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異世界恋愛短編

カミツレの首飾り

作者: 空原海

柴野いずみさまの「スパイス祭り」企画参加作品です。




「は、初めまして。僕はクリストフェル・ラグナータといいます」



 おずおずと王子が手を差し出す。メイベルはニッコリと笑った。


 幼い少年少女の初顔合わせ。その舞台となった庭園はみずみずしい若葉の香りに満ちていた。

 メイベルの後れ毛が風に揺られ、王子の巻き毛にも同じ薫風が届く。



「こんにちは、王子様。わたくしはメイベル・プレナ。あなた様の可愛い婚約者ですわ!」



 メイベルのふくふくとした手ががっしりと王子の手を両手で包む。ぶんぶんと勢いよく上下に揺すられ、王子はその勢いでよろける。



「まあ! なんてか弱くていらっしゃるの! わたくしが守って差し上げなくてはね!」



 淑やかに取り繕うことなく、大口を開け、不遜な口ぶりでコロコロと笑う令嬢。

 王子はぽうっと見惚れた。こんなにハッキリと物を言う令嬢は初めてだった。


 だって王子は知っていた。自分が王子になんて相応しくないくらい、うじうじと優柔不断で弱虫なこと。

 けれど周りの者はみな、「殿下は思慮深くていらっしゃる」とか、「広く民意に耳を傾けようとなされる寛大さ。まさしく天下人の器」だなんて幼い王子を持て囃す。


 それらは果たして本心なのか。


 いずれにしても、王子にとっては居心地の悪いものだ。

 おべっかならば気が抜けぬし、心酔されているのならば、その者は事実を捻じ曲げ何も見えていない。



「僕を守ってくれるの? 君が?」



 疑い深く、用心して眉をひそめながらも、王子の胸は期待に高鳴った。

 メイベルは力強く上下させていた手を止める。メイベルによって握りしめられたままの手。ぎゅっと力が籠められ、王子はビクリと肩を揺らす。



「ええ! だってわたくしは、素敵レディ王国ナンバーワン(当社比)ですもの。わたくしが王子様の婚約者となったのです。必ずや、お幸せにしてさしあげますわ!」


「カッコトウシャヒ? カッコトジル?」



 自信に満ち満ちた少女の繰り出す、呪文のような文句。初めて聞く言葉だ。

 王子は首を傾げた。



「ええ! わたくしが史上最高傑作の、素晴らしい令嬢だというとことですわ、王子様」



 なるほど、それならわかる。王子は頷いた。

 雲間から差し込む白く眩しい陽光にも増して、メイベルは小さな白い歯をキラキラと輝かせていた。







 見渡す限り一面の白い花。風が吹くたびに香る甘いカミツレ。

 メイベルは両手を広げてくるくると舞った。



「クリス! ほら、こちらにおいでになって!」



 白い小花が咲き乱れる中、アイボリーのドレスの裾を翻すメイベル。

 彼女の母が編んだというレースのサッシュが光を透かし、淡い青紫の影がドレスの上で踊る。

 アイボリーに落ちる青空。アイボリーを浚う光。

 メイベルは光と影を身に纏って、風と一緒に踊る。



「手を繋ぎましょう!」



 差し出されたメイベルの手。

 王子は自身の手をおずおずと差し出した。


 メイベルが屈託なく笑う。ぐんと強く引っ張られ、王子はよろけた。



「クリスったら、やっぱりか弱いのだから!」


「メイベルが強いだけだよ」



 ムッとしたように口を尖らせるも、王子はすぐに笑い声をあげた。

