第42話 そしてすべてが始まる
俺が目覚めると、唇に何か温かいものが押し当てられていた
目の前には、目をつぶりながら必死に口づけをしているティファナがいた
ふと、ティファナが目を開けた
俺とティファナは目が合う
「ゆ、ユウさん……」
ティファナは目に涙を浮かべている
おいおい 泣くなよ
何はともあれ、戻ってこれたんだからよかったじゃないか
「ユウ様! 戻ってこれたのか! あの邪の女神マルムの攻撃をもろに食らったんだ。もう戻ってこないかと思ったのだ」
メランも心配していたようだ
それもそうか
「それはそうとして、ティファナは何をしてたんだ? ただ単に俺にキスがしたかったわけではないんだろ?」
俺は赤くなっている顔を見られないようにしながら言った
だって、初チューだったんだぞ!?
こんなの誰でもこんな反応するだろ!!
「…………私はユウさんを助けるためにあの行為をしてました。 魔法は意識のある者にしかしか使えません。 ユウさんは邪の女神の魔法を食らってしまい、意識不明の状態でした。 ので、薬での治療しか方法がなかったんです。 だ、だから直接……」
ティファナはそう言ったっきり顔を赤くして座り込んだ
そんなティファナもかわいいなあ
「コホンッ! 話は終わったか?」
今までの流れを静かに見ていた獅子王が、軽く咳ばらいをした
そうだ まだ獅子の冠を獅子王からもらっていなかったんだった
「改めてユウよ、戦いの儀での戦闘見事だった。 お主の力を認め、この獅子の冠を渡そう」
そうして俺は獅子王から獅子の冠をもらった
これで破壊神ヘレスを封印するためのアペイロン五神器がそろった
早速ヘレスの元へと向かいたいところだが
「まだ病み上がりなんですから、ユウさんは少しでも休んでいてください!」
ティファナに怒られた
まあ、そうか
このまま戦ってやられたりなんかしたら、それこそティファナに合わせる顔がない
ここはティファナのいう通りに、休ませてもらうか
俺はカシャ―ムで宿を貸してもらい、そこで数日休ませてもらうことにした
まだ、ヘレスは大っぴらに動いていないみたいだし
「そういえば、アグノスに礼をしてなかったな。 アグノスはどこにいるんだ?」
俺はアグノスがどこにいるかメランに聞く
「ん? アグノスならユウ様の後ろにいるが?」
はあ!?
そんなわけ! と思いながらも俺は後ろを見た
いた そこには頬を膨らませたアグノスがいた
ずっとそこにいたのだろうか
なぜか拗ねているような顔をしていた
「話を聞いてやりたいところだが、まずはお礼を言わせてくれ。 俺が強くなるために君の父親を紹介してくれてありがとう。 おかげで獅子の冠も手に入った。 アグノスは世界を救ったといってもいいんだぞ! もっと胸を張れ!」
俺がそう励ましたが、アグノスの表情は変わらなかった
他に何か原因があるのだろう
「で、俺に何か言いたいことでもあるのか? 表情から見るに余程大事なことのように思うが」
俺は黙っているアグノスを半ば無理やり問いただした
だって、黙っているんだから気になるじゃないか
こちらとしても、中途半端なのは嫌いだ
「私もユウさんと一緒に心躍る冒険がしてみたいです!」
アグノスは俺にそう宣言した
そう思うのも無理はないか
アグノスぐらいの年齢だったら、好奇心も旺盛で外の世界をもっと見てみたいと思うのだろう
それに、アグノスは普通の時の俺よりはるかに強い
いい仲間になるだろう
でもだ
「何より君はまだ子供じゃないか。 お父さんの許可はもらったのか? どんなに辛くても弱音を吐かないか?」
俺がそう告げると、アグノスは黙って下を向いた
アグノスはまだ俺よりも人生の経験が浅い
世の中で生きてきた年数が違うんだ
「でも、あの時一つだけ言うこと聞いてあげるって言ってたのに……」
あ・・・・・・
確かに言ったな、俺
その条件付きでアグノスの父親に鍛えてもらえるようになったんだった
さて、どうしたものか
「じゃあ、こうしよう。 俺は世界が平和になったらここへ必ず戻ってくる。 その時に俺をも超えるくらい立派になっていたら、同行させるよ」
「ほんと!?」
アグノスの目に光が戻った
機嫌を直してくれたみたいでよかった
「ああ、本当だ。 約束しよう」
俺はアグノスに小指を出すように言う
俺がその小指に自分の小指を絡ませる
「ゆーびきーりげーんまーん、噓ついたらはーりせんぼーんのーます ゆーび切った」
「今のは?」
「俺の故郷に伝わる約束の呪文さ。 これをした者同士は約束を破ることは絶対にできないんだ」
アグノスは不思議そうに自分の小指を眺めていた
子供は純粋で本当にかわいいなあ
それから数日たったある日
「もう大丈夫みたいですね。 でも無理は絶対にしないでくださいね! あんな思いをするのは一回で十分ですから」
ティファナがあきれたように言う
ほんと面目ない
「ところで、ヘレスはどこにいるんだ?」
ヘレスを封印しに行くとは言ったものの、肝心な場所が分からない
事前に調べておくんだった
「我の千里眼で見るとするか」
メランはやっぱりという感じでそう言った
「ふむ、ヘレスの気配は感じない。 おそらく気配を消す魔法を使っているのだろう。 それも我に分からないほど高位の魔法だ。 だが、それでもまがまがしいくらいの邪の気が漂っている場所がある。 そこへ行ってみるのが先決だろう」
ついにか……
ついに俺たちはここまで来た
ここまで来て世界を簡単に滅ぼされてなるものか!
俺は改めて気合を入れなおす
メランの案内で俺たちは(たぶん)ヘレスがいる場所へ向かっていた
しかし、こう二人になるとなかなか話しにくいものだ
キスの件もあってか俺とティファナの間に気まずい空気が流れていた
すると、突然メランが急ブレーキをかけた
俺とティファナは思わず体が当たってしまう
「おい、メラン。 俺たちをからかうのはやめて――――」
「ユウ様、光の魔法で姿を消してください」
メランが落ち着いた声で言った
あまりにも落ち着いた声だったため、俺は何も言い返さず静かに従った
ん? 下から何かが昇ってくる
それも一つじゃない
あ、あれは!
昇ってきたのは封印されていた四炎龍だった
「暴れるな、さすが邪炎龍は手ごわいなあ」
邪炎龍の背中には、カシャ―ムで戦った男と同じ服装をしていた
あいつら、四炎龍の封印を解いて何をするつもりだ?
だが、今の俺たちには到底かなわない
ここは見逃して本来の目的、ヘレス封印に全力を尽くそうと誓った
良かったら評価の方是非ともよろしくお願いします!