第41話 邪の女神 マルム
マルムはアペイロン五神器を集めている勇者がどれほどの手だれか知るために来たらしい
こちらにしてみればいい迷惑だ
「ユウ様は戦いで傷ついている。 邪の女神様には悪いが後にして欲しい」
メランがマルムに言う
だが、マルムの返事はこうだった
「勇者たる者、いつなんどきでも戦えるようにしてないといけない。 だから全くもって問題ない」
問題しかないんだって
こいつ神様のくせにそんなことも分からないのか?
「そうよそうよ! 今戦っても結果は目に見えているじゃないの! そんなので勝ってあなたは嬉しいの?」
ティファナも珍しく大声でマルムに言った
「私はこれまで幾度となく世界を見てきた。 が、この今まで勇者とは戦ったことがない。 戦いはやってみないと分からないだろ?」
ダメだ あー言えばこー言う 押し問答だ
マルムは俺と戦わないと帰ってくれないみたいだし、俺が動くしかないのか
俺はまだ全回復していない体を無理やり起こし、マルムと戦おうとする
「無茶よ! あなたの体はとっくに悲鳴を上げてるのよ!? そんな状態で戦っていたら本当に──」
ティファナは言葉を最後まで言わなかった
俺もティファナの言いたいことは分かった
でも、このままだとマルムが何をするか分かったもんじゃない
「大丈夫だ。 これは俺にしかできないことなんだ。 俺がやらないといけないんだ」
ティファナはあきれながらも、俺に回復魔法をかけてくれた
俺はまだふらつく体を無理やり動かし立ち上がる
俺は真正面からマルムを見つめる
勝ち目のない戦いだと分かっている
それでも俺は戦うんだ
「覚悟を決めたか勇者よ。 私と戦う気になったか。 さあ、己の力を見せてみろ!」
マルムは戦う気満々のようだ
そして俺たちは戦いを始めた
マルムがおそらく邪の魔法を俺に向けてバンバン打ってくる
こいつの魔力は底なしか?
てか詠唱もしてないけど 神だからか?
対して俺はその魔法を打ち返し、隙あらば反撃のチャンスをうかがっていた
最初はあの男と同じくらい互角の戦いをしていた
だが、それもつかの間だった
すぐに俺の方が不利になった
全解放を使えば勝てる可能性はあるかもしれないが、先ほどの戦いの儀で一回使ってしまっている
次に使えば命の保証はないかもしれない
だが、勝つためにはこうするしか方法が……
俺は悩みつつも本日二度目の全解放を使った
二度目の全解放を使ったのを見たティファナが、俺の方へ駆け寄ろうとしていた
「邪魔をするな。 弱小種族が」
マルムがそう言った途端、俺とマルムを囲むようにドーム状のバリアが張られた
バリアの外に出されたティファナの声は俺には届かなかった
ティファナが必死に俺に何かを伝えようとしているが、バリアの外で何も聞こえない
「これでもうこの戦いを邪魔するものはいない。 存分に楽しもうじゃないか!!」
マルムはさらにテンションをあげ、攻撃を再開した
さっきよりも魔法の威力が増している
今まではまだ本気を出していなかったというのか?
「それが勇者たるものの本気か。 それとも私相手では本気が出せないとでも?」
俺が弱いせいでマルムを怒らせてしまったようだ
俺は怒らせるつもりなんて微塵もなかったんだが
俺はいたって本気で戦っているんだが
「私はただ強いやつと戦いたいなのに、皆私から離れていく。 私が邪の女神だからか!」
マルムがいきなり怒って、魔法をぶっ放してきた
危ない危ない あれに当たっていれば即死だったかもしれない
というか、すべての攻撃が当たれば即死くらいのダメージなんだが
「やはりあいつの言っていた通りなのか! 私は所詮女神なのか」
マルムは一人でブツブツ言っている
「もういい、この戦いにも飽きた。 終いだ」
突然マルムは戦いを終えようとしてきた
まずいっ!!
マルムは魔法を打つ準備をしている
「この魔法を打つのはお前が初めてだ。 光栄に思うがいい。 邪の魔法の最高位の魔法だがお前は耐えられるか?」
邪の最高位の魔法だと!?
それを俺に放ってお前になんの得があるんだ
だが、それを考えている暇もなかった
俺はマルムの攻撃を避ける気力もなかった
どお――――ん!!
バリアの中だったからか、外に被害は出なかった
その代わり、俺が邪の魔法をもろに受けた
マルムはバリアを解き、気を失いそうになる俺に向けて言い放った
「所詮勇者も人間か、勇者と言えども大したことなかったか。 素直に聞いておくべきだったのかもしれないな」
そう投げかけて空へ帰っていった
バリアが解けたのを見て、慌ててティファナとメランがやってきた
「ユウさん! しっかりしてください!! ユウさん!!」
ティファナは俺をゆすりにゆすりまくる
そんなにゆすらないでくれ
「ユウ様! 死なないでください!! まだユウ様と冒険したいです!」
そんな二人の声を最後に俺の意識は途絶えた
「ここは?」
俺は気がつくと、見知らぬ場所にいた
ここはどこなんだろう
俺の全く知らない場所だ
ここがどこか分からないまま、歩いていると立て看板を見つけた
どうやらここは 生死の境目 というらしい
ここにはそう簡単に来れるものではないということか
「お、こんなところに人がいるとは珍しいなあ」
一人の老人が俺に話しかけてきた
その老人は、顎から白いひげを長く垂らしていて仙人みたいだった
「そうじゃ、お主に聞きたいことがあるのだがいいかの?」
老人は名前も知らないはずの俺に聞きたいことがあると言った
俺に一体何を聞きたいのだろうか
「私はこの生死の境目にきてから、このまま死ぬべきか生きるべきか悩んでいるのだ。 この場所に来る人間は全くいなくてな、一人じゃ決めかねんのだ」
ずいぶん贅沢な悩みだな
だけど、そんなもの答えは一つに決まってるじゃないか
「あなたは生きるべきです」
「ほう、それはどうしてかね?」
「人は死んでもすべての苦しみからは逃げられません。 あなたが死んでも悲しむ人が増えるだけです。 いいことなんて一つもありません。 生きてこそ人間というものと俺は思います」
俺はいっちょ前にいいことを言ったつもりでいた
それが老人の心に響いたのだろう
「そうか! 私はこんな年になってもまだ生きろと君は言うのか。 そうだな、神様の迎えが来るまで生きるのを頑張ってみるか。 そうそう、君もこの場所から帰らないといけないのだろ? ここを真っ直ぐ進めば元の世界に戻れる。君にも帰りを待つものがいるのだろ?」
老人は北の方を指さしながら言った
そうだ、俺にはまだやることがある
こんなところで死んでいる暇なんてないんだ
俺は老人にお礼を言って、元の世界へ戻ることにした
「今時の若者はダメな奴ばかりだと思っていたが、まだまだよさげな者もいるもんだな」
老人は一人静かに言った
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