 二人、両手を繋いで上に下に振り回しながら、めちゃくちゃなステップで踊る。足を踏んで、蹴って、躓いて。カミツレの花畑に顔から飛び込んでいく。



「いいにおい!」



 手を繋いだまま地面に転がり、メイベルは大きく息を吸う。王子も一緒にカミツレの香りで鼻の穴いっぱいにした。



「ねぇ、クリス。カミツレの冠をつくりましょ」



 リンゴのような蜜たっぷりの甘い香りの中、ウトウトしかけていたところだった。王子の隣りで、メイベルが突然身を起こす。

 途端に、ふわふわキラキラとした夢の世界が霧散する。王子はぱちぱちと目を瞬いた。



「今、寝ていらしたわね?」


「寝てないよ!」


「うそおっしゃい」


「メイベルと一緒にいるときに、僕が寝るわけないじゃないか!」



 悔し紛れに言い張ると、見上げたメイベルの顔がじんわりと赤く染まった。



「クリスは、わたくしといる時間を楽しく思ってくださるの?」



 メイベルのいつになく、か細い声。王子は驚いた。慌てて身を起こし、メイベルの顔を覗き込む。

 常に自信に満ち溢れているように見えたメイベル。王子の前で、幼い少女が不安そうに眉尻を下げている。



「当たり前じゃないか! 僕はメイベルが好きなんだ! メイベルと一緒にいられる時間が誰といるときより、何より好きだよ!」



 メイベルの目尻に涙がうっすらと浮かぶ。王子は手を握った。



「わたくし、プレナ家の人間ですのよ? 王家に圧力をかけて、無理やりに婚約を迫った――」


「メイベルはメイベルだ」



 きっぱりと断言する王子に、メイベルはくしゃりと顔を歪めた。笑おうとして失敗し、結局泣き出した。年相応の幼子のままで。



「ねぇ。メイベル。僕は物知らずだけど、少しは知っているんだ」



 声をあげて泣く、いつもは強気な少女の背中に腕を回す。幼い二人はお互いをよすがにギュウと抱きしめ合う。



「メイベルはプレナ家で疎んじられているんでしょう?」



 メイベルは泣きじゃくりながらも、こくりと頷いた。

 父親であるプレナ家当主は、寵愛している身分の低い女を囲っていた。メイベルの母親は、愛人を一人と定めず、取り替え引き替えしては遊び渡る、身持ちの悪い女だった。


 プレナ家当主が本妻に生ませた娘。それがメイベル。

 メイベルが男子でなかったことに、父親は喜んだそうだ。プレナ家を継がせずに済むと。

 女ならば年の近い王太子と婚約させることができる。王家に押し付けることで厄介払いができる上に、王家掌握の足掛かりを掴める。


 父親にとってメイベルは、王子の婚約者であることだけが、肯定される価値だった。



「僕に取り入れって。そう言われていた?」



 メイベルが王子のチュニックにぎゅうとしがみつく。若草色のチュニックはメイベルの涙で、ところどころ濃い緑色に変わっていた。



「ええ。クリスは自信のあまりない、優しくて気弱な王子様だから、わたくしが支えて差し上げなさいと」



 メイベルの言い分より、ずっと露骨な指示をされていただろう。王子は思った。だが、追及はしない。

 王子が臆病で情けないことは事実だったし、メイベルは王子の弱みにつけ入って煽てたりおもねったりするような。そんな卑怯なやり方を取らなかった。

 いつでもまっすぐに王子の目を見て、ダメなものはダメだとはっきり口にした。よいものはよいと根拠を明らかにさせた上で認めた。手放しに称賛したり媚びへつらったりはしなかった。


