第7話 準備
王都へ着いた俺を待っていたのは、王様と王女様だった
あれ? 王妃様がいないみたいだけれども
何かあったのか?
「勇者殿にはまだ紹介していなかったな。 紹介しよう、我が愛娘のエスコルピオ=パシリスだ」
王様は、王妃のことに全く触れないまま話し出した
王様の愛娘として紹介された少女は、真珠のような綺麗な目をしていた
年齢は俺より少し下だろうか それにしては胸がありすぎる気もする
そして、どこか悲しそうな表情をしているようにも見えた
「まずは、魔王討伐 誠に感謝する。 やはり勇者殿の腕は一級品であったな」
褒められちゃったけど、実際のところ剣を一振しただけでそこまで苦労はしてないんだけどね
「魔王討伐の報酬として、100万Gを勇者殿に献上させて頂こう」
ちなみに、この国の通貨は一番高価なのがGでその後からS、Bと下がっていく
1Gが10S、1Sが10Bと転生者の俺にもわかりやすい通貨単位だ
て、考えると100万Gってめちゃくちゃじゃね!?
「さらに地位も勇者殿に与えたいのだが、欲しい地位などあるか?」
地位だって?
別にそこまでしてもらう義理はない
てか、あまり目立っても恥ずかしいし
「いえ、地位の方は遠慮しておきます」
「そうか……」
おいおい、そんな悲しそうな顔するなよ
なんか悪いことした気分になるだろ
「それなら冒険者カードの職業欄の所に勇者と記入することを許そう」
マジで!?
いまだに職業欄が空白だったから、ちょっと恥ずかしかったんだよな
王様は俺の冒険者カードに手を当てる
「ほら、これでお主は勇者だ」
王様が俺に冒険者カードを返しながら言った
ほんとだ
職業欄に(勇者)って書いてある
「勇者よ、魔王討伐改めて感謝する。 だがこれからどうするつもりだ]
「そうですね、魔王はこの国からいなくなりましたが、まだこの国には魔物が存在しています。 その魔物がどこから出てくるのかわからなければ、またいつ魔物が襲って来るやもしれません。 なので魔物の活性化の原因を調べに街を回ろうと思っているのですが……」
「……」
「お、王様?」
俺は何か悪いことを言ってしまっただろうか
静かに下向いて黙ってるし
え? もしかして、寝てたりする?
「儂は感動したぞ!」
王様が椅子から降り、俺の服をつかんですがってきた
うわっ! びっくりした!
は? どういうこと?
「魔王を倒すだけでは物足りず、我が国民まで救うと言われるのか! なんと慈悲深いお方だ!」
そ、そんなにか?
「よろしいっ! お主の提案、儂が引き受けた! 我が国民のために頑張ってくれいっ!」
王様は顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら言った
よほど心に染みたのだろう
そんな大層なことは言ってないんだけどな
「いつでも娘を嫁にやる準備はできとるぞー!」
俺が国民を助けるため旅立つ時に、王様がそう叫んだ
おいおい、恥ずかしくなるからやめてくれ
それを見ていた王女は、どこか不満げな表情を浮かべていた
こうして俺とメランとカルディアの三人は、困っている人々を救うべく旅立つ事にした
だが魔王を倒した疲れか、体が思ったように動かない
少し休憩してから出発するか
この異世界アペイロンでは人と魔物が 七:三の割合で存在している
人はユウと同じ亜人にエルフ、ドワーフ、獣人、ドラゴン族が居る
ドラゴンは神聖な生き物のため魔物には含まれないんだとか
そして魔物も二種類に分かれる
三割のうち二割は食料や家畜として人の生活に役立っている
残りの一割は完全なる魔物、つまり人の敵になるわけだ
アペイロンはそれぞれの種族と魔物の領土、合わせて六つに分かれている
魔物の領土へは余程のことがない限り近づかないようにと定められているそう
「ねえ、ユウさん? 旅に出るのはいいですけども、私たちこのまま出かけてもいいんですかね?」
ふとカルディアが聞いてきた
確かにそうだ
今考えれば、俺は剣一本むき出しで持っているだけだし、カルディアは手ぶらだ
まあ、百歩譲ってメランはドラゴンだ
メランならそのままでも戦える
それでも、これから人助けをするような感じには見えない
それどころかこっちが助けてほしいようにも見えてしまう
ここはカルディアの言う通り、装備を整えるのが先決か
俺達は旅に出る前に最低限の装備をと、武具屋へ向かった
カランカラン
「いらっしゃいませー」
入口のベルが鳴り、中から女性の声がした
どこか気の抜けた声だ
案内する気あるのか?
