現してから私を指し首を傾げる。


 煙が大量に上がっていることを知っているか? 煙をあげていたのは私なのか? と聞きたいのだろうか。思い当たることしかないので頷くと四人が頷きあっている。


 今度は金髪エルフのリジーさんが地面に絵で私達五人を描き、今は燻るだけになった先程エナさんが着火した燃え跡まで矢印を描いて、私を指し首を傾げる。


 煙の上がっているところまで案内してほしいということだろうか。何か意味があるのかな?


 風向きなのかここまでまた漂ってきた煙の匂いで延焼を心配していた? さっきアイリーンさんと一緒に周囲の匂いを気にしていたのはこれかな。


 もちろん、これにも頷き四人を救助を待つための拠点にしていた場所まで、案内することにした。



 今度はこちらから猪はどうするのか? と身振りを行うと、四人が考え込む。


 できれば持っていって肉が食べたいなぁ。なんとかならないだろうか。



 なんとかなりました。



 試しに四人に猪に触っていいか確認して了承をもらってから、牙を掴んで引っ張ってみる。


 

 そのままではやはり体重差なのか摩擦なのか、他にも理由があるのか足が滑ってしまうので、足を軽く地面に叩き付けめり込ませると、引き摺ることができた。


 四人は驚いてはいたが、「知ってた」みたいな顔をしている。


 亡くなった彼の荷物と自分のリュックを、猪のつるはしみたいな凶悪な牙に引っかけ、改めて牙を掴んで拠点まで猪を引き摺る。



 猪を引き摺りながら、私の力を考える。


 猪の牙を握り潰したり折ったり出来なかったし、投げ飛ばしたり首を折ることも出来なかった。私のパワーは無限に上昇する類いのものではなく限界がある。


 動かない猪は持ち上げられるだろうが、私の身体のサイズが足りないし、踏ん張られたり抵抗されるとバランスを崩して無理だろう。


 現に引き摺っている今も重さは感じているから、倍の重量は難しいんじゃないかと思っている。



 猪を引き摺りながら、今後を考える。


 いくら美人で人の良さそうな人達とはいえ、見知らぬ人を拠点に案内することに抵抗がなかったわけではない。


 猪とやり合う前の異世界転移だか神隠しだかを受け入れていなかった私なら案内はしなかっただろう。


 イベントでしか見ることはないであろう言葉の通じない武装した革鎧コスプレ集団を、救助してくれた後ならともかく、救助するより拠点の位置を気にしている時点でかなり警戒をしていたと思う。


 四人にはまだ救助してほしいことも、私が遭難していることも、困っていることすら伝えていないのだから、かなり失礼な話だとは思うが。


 でも、もう疲れたんだ。


 自分の異常な身体能力の上昇と猪と彼を見て、猪に八つ当たりでキレ散らかして、心の底からここが創作で語られるような、地球の日本とは異なる世界だと認めてしまった。


 帰る手段も見当が付かない。有ったとしてもそれに伴う労力も気力も途方もないものだろうことは想像出来る。


 だから、もし彼女たちが私を騙し命を奪い、私の持ち物や彼の遺品を強奪するようなことになっても、別にいいかと思っている。


 最後が遭難の衰弱死か美人に殺されるかの違いでしかない。



 私はもう疲れたんだ。



 四人は私と猪を囲みながら、周囲の警戒をしてくれた。


 こうして拠点まで四人の案内と、猪を持ち帰ることの両方を達成できたわけだ。


 それはそれとして、別に無言のジェスチャーゲームしてるんじゃないから、君たち普通に声出していいんだよ?


お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白かった、なんやこれつまらんなど下部の☆☆☆☆☆を押して評価していただけると作者が喜びます。ついでにモチベーションにも繋がりますので評価お願いします。





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