 それになにより。



「うん。メイベルは僕を支えてくれている。だってメイベルは僕のことが好きでしょう?」



 メイベルは飾らない好意と敬意を王子にくれた。出会ったその日から。



「ええ! わたくしはクリスが好き!」



 満面の笑みを浮かべたメイベルに、王子は見惚れた。

 赤くした鼻からは鼻水が垂れ、真っ赤に充血した目と涙で腫れぼったい瞼。頬には涙の線がかぴかぴしている。

 そんなメイベルがたまらなく可愛く見えた。


 その後はカミツレの冠を編んで、互いに贈りあった。

 いずれ王子とメイベルが戴冠するだろうクラウンとティアラ。

 カミツレで編むティアラはリボンを先端に結んで、メイベルの髪にくくりつけた。クラウンはすっぽりと王子の頭におさまり、前髪の巻き毛が額に押しつけられた。



「メイベル。大きくなったら僕と結婚してください」


「ええ、もちろん。わたくしがクリスを守ると誓うわ」


「僕だって」



 メイベルはにっこりと笑った。


 たくさん摘んだカミツレは、その晩、従僕に頼んでお茶を淹れてもらった。

 リンゴのような、南国の果物のような甘酸っぱい香りが鼻腔をかすめ、王子はその晩、とても素敵な夢を見た。

 見渡す限り白い小花、カミツレで埋め尽くされた花畑。そこで、メイベルと手を繋ぎ、笑い合い、踊り続ける夢。


 王子は後日、メイベルに贈り物をした。

 焦げ茶色の革紐に、銀製のペンダントトップを通しただけの、素朴な首飾り。ペンダントトップのモチーフはカミツレの花。

 揃いでしつらえさせたそれを、王子とメイベルの二人は、肌身離さず首から下げるようになった。







「メイベル、これは……よくないよ。怒られちゃう」


「クリスの弱虫毛虫! 大丈夫ですったら。わたくしの言うことを信じなさい」



 怖気づく王子の手をグイッと引っ張り、メイベルは神殿の祭壇へと足を進める。

 王子はビクビクとあたりを見渡した。


 目に入ってくるのは、色鮮やかなステンドグラス。そこから差し込む光。立ち並ぶいくつものキャンドル。

 壁や床の白い大理石はピカピカに磨かれ、鏡のように反射している。

 白に落ちる、ステンドグラスの赤、青、黄、緑。その他、とりどりの色。輝く美しい光。


 王子は「だって」と、恨めしそうにメイベルを睨んだ。引かれた腕に力を込め、少しばかり抵抗する。



「メイベルはプレナ家の人間だから、気にならないのかもしれないけど」



 神殿長を筆頭に、国教を司る聖職者たちを輩出するプレナ家一族。メイベルはその本家嫡子だ。

 神殿の権威は王家に優る。



「僕は怖いよ。やっぱりダメだよ」



 白亜の神殿。メイベルと王子が進まんとするその先には、荘厳な女神像。

 こちらを見下ろす女神が、厳しく王子を叱責しているように思えてならない。



「何が怖いのです? この時間は神官も巫女も出払っております。誰にも気がつかれませんわ」


「神官たちが気づかなかったとしても。女神様はお怒りになられるよ」



 王子は腕を引いた。手首を掴んでいたメイベルの手が離れる。

 触れていた箇所が急に冷たくなった気がして、王子は自身の手でさすった。



「女神様のお怒りなんて、ありっこないですわ」



 腰に手を当て、胸をそらすメイベルの不遜な様子ときたら。

 どきどきと王子の胸が高鳴る。

 いったいメイベルは何を言い出すのだろう? どんな突拍子もないことが、この小さなレディの口から零れ落ちて、王子を驚かせてくれるのだろう。


 期待を込めてメイベルをじっと見つめる。メイベルは王子の耳元に赤いくちびるを寄せた。



「クリス、ここから見える?」



 メイベルの白く細い指が示す先へと、王子が目を向ける。メイベルはニンマリとくちびるを吊り上げた。

 王子の目の端にちらりと映る、メイベルの得意満面。頬は紅潮して、鼻がぴくぴくしている。



「女神様の像。目元をご覧になって」



 そう言われて王子は目を凝らす。

 大理石彫刻の女神像。つるりとなめらかな乳白色の頬。くっきりとした瞼と下瞼のふくらみが影を落とし、眼球もまた頬と同じくつるりと滑らかで、凹凸もなく白く――白く?



