第13話 狂犬ケルベロス
俺は勢いよくとびかかってきたケルベロスの攻撃を、紙一重で交わした
だが、ケルベロスはまた俺に襲い掛からんとしてきた
ほんと俺に何用だっていうんだ
俺は闇の魔法でケルベロスの動きを止めようとした
まずは、おとなしくなってもらわないと話にならない
そんな俺の考えは簡単に打ち砕かれた
ケルベロスは俺の闇の魔法を、自分の炎で焼き払ったのだ
しかし、このケルベロスは炎の精霊王の愛犬だ
さすがの俺でも傷つけるのは遠慮したい
と、したらどうしたものか
そう考え事をしていた俺の右腕に、ケルベロスがかみついてきた
とんでもない激痛が走る
「ユウ様! 大丈夫か!」
「ちょっと! 大丈夫なの!?」
メランとペルルが心配してくれている
俺は心配かけまいと、無理にでも起き上がろうとするが、すぐにバランスを崩して倒れてしまう
「ペルル! ユウ様の回復をお願いできるか!」
「う、うん 分かったわ!」
こういう時メランは本当に役立ってくれる
全く頼もしい限りだ
メランが一人でケルベロスと対峙しているうちに、ペルルが俺の傷をポーションで癒そうとしている
しかし、何かが邪魔をしているのか分からないがポーションが全く効かない
それどころか、傷はどんどんひどくなるばかり
さすがにペルルもやばいと感じて、焦り始めた
「何でよ! なんで傷がふさがらないのよ!!」
ついにペルルは泣き出してしまった
俺も傷のせいで気を失いそうになる
そんな時、ペルルの背中から黒い手のようなものが生えているように見えた
死の淵で見える幻覚かもしれないと思っていたが、どうも違うらしい
その黒い手は俺の体に触れてきた
すると どうだろう 体の中からあふれんばかりの力が湧いてきた
いつの間にかペルルが癒そうとしていた傷も癒えている
何がどうなったのか分からないが、今はそれどころじゃない
先にケルベロスをどうにかしないと!
俺の体は不思議と軽かった
今なら何でもできる気がしていた
「メラン! 待たせた!」
俺は颯爽とメランの助太刀に入る
メランにとってケルベロスなど子犬みたいなものなのだが、傷をつけずにとなると戦いにくそうだ
俺はさっき使った闇の魔法を再びかけた
もちろん簡単にケルベロスには炎で焼かれてしまうのだが、俺は焼かれる前にさらにかけることを思いついた
まあ、要は持久戦だ
ケルベロスの体力が持つ限り、俺の魔法の魔力が持つ限りこの戦いは終わらない
さて、これはいつまでするのが正解なのだろうか
何度も何度も魔法をかけていると、頭が痛くなってきた
ケルベロスがようやくおとなしくなってきた
やっと体力の限界が来たか
それにしても、何でこんなことになってるんだ
ケルベロスはこんなに好戦的なのか?
「チっ」
どこからか舌打ちをする声が聞こえた
俺はその声を聴いてすぐにその聞こえた場所に向かったが、そこには誰もいない
そこには誰かがいたのかもしれないが、俺には分からずじまいだ
「やあやあ、僕の愛犬ケルベロスを傷一つつけずに見つけてくれてありがとう」
そう言って登場したのは、見るのも難しいくらい派手な衣装に身を包んだプロクスだった
本当に見ているこっちまで恥ずかしくなってくるようなものだ
これが共感性羞恥とか言うものか
プロクスは俺が死ぬ気でかけた闇の魔法をいとも簡単に片手で引きちぎった
それを見た俺はあんぐりと口を開けるしかなかった
さすがに精霊王の名は伊達じゃないということか
闇の魔法から解かれたケルベロスは、真っ先にプロクスにかみついた
それも結構がっつりいっている
それでも、プロクスはハハハと軽く笑っている
本当に大丈夫なのか?
「ハハハ、大丈夫さ これがケルベロスなりの愛情表現なのさ」
と、本人は言っているがどう考えても怒っているように見えるんだが
しかも、唸っているし明らかにプロクスに殺意の目をしている
とか考えていると、急に倦怠感に襲われた
ケルベロス戦で意図せず、無意識に飛躍の精神を使っていたのかもしれない
真相は分からないが、とにかく少し休んでからの方が良さそうだ
とりあえず、俺達はプロクスの館に戻ることにした
「さて、改めて僕の愛犬を見つけてくれてありがとうと礼をいっておく。 ここからが本題なんだが、ケルベロスを怪我無く見つけてくれた礼がしたい。 何かないか? 僕は大抵のことは平気でやってのけることができるが」
プロクスはそう簡単に言いのける
そうは言っても、特にしてほしい事なんて……
いや、待てよ
ペルルの浄化の件を頼むのもありなんじゃないか?
俺は、聞いてみることにした
「ああ、言い忘れていたが僕たち精霊王はこの地帯 まあ僕なら火山だね から出ることは精霊会議の時にしかできないんだ。 それ以外なら、大丈夫なんだけど…… ちなみに精霊会議っていうのは月に一回ぐらいのペースで行われる会議のことなんだ。 あんまり詳しいことは言えないけど まあ、主な内容は自分たちが管理している地帯の現状報告とかかな」
あ、言う前に否定された
精霊王たるもの、忙しいのか
ならば、仕方ない
「その、ケルベロスの毛を十本ほどくれませんか?」
俺はファイロに頼まれていたことを思い出し伝えた
その提案にプロクスは快く了承してくれた
「また、ファイロが何か考えているのかな?」
と、プロクスは呟いた
前にも同じことがあったのだろうか
それと、ケルベロスから毛を取るときにまたかみつかれていたことが気になるんだが
本当に愛犬なのか怪しく思えてくるぞ?
何はともあれ、ファイロが言っていたケルベロスの毛を十本手に入れたことだし早速ファイロに届けに行くか