「この街一番の武具屋、どうぞ心ゆくまでごゆっくりと」
と言って店員は奥へと帰っていった
いやいやいや、ちゃんと接客してよ!
「すいませーん!」
俺は奥へと帰った店員を呼び返す
「なんですか? 私女の子の攻略で忙しいんですから」
いや、ギャルゲーすんなよ
てか、仕事しろ仕事を
この異世界にもギャルゲーはあるのか⋯⋯
じゃなくてだな!
「これから出かけるんで最低限の装備は整えたいと思うんですけど、何かいい装備ってありますかね?」
ユウは野暮ったい目をした店員に聞いた
「そうですね…… でしたら、ここら辺の装備とかどうでしょうか?」
店員はフラフラとした足どりで俺達を案内した
おいおい、この人大丈夫なのか?
初めて会ったけど心配になってきたよ?
「この短剣とかならー、そこの小さな子にも扱えると思いますねー」
店員はカルディアに短剣を渡した
鞘から剣を抜いて、カルディアは短剣を舐めるように見ていた
そこまで珍しいのか?
そういえばカルディアに初めて会ったとき持っていた短剣はどうしたんだ?
「ああ、あの剣ならもう壊れましたよ。 もともとボロボロでしたから」
そ、そうか…… じゃあ短剣も買わないといけないな
「あ、そうだ。 この剣、鞘が無いんですけどもこの剣に合う鞘ってありますか?」
「うーん⋯⋯ これとかどうでしょうか?」
店員は明るい青色の鞘を渡した
長さもちょうどよさそうだ
ユウは、早速剣を鞘に納めてみる
しかし
「「あ」」
カランと乾いた音を立てて鞘は落ちた
縦に真っ二つに割れて
「こ、壊しましたね!!」
店員が声を荒らげて言う
「ち、違うんです! この剣は勇者の剣でして、その⋯⋯」
「勇者の剣?」
勇者の剣という言葉に店員は反応した
「少し見せてもらっても?」
「え、ええ」
ユウは剣を机の上に置く
店員はその剣をまじまじと見ている
「ほぉー なるほどなるほど ほえー はぁー ふーん」
何か分かったのだろうか
「確かに、この剣は勇者の剣ですね。 しかし残念ながら、勇者の剣に見合う鞘はこちらには置いていないんです」
な、なんと⋯⋯
じゃあ、俺は勇者の剣をむき出しで持っておかないといけないのか?
「ドワーフの村に行けば、勇者の剣専用の鞘を作ってくれるかもしれません。 あそこは鍛冶の村ですから」
ドワーフか
鍛冶ができそうな感じはするな
ひとまずはそこへ向かうか
その後、カルディアには短剣と靴を新しく買った
履いていた靴は、ボロボロで見るに絶えなかったからな
一方、ドラゴン族最強のメランは兜を被ったりして遊んでいた
全く呑気な事だ
あと、定番の回復薬 ポーションを十個ほど購入して武具屋を出た
「これからどこへ行くんですか?」
カルディアが聞いてきた
「ドワーフの村だ。 ここから西に行ったところだな。 メラン、お願いできるか?」
「がってん!」
だから古いんだって
とにかく、装備よし回復薬よし
ドワーフの村に向けて出発だ!
良かったら評価の方お願いします!