「あれ?」



 王子はパチパチと目を瞬いた。

 おかしい。だって女神像の目は白目だけのはずで。それなのに。


 王子はごしごしと目をこすってみた。もう一度目を凝らす。女神像の美しく厳かな相貌。それから。

 やはり王子の目には、ないはずのものが見えた。



「メイベル。僕、目がおかしくなったみたい」



 女神像を呆然と見つめたまま、王子は言った。メイベルは王子の肩に手をのせて、含み笑いをする。



「おかしくなったのはクリスの目かしら。本当に?」


「えっ」



 王子が振り返ると、すぐ鼻先にメイベルのキラキラとした青い目とぶつかった。神殿のステンドグラスのように、鮮やかな青。

 そしてあるはずのない場所に、王子が見たのと同じ青。



「おかしくなったのは女神様の目ではなくて? 違う?」


「ええっ」



 メイベルはドレスの隠しポケットから巾着を取り出し、「割れないようにそっとね」と王子に手渡す。



「中を開けてみて」



 言われるがままに紐解くと、青い小石や角の丸まったガラス片。赤褐色の火山灰。それから卵に刷毛。



「これ、もしかして」



 おそるおそる顔を上げると、メイベルは王子ににっこりと微笑んだ。



「女神様に目を描いてさしあげたの。クリスとわたくしと。おそろいの青い目!」



 罰当たりな、とか。あんなに高いところまでどうやって、とか。

 そんなことを問いただす必要はなかった。

 なぜなら王子はこれからメイベルと一緒に、女神像をたくさん飾ってあげるのだから。


 メイベルはもう一つ巾着を取り出した。

 中には色とりどりの花びら、葉っぱ、木片に貝殻など。たくさんの画材が入っていた。もちろん、いくらか乾いたカミツレの花も。



「今度はどこを飾ってさしあげる?」


「メイベルと僕とおそろいにしよう!」


「カミツレの首飾りですわね!」



 王子とメイベルが床に巾着の中身を広げていると、神殿の外に控えていたメイベルの侍女が梯子を抱えてやってきた。

 遅れてやってきた王子の侍従は慌てた様子で侍女を止めようとした。だが結局、梯子を女神像に立てかけた。

 王子がうつむいて、侍従の上着の裾をぎゅっとつかみ、「やっぱりダメかな」と声を震わせたからだ。


 結局その日のうちに、神罰を恐れぬ愚挙は暴かれた。


 青い目だけならば、イタズラは長く隠されたかもしれない。

 だが王子とメイベルと。最終的には侍女と侍従、それから見張りをさせられていた護衛騎士まで加わって、五人。

 最高傑作ができたと胸を張って神殿を後にした。そうして残された女神像。


 それはもう、けばけばしく派手に飾り立てられていたのだから。咎められないはずがなかった。







「王太子殿下とあらせられるお方が、軽佻浮薄(けいちょうふはく)というものではございませんかな」



 でっぷりと脂ののった太い指が、たるんだ顎を撫でさする。

 その指には神殿長の証であるシンプルな純金のシグネットリングだけでなく、大粒のダイヤやエメラルドなどが嵌め込まれた、重そうな指輪が食い込んでいた。


 王子とメイベル。幼い少年少女を一段下に立たせ、自身は玉座にどっかりと腰掛ける。豪華な深紅の絹が張られたひじ掛けに神殿長が腕を下すと、金の房が揺れた。


 目をすがめ、「それともこれは、我が一族の『恥ずべき者』のよからぬ誘惑でしょうかな」とわざとらしくため息をつく神殿長。王子ははっとして顔を上げた。だが、王子が口を開く間もなくメイベルがコロコロと笑った。



「だって猊下。女神様だって女性でしてよ? 着飾りたいに決まっておりますわ!」


「……メイベル」



 神殿長の後ろに控えていた、プレナ家当主が低く唸る。メイベルの父親。メイベルを見る目には、温かな情愛どころか、一かけらの親しみも見当たらない。

 メイベルは両手を広げた。



「猊下もお父様も、男性ですからおわかりにならないのですわ! 乙女はいつだって美しくありたいものなのです。乙女心を解さぬ殿方は、無粋だと女人から厭われますわよ」



 メイベルが茶目っ気たっぷりに片目をつむってみせると、プレナ家当主の顔が赤黒く染まった。



「小娘が!」



 ツバを飛ばして噛みついてきそうなプレナ家当主を、神殿長がでっぷりとした手で押しとどめる。



「まぁまぁ。『恥ずべき者』のさえずり程度、プレナ家の人間として流してやりなさい」



 メイベルを見下ろし、ニタリと口を歪める。「天下人は寛大であらねば」と。細められた目には、好色な慈しみと許しがあった。

 王子がメイベルの前に進み出る。びくびくと怯えたような表情は隠せぬまま。



「おや。失礼いたしました。この国の太陽。王太子殿下。これはこれは、私としたことが。『恥ずべき者』の傲慢な穢れにつられたようです。貴方様の御前で我らプレナを天下人と嘯くなど」



