第14話 少しばかりの休息
俺達はファイロと初めて会った場所に戻り、プロクスからもらったケルベロスの毛を渡した
その場所には、ナールもいた
なんかこいつらよく一緒にいるな
「お、おう ありがとな」
なんか気まずそうにしていた
何かあったのか?
「ところで、そのケルベロスの毛ってどんな効果があるの?」
ペルルがファイロに聞いた
確かにそれは俺も気になる
「分かった。 採ってきてくれた代わりに教えてやる。 このケルベロスの毛を使ったものを身に着けていると寒い 冷たいなどと言った感覚がものの見事になくなるんだ! どうだ! すごいだろ!!」
ファイロがご機嫌そうにしていた
もともとはお前のものじゃないくせに、よくもまあそこまで言えるもんだ
俺は感心した
「それでなんだが、今ちょうど出来上がったこのマフラーを水の精霊に届けてきてほしい」
何で俺達が届けないといけないんだよ
君たちは精霊王とは違って自由に動けるんだから、自分で行けばいいのに
俺がそう言おうとしているのを顔から判断したのか、ナールが
「こう見えてファイロは忙しいの! あなたたちも暇なのだったら行ってきてくれたっていいじゃないの!」
反論してきた
忙しいのが本当かどうか定かでは無かったが、これ以上何か言ったらナールが何を言い出すか分かったもんじゃない
俺達は言う通りにすることにした
ファイロから問題のマフラーを預かった
ファイロから預かったマフラーは、まるで生き物かと間違いそうなほど暖かかった
どういう原理なのか知りたくなる
「分かってるとは思うが、必ず絶対に渡せよ」
固く念を押された
そんなに信用されてないのか、俺って
ペルルが触りたいと言ってきたので、渡してやった
「一応、届け物なんだから落としたり汚したりするなよ」
俺はペルルにそう忠告した
まあ、半分くらいは聞いていないだろうけど
なぜなら、当の本人はマフラーを頬にあて
「気持ちいい……」
と、今にも寝てしまいそうな声で言った
俺はペルルからマフラーを取り上げようとしたが、ペルルは犬のように威嚇してきた
そんなに気に入ったのか
「おいおい、大丈夫なのか?」
ファイロが心配そうに聞いてくる
俺も大丈夫だとはとても思えない
「……分かったよ 今度会ったときにでも同じものを作ってやるからそれで我慢してくれ」
ファイロはそう言って、俺に目配せしてきた
ペルルのこと 頼むぞ と言ったところだろうか
俺に言われてもって感じだが、そこそこ信用してくれているみたいだ
「そうだ 水の精霊がいるシー二海はこっから結構な距離があるからな。 くれぐれも気を付けて」
シー二海 聞いたことない名前だ
特別な海なのか?
「せっかく教えてもらったんだ。 ユウ様、ここはしっかり準備をして上で行くとしましょう」
メランがそう提案してきた
そうだな 火の精霊がいうくらいだ
何が来ても対処できるようにしておきたい
カロル火山から出る道は抜け道があるらしく、そこを利用させてもらうことにした
俺達も、もっとよく探してから入るべきだったのかもしれない
今度来るときは、この道を使わせてもらおう
また危ない思いをしたくないからな
火山の麓にはエリモスというちょっとした街があるらしく、ここでひとまず休憩させてもらうことにした
このエリモスという街は木や草は全く生えておらず、いわゆる砂漠地帯だ
この街に住んでいる人はどうやって生活しているのか少し気になる
俺達は、とりあえず目についた武具屋で装備を整えることにした
「いらっしゃい」
中には、店員と思われるおじさんが一人いた
「お前さんたち、あまり見ない方だね。 もしかして旅のお方かい?」
おじさんが不思議そうに言った
そうとも言い切れないが、違うともいえない
「ま、まあそんなとこです」
俺はあいまいにごまかした
おじさんも俺達についてそれ以上聞くことはなかった
「そうかい、それじゃあ気に入ったのがあったら呼んでくれ」
と言って、おじさんは奥へ引っ込んでいった
俺達は店の中を見て回った
だが、特に気になるようなものはなかった
ペルルは店の端で、マフラーを抱いていた
「…………」
ふと、メランに目をやるとなにやら一つの商品を見ていた
メランが見ているものは、一つの赤いリボンだった
「これが欲しいのか?」
俺はメランに優しく聞いた
「べ、別にほしくなんかないぞ! ただきれいだなー と見ていただけであってだな……」
ドラゴン族最強の黒龍が必死に弁明している
この姿を見るのは俺が人類で初めてだろう
「遠慮するなって。 買ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます……」
メランは恥ずかしそうに顔をうつむかせて言った
どこぞの王女様よりもずっと可愛い
ついでにペルルのも買っといてやるか
メランのだけ買っておいて、あとから文句を言われたらめんどくさいことこの上ない
「おーい ペルル お前も何か欲しいものはあるか?」
「んんー? 私が欲しいのは黄金パン……」
はあ、また言ってるのか
仕方ない、俺が勝手に決めるか
とは言ったものの、俺は女の子に何かをあげたことが一度もない
だから、女の子の趣味なんてほとんど分からないんだが
「ここら辺のペンダントでいっか」
俺は月の形をしたペンダントをペルルにあげることにした
なかなかいい線をいっていると思うのだが、どうだろう
メランとペルルにあげるものも買い、早速水の精霊のもとに向かおうとする が
ペルルが突然倒れた
何の予兆もなしに、急に倒れた
急いでペルルに駆け寄る俺達だったが、当の本人は気持ちよく眠っているだけだった
全く人騒がせな王女様だ
しかし、俺も少し疲れてきたかもしれない
やはり自分のことは自分がよく分かっている
この辺で休める場所を、探すことにした
一日10Sで泊めてくれる宿屋を見つけた
結構良心的な宿屋だ
部屋につくと、メランがもじもじしだした
「トイレならそこにあるだろ?」
「ち、違う!!」
メランが叫びながら怒った
空気が一瞬びりびりと震える
「分かってるって ちょっとからかっただけだから」
そう言い、俺はさっき買った赤いリボンを取り出した
途端にメランの顔が明るくなる
いくら黒龍と言っても、ちゃんと女の子なんだな
俺は順調に伸びている左の角に結んでやった
メランはリボンを触りながら、とてもうれしそうにしている
買ったかいがあったってもんだ
さてと、一足先に眠っているペルルには明日渡すとしよう
とりあえず今日はこの辺で お休み