第2話 まず一歩
王様が俺たちを送り出してくれた
ペルルは王族の服装のまま出かけるわけにもいかず、王から支給された冒険者用の服に着替えている
ペルルは不服そうな顔をしていた
そんなに嫌なのかよ
俺まで気分が悪くなってくるじゃないか
メランも気まずそうな顔をしている
「ま、冒険者としてやっていくのがいいだろう。 正式にギルドに冒険者として認められたら、これから動きやすくなるだろうし」
俺はペルルにそう言った
だが、ペルルは全く聞く耳を持っていない
ちょっとイラついてきたな
ほんと王女じゃなければ、ぶん殴ってたかもしれない
落ち着け俺、冷静になるんだ
こんなところで騒ぎを起こしたところで何になるっていうんだ
「とりあえずギルドへ向かおう」
俺はペルルを冒険者として登録するために、ギルドへ向かうことにした
「…………」
まずい、会話の一つもない
気まずすぎだろ
「なあ、メラン。 姫様について知ってることって何かあるか?」
俺は囁き声でメランに聞いた
ペルルがどうしてこんなに俺を嫌っているのか
それには何かしらの理由があるのか、分からなかったためメランに聞いてみることにした
「うーん······ 我にも王族のことについては詳しくないのだ。 王族はこの国で一番上の人達だ。 いくら物知りな我でも王族のことについてはまだまだ分からないことがたくさんある」
な、なるほどな
てか、自分で物知りとか言っちゃうんだ
「そうだユウ様、ちょっと王様に電話してみぬか?」
メランが俺にそう提案した
王様に?
何を言えばいいんだ?
「王様からはペルルに外の世界のことを教えてほしいと言われたな。 だが、それはいくらなんでもざっくばらんとしすぎではないだろうか? そこら辺を知らなければ、何をどうすればいいか分からないではないか」
メランは一息に言った
そう言われればそうか
俺は冒険者カードを取りだし、王様に電話をかける
「はい、王様です」
第一声がそれか
普通に王様って名乗っていいのか?
「あ、もしもし王様でしょうか? 俺です ユウです」
「おお、ユウか! それで、娘の様子はどうだ?」
う······ いきなり痛いところをつかれる
というか、まだそう時間経ってないじゃないか
「そ、それがですねぇ······」
俺は王様にペルルが俺のことを嫌っているんじゃないかということを伝えた
その後に、目的や目標のことを聞こうと思っていた
「なるほどな 確かに我が娘は人見知りする方かもしれないが人を嫌うなんてことはしないはずなんだがな まあ良い。 ちょっと娘に代わってもらえないか?」
俺はペルルに冒険者カードを渡し、王様からの電話に出るように言う
「もしもし? お父様? どうされまさしたか?」
声色が変わった
女って怖えー!
「うん、うん もう、分かったってば! はい じゃあ切るからね!」
話し終わったのか、ペルルは俺の冒険者カードを雑に返してきた
おいおい、もっと大事に扱ってくれよ
勝手に切られたが、まだあなたの父親に話したいことがあったんだがな
「お父様に言われたわ。 私があなたのことを嫌っているんじゃないかって。 今だからはっきり言うわ。 もちろん! 私はあなたのことが嫌いだわ!」
ペルルは、たわわな胸を大きく張りながら言い張った
バーン! と効果音がなりそうな雰囲気だ
い、いやあ 分かってはいたものの、こう面と向かって言われると、心に来るものがあるなあ
「ま、まあ それは置いといてだな。 もう一度君の父親に電話してもいいか?」
「ふんっ! 勝手にすれば!」
怒られた
王様に何を言われたか知らないが、怒られる筋合いはない
俺はもう一度、王様に電話をかける
「もしもし、王様です」
ついさっきも聞いた挨拶だ
「あ、また俺です、ユウです」
「おう! ユウ殿か! それで、我が娘の様子はどうだ?」
え? デジャブ?
時間でも巻き戻ったか?
「い、いえ そんな早く変わるわけないじゃないですか」
「はは、そうか。 それで、本題はなんだ?」
「先ほどはペルルに切られましたが、まだ話は終わってません。 王様、外の世界のことをペルルに伝えると言いましたが、ざっくりしすぎではないですか? 目的や目標を提示してくれなければ、困りますよ」
「ウーム……」
王様は考え込むようにうなった
考えてなかったのか
「確かにそうだな。 そうだ、一年間 娘の世話をしてほしい。 帰ってきたときに目に見える変化がほしい」
目に見える変化?
まあ、前の言い方よりかはましになったか
「達成できたなら、望みの物をなんでもやろう。 ただ、もしできなかった場合は……」
王様は最後の言葉を濁した
なんとなく察しが付く
「は、はい……」
「はっはっは 冗談じゃよ。 何はともあれ、我が娘のことをよろしく頼むぞ」
と言って、今度は王様の方から電話が切れた
「だってさ」
俺はメランに向けて言った
メランもなんとも言えないような顔をしていた
「あれ? ペルルは? どこへ行った?」
俺達が電話をしているときに暇にでもなったのか、どこかへ行ってしまったようだ
全く、勝手に動きすぎだ
王女なんだからもうちょっと警戒心をもって行動してほしいものだ
俺は呆れつつも、ペルルを探しに行くことになった
「ユウ殿! いたぞ!」
メランが走り回って見つけてくれた
ペルルは店の前で一人立っていた
「おい、ペルル。 一人で勝手に動くなよ。 誰かにさらわれたりしたらどうするつもりなんだ」
俺は結構きつめにペルルに言った
いくら王女だからと言って、甘やかしてばかりではいけない
ここはきっちり言っておかないと!
だが、当の本人は身動き一つせずに店の方をじっと見ていた
何を見ているのか気になり、横から覗く
ペルルは目をキラキラさせながら、一つのパンを見ていた
ペルルが見ていたパンは、『黄金パン』と書かれていた
どんなものかというと、中と外に蜂蜜のようなものがかかっており周りに金色の粉がまぶされているものでまさに黄金パンだ
「ペルル、よだれ出てるぞ」
俺がそう言うと、ペルルは慌てて口元をぬぐった
これは使えそうだ
「おい、ペルル この黄金パンが欲しいのか?」
俺がそう言うとペルルはものすごいスピードで俺の方へ振り向いた
だが、すぐにそっぽを向き
「ふん、別にいらないわ。 ただ見てただけで勘違いしないでくださいまし」
こ、これがツンデレってやつか?
初めて見た
「そうか、なら俺とメランの分だけ買ってくるか」
俺が明らかにペルルに聞こえる声で言った
「あ、ああ……」
何か言いたげな顔をしている
「人にものを頼む時にはいう言葉があるんじゃないのか?」
俺は世間知らずの王女様に教えてあげた
「わ、私の分も買ってきな、買ってきてください」
「よく言えました」
俺は大きく頷き、三人分を買ってくることにした
本当は俺も食べたかっただけなんだけどな
俺が買ってきた黄金パンをおいしそうに頬張るペルルの笑顔を見て、俺も自然と笑顔になっていた
この日を境にペルルは少しだけだがいうことを聞いてくれるようになった
さて、遠回りだったがようやくギルドへ行ける
ペルルも新しいことができると聞いて、わくわくした顔をしていた