 神殿長はねっとりとした視線を這わせる。王子とメイベル。二人の幼い身体を舐めるように。



「偉大なる王太子殿下。どうかその寛容なお心でもって不敬を問わずにくださいますかな」


「……許すよ」



 実を伴わない形式ばかりの主従。許し許される。舞台と脚本を用意され、役割を演じるだけの道化。

 王子はくちびるを噛んだ。



「その代わり」



 おや、というように神殿長が脂肪に埋もれた、豚のような小さい目を瞬かせる。王子は吐き気をこらえて睨めあげた。

 チュニックシャツの中にしまいこんだカミツレのペンダントトップを手でおさえる。



「『恥ずべき者』に()()()()()()を仕掛ける『おぞましき者』は許さない。決して」


「――そのような悪魔が現れましたら、私ももちろん、許しはしませぬぞ。女神様に誓って」



 神殿長は一瞬鼻白んだ。だがおそらく王子の疑惑に衝動的な怒りを覚えたのだろう。驕り高ぶって自尊心が高い者ほど、事実を指摘されて憎悪を燃やす。神殿長は彼の崇める女神まで持ち出した。


 薄汚い二枚舌の男の誓いに、どれほどの効力があるのかはわからない。なかったことにされるだけかもしれないが、それでも言質を取ったことに王子はひとまず溜飲を下げた。



「では、僕とメイベルが女神様に謝罪し、あなたが女神様に宣誓する。それでよいでしょうか」


「そうですな」



 平時と変わらず、だぶだぶと肉の垂れた神殿長の顔は白い。だが落ち着き払っているように見えて、実のところ相当に憤っているのだろう。神殿長は王子の言葉に即答する。

 プレナ家当主は呆れたように、眉をひそめて神殿長を一瞥した。



「では祭壇へ」



 王子はメイベルの手を引いた。


 神殿長は曲がりなりにも聖職者だ。その裏で何をしていようとも。彼の根拠となるだろう女神に誓うと口に出したのだ。ぜひとも誓ってもらおう。


 祭壇奥にそびえたつ女神像。王子たちがイタズラに飾った色とりどりの小石は、すっかり取り払われている。

 王子は首から下げた革紐を引っ張り上げた。チュニックの下にしまい込んでいたカミツレのペンダントトップを握りしめる。それから目を閉じ、胸の前で手を組み合わせた。



 ――敬愛なる女神様。

 美しく彩ったこと。僕たちからの女神様への感謝と真心です。お気に召しましたか?

 今日は女神様にお願いがあります。 

 どうか。どうか、僕に力をください。

 メイベルを守りぬける力を。

 最愛の人を幸せにできる力を。

 王太子として。後の王として。きっとこの国をよくすると誓いますから。女神様の慈しまれるこの国を、きっときっとよくしますから。



 祈りを終え、王子は目を開けた。女神像をじっと見つめる。女神はきっと、真摯な願いを聞き届けてくれるだろう。

 袖を引かれ、王子は振り返る。



「クリス。大好きよ。わたくしが必ず、あなたを幸せにしてさしあげますわ!」



 メイベルの手にはカミツレの首飾りが握られていた。






(了)

お読みいただき、ありがとうございました。


後日譚に『婚約解消しないといけなくなっちゃったんだ、と王子様は言った 〜女神メイベル爆誕、愉快な仲間たちを添えて。逆行の末、幸せに暮らしました〜(https://ncode.syosetu.com/n6181hr/)』があります。


ご覧いただけると、とても嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[良い点]  後日譚を先に拝読してから、こちらを読みにまいりました。メイベルとクリスが可愛すぎて、悶えてしまいました……。  カミツレの花の誓い……素敵です! [一言] 「王子とメイベルと。最終的には…
[一言] カミツレと苺がこんがらがって?? どんな甘い香りになっているのかな? 甘く可愛らしくでもすがすがしい二人の恋物語はとても素敵です(#^.^#)
[良い点] 「スパイス祭り」から拝読させていただきました。 可愛らしく応援したくなる二人ですね。 そして、弱々しく見えても芯は強い王子。 かっこいいです。
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