第3話 ギルド登録
ペルルがおとなしくなって、ギルドに少し早くに着けると思っていたんだが……
「思っているよりずいぶん時間がかかってしまったな」
思っていたより倍くらい時間が掛かってしまった
黄金パンを買ったのが悪かったのか、ペルルが色んな所に寄り道を始めた
当の本人のペルルだけがピンピンしていた
「とにかく、これでようやく当初の目的 ギルドへの登録ができる」
そう言った俺の声は震えていた
ギルドでのあの出来事をいまだに引きずっているんだ
あの出来事はいくら頭の中から消そうと思っても消えない
どうやっても消し去ることができない
ギルドの扉を開けるのを躊躇してしまう
俺が開けるのをためらっていると、三つ目の黄金パンを食べ終わったペルルが扉を勢い良く開けた
こいつ、空気読まねえな
勢いよく開けたギルドの中は、俺が前に来た時と明らかに変わっていた
俺はもちろん驚いた
そのギルドの中に見知った顔の人がいた
「あ、シスターさん! 久しぶりですね!」
そこにはシスターがいた
「あ、ユウさん。 本当に久しぶりですね!」
シスターも俺に気づいて話し返してくれた
シスターも前に会ったときとあまり変わっていないな
知っている顔を見て、俺は少し安心した
「シスターさんはここで何をしてるんですか?」
俺は正装しているシスターに、思い切って聞いた
シスターは、前に会った時よりも普通に話せていた
人見知りも多少治ったのだろうか
「えっと、私はギルド内の一角をお借りしてお悩み相談を受けているんです」
これはまた、シスターらしいことをしている
俺達は一つの部屋に通された
そこは、俺がシスターと初めて会った教会だった
「ここは、教会なんですか?」
俺は不思議に思って聞いた
「ええ ここは教会でもあり、私とユウさんが初めて会った場所でもあります」
んん? 頭が混乱してきたぞ?
あの場所からこのギルドまでは、結構距離があると思うんだが
「えー? ユウったらまだわからないのー?」
ペルルが横から口をはさんできた
その言い方は分かっている言い方だ
「なんだよ、それならお前は分かってるっていうのか?」
「もちろん!」
これからまだまだ大きくなるであろう胸を張りながらペルルは言った
「シスターいるところに教会あり。 ということは、シスターと教会は一心同体ということじゃないかしら!」
うっ······
返す言葉が見つからない
「あら、そこのお嬢さんはよく分かりましたね。 そうなんです、私がいるところに教会が移動するようになっているのです。 だから私がいなくなった場所には教会もないという訳なんです」
せ、正確に的を得ていただと!?
この王女、恐るべし能力だ
「ところで、そのお嬢さんはどちら様で? ここら辺ではあまり見ない顔ですが?」
ギクゥ!
痛いところをついてくる
だが、問題ない
ちゃんと対策はしている
「旅の途中で知り合ったんです」
メランがすごい顔で俺を見てくる
それで通ると思っているのか、という顔をしていた
「あら、そうなんですね」
シスターは、顔色一つ変えずそう言った
簡単に信じたぞ?
俺はドヤ顔でメランを見た
メランはそっぽを向いていた
「と、とにかくシスターに会えて良かったです。 それじゃあ」
俺はこれ以上ボロを出さないように、早めに退散することにした
シスターと長く話していたせいか人の視線をあびている
早く用事を終わらせるとするか
「いらっしゃいませー! ギルドへよーこそ! お食事ですか? 登録ですか?」
お姉さんが意気揚々と俺たちに話しかけてくる
全く、元気なこった
ま、こうでもしないとやっていけないのかもしれないな
「登録ですけど、登録するのはこの二人です」
俺はメランとペルルを指さした
指をさされたペルルが不服そうな顔をしていたがわざと無視した
「そーですか! それでは、こちらの資料に必要事項を書いてお待ちください!」
お姉さんは俺に二枚の紙を渡してきた
俺が冒険者として登録した時と同じような紙だった
ペルルとメランが書く場所は、名前と職業のふたつだ
「えっと、名前はペルルで職業は王女っと」
おいおいおい、ちょっと待て
いくら何でも職業欄に王女と書くのはまずいだろ
「そこは俺が書いたみたいに空欄にしとけ。 そしたらギルド側が何とかしてくれる」
俺はペルルにしか聞こえないくらいの小声で言った
「えー、でももう書いちゃったし。 どうすればいいの?」
手遅れだったか
これは本当にどうしたものか
「まあ、王女様にあこがれていらっしゃるんですね!」
お姉さんがペルルの紙を見て、そう言った
バレなかったか?
「いいですよー。 お姫様なんて女の子のあこがれですもの! 私も昔はお姫様にあこがれてましたよ。 きれいなドレスに身を包んで豪華な食事を食べたりと、子供のころはたくさん妄想したものです。そして、ゆくゆくは隣国の王子様と結婚してラブラブなあまーい生活を送りたいと何度思ったことか! でも今はこんなギルドで働いてイケメンな人と巡り合えるかと思いきや、やってくるのはむさくるしい男共ばかり。 はーあ、私ももし戻れるならお姫様みたいな生活をしてみたかったなー」
お姉さんはその後もメイドがどうとか執事がどうとか言っており、話はまだまだ続きそうだったのでこの場を離れることにした
一方、メランの方は職業欄に ドラゴン と書いていた
天然なのか、ボケなのかは俺には分からなかった
ギルドの受付の人に書いた資料を渡し、何とか冒険者カードを手に入れた二人
ていうか、ペルルはカードを二枚持っていることになるがその辺は大丈夫なのか?
「さてと、用事も終わったことだし街へ戻るか」
俺がそう言ったとき、あんまり会いたくない人に出会った
「お、勇者様じゃねえか! それと、例のドラゴンと……これはこれは王女様じゃないですか!」
待て待て待て そんな大声でその名前を口にするな
それよりも、なんでペルルが王女だって分かったんだ
そう、俺達が出会ったのは黒騎士団長のリガンだった
俺は慌てて、リガンを連れて物陰に隠れた
王女と聞いて周りがざわついている
この騒ぎ、どうしてくれるんだよ
「ちょっと! あんまりその言葉を口にしないでくださいよ! こっちにはこっちなりの理由があるんですから」
俺は王様から言われたことを包み隠さず話した
包み隠さず話したのは、隠してもバレると思ったからだ
「なるほどな。 王女様のために外の世界のことを教えてあげるっていうのか。 なかなか難しいだろうが、頑張れや。 それじゃ」
颯爽立ち去ろうとするリガンを俺は慌てて呼び止めた
「なんだ? こう見えて俺は忙しいんだ。 大したことじゃなかったらその口を切り落とすぞ」
なんて怖いことを
「え、えっと、なんでペルルが王女だって分かったんですか?」
「ああ? そんなの簡単なことじゃねえか。 俺が最強だからだよ!」
リガンは声を張り上げ言った
そして、リガンはカードを取り出し俺に見せ付けてきた
「ほら、ここにランクが書いてあるだろ? このランクはギルドで登録した時につけられるんだ。 下から C B A S Z の五つに分けられている。 そしてこの俺は最高ランクのZだ!!」
普通の人たちはCで冒険者はB~A、騎士やそれ以上はS、そしてこの世界でリガンのみがZランクなのだそう
俺達も自分の冒険者カードを見てみる
メランがSランクで俺とペルルがBランクだった
俺とペルルはがっくりと肩を落とした
「まあ、ランクが全てってわけじゃないからそう気にすんな」
リガンはそう言って、ひらひらと手を振りながら受付の方へ向かっていった