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008:テメーら立派な冒険者だぜ


「あれ、ノクティスさんは髪の毛切らないの?」

「このモヒカンは武器だ」

「え?」

「オメーらには言ってなかったが、クエスト前に毒を塗り込んでるんだ。触ると火傷じゃ済まねぇぜ」

「えぇ……」

「表面は毒で滑るから、挟まる心配も掴まれる心配もない。攻撃は最大の防御ってわけよ」


 結局ダイアン達のダンジョン攻略に付き添うことになった俺は、測量器具の貸し出しを受けるなどしてギルドに入り浸っていた。

 今日赴くダンジョンは森の中の遺跡で、エクシアの街の近場にあったからか改革前に攻略されていたはずだ。


 ダンジョンの最奥で待つボスの名前は『腐れ落ちた骸の王』、簡単に言えばスケルトンのキモい特殊個体だ。

 イカつい名前だがDランク冒険者にも討伐許可が出ており、定期的に再誕するので新人の格好の餌となっている。


 3人は特定のフロアの地図を製図して、なおかつダンジョンボスを討伐すればダンジョン踏破が認められる。

 今回俺が手伝うのは測量と討伐モンスターの記録だけ……つまりモンスターとの戦闘はボス含めてダイアン達のみで行ってもらうことになっていた。

 俺は後方先輩面で腕組みしてるだけでいい。


 ……まぁ、これでガキ共に構うのは最後にしようと思ってた頃だからな。

 俺が鍛え上げたオメーらの力、たっぷり見せてもらうとするぜェ。


「ここが例のダンジョン……『崩れ落ちた遺跡』だ。さぁオメーら、ここからは自分達の力で進んでくれよ」


 俺はサイドカーから3人を下ろすと、ガキ共を前に行かせて早速腕組みを始めた。

 俺に何度か視線を向けてくるミーヤ達だったが、俺が何も言わないで顎をしゃくると、3人は頷き合ってダンジョン内に足を踏み入れていく。


 ――『崩れ落ちた遺跡』の名の通り、このダンジョンは全体的に足元が悪かったりそういう系のトラップが数多く用意されている。

 例えば地面が崩れて奈落に真っ逆さまな落とし穴とか、足元のスイッチを踏んだら岩が落ちてくるとか。死なない系のトラップであれば、催涙ガスが穴から噴出してくるとか……そんな感じの易しいダンジョンだ。


 ただ、トラップに引っかからないに越したことはない。

 早速3人の目の前にトラップを発見した俺は、ヒヤヒヤしながら彼らの動向を窺う。すると彼らは即座にトラップの予兆に気付き、指差し確認を行って仲間に危険を知らせ始めた。


