第23話 氷の精霊王 ジャリード
そんなこんなで俺とメランはシー二海に戻ってきた
全く、リーノも面倒ごとをよくもそう簡単に持ち込んでくるな
というか、精霊王ってもしかして精霊たちから嫌われてたりするのか?
ファイロもそうだったし あ、プロクスは別か
初めて行った時と同じように水を避けて水中神殿についた
そこで見た光景に驚愕する
水中神殿では、ファイロと前に水中神殿で会った人が楽しそうに話していた
この女の人が氷の精霊王ジャリードか?
「あら、そちらの方は一度会ったことがありまして?」
ジャリードらしき人が俺に向かって話しかけてきた
向こうも覚えてくれていたようだ
「改めまして、私は氷の精霊王ジャリード 水の精霊を束ねている長的な者ね」
ジャリードはそう言った
ジャリードは真っ白なドレスに身を包んでおり、ファイロの熱で溶けてしまいそうなほどに美しかった
俺たちに気づいたファイロも俺に話しかけてくる
「こんなところにいたのか! あまりにも帰りが遅いから心配して見に行ったら、お前たちはいなかった どこに行ったのかと思って探しに行こうとすると、氷の精霊王ジャリード様によびとめられたってわけだ」
そういえば、ファイロからケルベロスの毛を編み込んだマフラーをリーノに届けてくれと言われていたんだった
これはこれはすっかり忘れていた
色々あったからな 忘れてしまっていたんだ
「それで、ファイロは火の精霊にも関わらず氷の精霊王にあこがれているのか?」
俺は率直に聞いてみた
俺がそう言うとファイロは、バカに焦りだした
「べべべべ、別にそういうわけじゃないし! ただ炎の精霊王にあこがれるよりも氷の精霊王にあこがれるのは全ての火の精霊がそう思うだろう」
まあ、そうか
プロクスも自業自得だな
可哀そうとは思わないし思えない
「そんなことはいいんだ! それでリーノに俺が作ったマフラーは渡したんだろうな? 反応はどうだったんだ?」
ファイロは俺たちの方に向かってきながら言った
「「…………」」
答えずらい……
まさか渡してすぐに捨てられたなんて聞いたら、どんな反応するだろう
俺たちはなんて答えたらいいものかと口ごもっていると、その様子を察したのかジャリードが
「ねえ、ファイロってリーノのこと好きなの?」
この精霊王、悪びれるでもなくぶっこんできやがった!
さあ、ファイロはこの問いにどう答えるのか
「はは、はあ? なな、何言ってるんだよ! そそ、そんなことないし!」
大当たりだ
俺たちもうんうんと大きくうなずいた
これまでのファイロを見ている人なら誰もが分かっていることだ
ファイロは分かっていないとでも思っていたのか?
ファイロは顔を真っ赤にして、その場に座り込んだ
「んん?」
ジャリードが何かを感じ取ったみたいだ
メランも何かを感じ取ったみたいに、俺を守るような恰好をとっている
守られる勇者って…… なんか嫌だな
トスッ
ジャリードが俺の真後ろの壁に氷の矢を放った
ひえッ まさか当てようとは思っていないと思うが、真後ろに攻撃されるのはいくら何でも怖い
「何こそこそしてるの そこにいるんでしょ、リーノ」
ジャリードは静かに言った
リーノだって!?
リーノはエダフォスと一緒にいるはずじゃ……
「ははは、やっぱりジャリードにはバレちゃうか」
そう言ったのは本当にリーノだった
リーノは半笑いで出てきた
隠れていたのか
「りりりり、リーノ!?!? な、なんでここに!?」
ファイロはさっき以上に驚いている
そりゃあ、本人を目の前にしたんだ 俺でもそうなるだろう
「じゃ、じゃあ 俺の話、全部聞かれてたのか?」
「そ、そう言うことになるね……」
リーノは、気まずそうに言う
変な空気があたりに漂う
「う、嘘だろおおおおおお!!」
ファイロはそう叫びながら、逃げていった
ま、そうなるわな
ファイロはこの後立ち直れるのか?
「それで、リーノは何しに来たの?」
ジャリードが話を切り替えるかのように言った
この空気をどうにかしてほしいと思っていたから、ジャリードに救われた感があった
「あ、そうそう ユウ達がちゃんと私が言ったものを取ってこれるか心配だったから、私がついてきたってわけ」
俺達そんなに信用されてないのか
悲しいなあ……
「また人に取ってこさせて 何を取りに来たの?」
またって 前も同じようなことしてたのか
余程ジャリードに会いたくないと見える
「えっと、サラマンダーの鱗がはがれているから保湿するためのクリームが欲しいなあ って思って」
「サラマンダーの鱗が?」
ジャリードは不思議そうに言う
何か感じたのか
「でも、あまり塗りすぎないようにね ほどほどにしておきなさいよ」
そう言い、ジャリードは小さな小瓶をリーノに渡した
「それから、リーノ ファイロに謝っときなさいよ ファイロはあなたのことが本当に好きなんだから」
言ったあああ!!
言い切ったあああ!!
男のプライドをずたずたにしてきやがる
氷の精霊王ジャリード恐るべし
リーノはジャリードの気迫に押され、うんうんと頷いた
そして、俺たちはリーノと一緒にエダフォスたちのもとに戻ることになった
ジャリードは何か考え事をしているみたいで、そっとしておいた
「なあ、ジャリードが思っていたのと違うんだが」
「ウム、我もびっくりした まさか、あんな人物だとは我も思わなかった」
メランもびっくりしているよう
リーノに詳しい話を聞いてみた
「ああ、ジャリードは周りから美しく見られたいがためにそう言ってるの」
フーン なるほどな
精霊王も美しさとか求めるんだ
話が途切れたところで、リーノのもとに通信が入った
相手はあの氷の精霊王 ジャリードだ
何か思い出したのだろうか
「うん、うん ……ええ!? そういうことはもっと早くに言ってよ!!」
リーノが声を荒げて言った
ジャリードからの話を聞いたリーノは顔を真っ青にして
「エダフォスが危ないッ!」
とだけ言って、一人飛んで行った
お、おい! 待てよ!
メランに乗った俺たちも追いかける