「あ、あれ!」

「おぉ、紐状の障害物落下系トラップじゃん。割と遠くからでも見えるんだな」

「『ダンジョン攻略試験』で見たやつだよ! 傾向と対策バッチリじゃん!」


 おお、良かった良かった……。

 ダンジョン攻略の前にパスしなければならない筆記試験『ダンジョン攻略試験』を満点合格していたからか、彼らの行動には迷いがない。

 俺は深く頷き、彼らの後に続いた。


 3人の行動はダンジョン内でも淀みない。

 トラップを発見すれば必ず仲間に報告するし、モンスターとの戦闘も高所を陣取るか広い場所で行うなどして有利展開を作っていた。

 また、弓使いのミーヤと魔法使いのティーラが徹底して遠距離戦を繰り広げていたのが嬉しかった。

 ダイアンも正統派の剣士から俺のようなコスいタイプに鞍替えしたのか、盾を構えつつしょぼいナイフ投擲でちくちくダメージを与える戦法に変えていた。

 まぁ、死ななきゃ良い。そしてこの戦法で行き詰まったら、その時改めて考え直せばいいこと。生き残ってくれたらそれで良いじゃないか。

 トライアンドエラーが出来る戦法なだけまだマシさ。エラーした瞬間人生終わりなのは嫌すぎるもんな。


「ふむ、測量の方も完璧だな。誤差はあるが、既存のダンジョン地図と大差ないぜ」

「ありがとうございます!」


 組み立てた測量器具による座標観測、読み取った座標から作る平面地図、その両者に不備はなかった。

 Dランク冒険者としては驚異的な正確さで地図を作り上げた3人に俺は唸ってしまう。


 こいつら、本気で伸び代があるぜ。

 生存重視なものの戦闘はしっかりこなせる技量と度胸があるし、冒険者稼業に必要な知識・学問への姿勢も素晴らしい。

 分からないことは恥ずかしがらず・躊躇わずに聞いてくるし、熱心にメモを取って二度と同じ失敗を繰り返さない。もし二度目の失敗をした時は、3人の誰かが気付いて指摘してくれる。

 上昇志向もあるし、人付き合いも良い。人当たりが良いものだから、俺の知り合いやギルドの受付嬢はガキ共のことをすっかり気に入っているくらいだ。


 本当に優れたガキ共だ。

 ――環境と人材と運。これらが上手くマッチし、短期間の間に新人が急成長しているとも言えるだろう。


 こうして可愛い後輩がすくすく育っていく事実に、俺は喜びを覚えずにはいられなかった。


「ふふ、俺の出番がねぇな……」

「何言ってるんですか。もしオレ達が危なくなったら助けてくださいよ」

「ギャハハ! そうはならなさそうだから言ってんだろ?」

「そんなことありませんって、あたし達油断しまくってます!」

「それはそれでダメだろ」


 雑談をする余裕すらあると来た。こいつら、俺みてぇなモヒカンなんか踏み台にして大物になるぜぇ?


 余裕ぶちまけながらゲラゲラ笑い合って、いよいよダンジョン最後半。俺達は『崩れ落ちた遺跡』の最後の砦、『腐れ落ちた骸の王』が待つボス部屋に辿り着いた。

 そもそもダンジョンとは魔王が作り上げたモンスターの住処で、人間の戦力偵察のために生み出されたものらしい。

 少なくともボスモンスター討伐回数は数えられていると聞くし、視覚的情報が魔王の元に行き着いていないとも限らないだろう。


 つまり、ダンジョンを通して魔王はこれから知ることになるワケよ。

 ――将来のSランク冒険者達の誕生をな!


 ボス部屋の前で食事を取って仮眠した後(交代で見張りをした)、準備万端となったティーラ達は大扉を押し開けた。

 両開きの鉄扉の向こうから漂ってくる瘴気のような悪臭。俺も過去に嗅いだことのある激烈な臭い――『腐れ落ちた骸の王』の体臭だ。


「ヴッ」

「ォオ」

「カッ……、ンン」


 3人が妙なえずき方をすると同時、後ろの鉄扉が重々しい音を立ててピタリと閉じ――なかった。

 扉の隙間に置かれた小さな棒状の道具が強力な氷属性魔法を吐いて、扉を半開きのまま固定してしまったのだ。


 当然こういう罠があると知って来ているのだから、冒険者は扉用の突っ張り道具を持ってくるのが当たり前になっている。

 ミーヤがここぞとばかりに仕掛けていたのを俺はちゃんと見ていたし、近年じゃボス部屋に閉じ込められる冒険者も少ない。ボスと戦ってうっかり死ぬ奴はいるけどな。


「ダイアン、来るよ!」

「任せとけ! ガン逃げしながら盾で防御する!」

「それでいいのよ! ヘイト稼ぎよろしくぅ!」


 至る所に肉を残した不完全なスケルトン――腐れ落ちた骸の王との戦闘が始まった。

 まず初手。ダイアンが投げナイフによるちくちく攻撃を与え、ヘイトを稼ぐ。

 一部の界隈では「投げナイフはダメージがしょぼい」って先入観があるらしいんだが――いやいやナイフを投げられたら痛いしウザいに決まってるだろ。


 だってナイフだぜ? 扱い方次第じゃ人を殺せるし、手に持ったナイフを足に落としたら大惨事になるでしょ? そんなナイフをぶん投げられたら、モンスターだとしてもウザいに決まってる。

 しかも、そのナイフを投げる敵は盾を構えて防御してると来た。俺がモンスターだったら普通にウゼェからダイアンを1番に狙って倒したくなると思うわ。


「ヘイト稼ぎやるじゃん!」

「その調子でもっと頑張りなさい!」


 骸の王もそんな風に考えたのか、無尽蔵のナイフちくちく攻撃を行うダイアンを狙い始めた。

 しかし、ダイアンの盾術は俺仕込みのガチモンだ。相手が四刀流でもない限り攻撃ひとつ通さねぇ。

 手に持った斧で彼を攻撃しようとするが、ダイアンは上手く攻撃を受け流して再び距離を取って投げナイフ攻撃を繰り返すのだった。


 こうしてダイアンに対して完璧なヘイトが向いたところで、弓使いのミーヤと魔法使いのティーラが容赦のない攻撃を与える。

 背中からバッサリだ。弓矢に加えて氷属性魔法がスケルトンの身体を蝕んだ。


 すると敵は困惑して、状況確認しようと周囲を確認し始めた。全方位からの攻撃に思考が追いつかない様子。

 すかさずナイフ・弓矢・魔法攻撃が飛んできてモンスターは更に困惑し、一瞬だけ誰にもヘイトが向かない思考停止の時間が訪れる。


 ――そこをダイアンが最大火力で叩いた。刹那に反応したティーラの強化魔法でエンチャントされたロングソードが、骸の王の脳天に叩き付けられる。

 かくして、『腐れ落ちた骸の王』は頭をカチ割られて死亡した。


 ヘイト向け→全方向攻撃で注意分散→近距離から大ダメージ……この黄金コンボで反撃の隙さえ与えない、素晴らしい連携だった。

 こんな連携テク、Bランクでもそうそうお目にかかれねぇぜ。


「ギャハハ! ダンジョン攻略完了だ、おめでとうガキ共! これでやっと1人前だな!」


 俺は拍手しながら彼らを讃える。ボス扉の凍結が解かれ、ダンジョン踏破を称えるように扉が全開きになって初めて――3人は白い歯を見せた。


「や、やった――やったあっ!」

「うわ、やば。うれし」

「ノクティスさん、あたし達――クリアできましたよっ!」

「おう、しっかり見てたぜ。街に帰るまでがクエストだが、ひとまずはお疲れさんと言っておこう」


 3人の頭を代わる代わる撫でて、わしゃわしゃと髪の毛を掻き回した。ぐしゃぐしゃに乱れた髪も厭わずに飛び跳ねて喜ぶガキ共を見て、俺は何故か寂しさと嬉しさを抑えることができなかった。

 見た目は変わってねぇのに、でっかくなりやがって……。

 うっかり涙が零れそうになったので顔を背けると、俺は3人の視線を誤魔化すようにこう言った。


「おいガキ共! まだやることが残ってるんじゃねぇのか?」

「え……?」

「やること?」

「なんか残ってたっけ?」

「ギャハハ……忘れんじゃねぇよ! バラして持って帰る必要があるだろうが」

「「「あっ」」」


 俺が指さす必要もなく、特殊個体スケルトンに視線を移す3人。

 ダンジョン最奥ということで死体全てを持って帰る義務はないものの、討伐証明として生首ひとつくらいは持ち帰らなきゃならねぇだろう。


 ただ、やはりと言うべきか。

 解体作業とか死体を扱う行為はまだまだ慣れないらしく――

 ミーヤとティーラが死体に刺さったナイフを回収していたダイアンへ仕事を押し付けたのをキッカケに、泥沼の押しつけ合いが始まったのであった。


「オレは嫌だ! トドメ刺した俺が1番活躍したんだから、解体作業は免除されるべきで――」

「はぁ!? 私のエンチャントが無かったらボスは倒せてなかったでしょ! 私はパスで!」

「あたしも嫌だからね!? 汚れた手で弓矢を触ったら弦が切れちゃうもん!」


 ぎゃあぎゃあ騒いで、あーだこーだとガキみてぇに罵り合って。

 俺はそんな愉快なガキ共を眺めながら、今日いちばんの笑いを堪え切れなかった。


「ギャハハ! おいガキ共! そんなんじゃCランク冒険者にもなれねーぞ!」


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