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第35話 メラン

「メランが千里眼で勇者が再臨したと見て、出て行ったっきり全く戻ってこないから心配していたんだ」


ミータがそう言った

メランぐらいならもう一人立ちしてもいいくらいだろうに

この父親はとんだ親バカだな


「ところで、どうして母親と喧嘩なんてしたんだ? メランもよくわからないといっていたし。 本当のことを教えてくれないか?」


俺がそう話を切り出すと、ミータは静かに語りだした


「やっぱり話さないとだめだよね。 メランには少し話したんだが、私の母トルミ というんだがね。 そのトルミが大事にしていたネックレスを私は失くしてしまったんだ」


ネックレスってそう簡単に無くなる物か?

首にかけてるんだから、そうそう無くなりはしないはずなんだが

あ、でもドラゴン化とかしてたら失くしてしまうこともあるのかもしれない

俺には全く分からないが


「それを知ったトルミはもう大激怒。 危うく離婚寸前まで追い込まれたよ。何とか離婚は免れたんだけども、俺がそのネックレスがどういう意味を持っているのか未だに思い出せんのだよ。 それも相まってかトルミは」


『あなたは覚えてないのね』


「と言い、なぜか龍の盾をもって出て行ったんだ。 俺にはメランほどの千里眼は強くないし、どこに行ったかさっぱり分からないんだ」


バカか、こいつは

自分の妻からもらったものをなくした上に、その意味すら覚えていないだなんて

天然なのか、ただの大バカ者なのか

おそらく後者だろう


「そのネックレスはほどなくして見つかったんだがね」


「そのネックレス、ちょっと見せてくれない?」


メランがミータに言った


「ん? いいけども」


ミータはなんのためらいもなく、メランに例のネックレスを渡した

問題のネックレスは特に目立った特徴はなく、ただ赤い宝石がぶら下がっているだけだった


「こ、これは······!」


ネックレスを見たメランが驚きの声をあげた

心当たりがあるのだろう


「どうかな? 何か分かったことがあれば──」


「父上は何も分かってない!」


突然メランがそう叫んだ

あまりの迫力に俺はたじろいだ


「分かってないのは知ってるよ。 何が分かってないのかが俺は知りたいんだ」


ミータは呑気にメランに尋ねる


「本当に何も覚えてないんだね······」


そんな父親にメランは小さくため息をついて言い放った


「父上は母上の気持ちも思いも何もかも忘れたって言うんだね! それなら母上も怒って当然だよ! 父上がこんな薄情者だったなんて知りたくなかった!」


そういうとメランは家を出て、ドラゴン化してどこかへ飛んで行った

一体何だったんだ?


「あ、あのー 追いかけなくていいんですか?」


ティファナがミータに聞く


「ああ、大した問題じゃないよ。 どうせ行く場所は分かってるんだから」


ミータは椅子に座り直した

本当に呑気だな、このおじさんは


「ユウくん、と言ったかい? メランが迷惑かけてたりしないかな?」


ミータは俺に話しかけてきた


「ま、まあ 迷惑どころか助かってばかりですよ」


俺も雰囲気に流され正直に答えた

何やってんだか


「そうか、なら良かった。 昔からあの子はすぐに一人で突っ走ってしまう性格で、まさに自由を体で表したかのような存在だ。 周りの制止も聞かずに一人で行動して、トラブルに巻き込まれることもしょっちゅうあったなあ。 何度頭を下げに行ったことか」


「ははは·······」


メランも昔はやんちゃしてたんだな


「それが今はどうだ。 人様に迷惑をかけるどころか助けまでしている。 昔のメランからは想像もつかないことだ」


そして、ミータは立ち上がり俺に向かって言う


「メランは君に絶大な信頼を寄せている。 そんな君にならメランのことを任せられる。 俺もこんな歳になってまだ子供の成長を実感できていない。 だからこそ、君にメランのことを頼みたい」


ミータは深深と俺に頭を下げた

ドラゴン族最強の黒龍が俺に向かって頭を下げた

そう簡単に下げられる頭でもないはずなのに


「あなたの言うことは分かりました。 ですが今はメランを探すのが先でしょう。 場所を知ってるんでしたよね? 教えてくれませんか?」


「あ、ああ そうだったな。 えっと、メランは何か嫌なことがあった時はいつも海の近くにある酒場に入っていたなあ」


さ、酒場!?

メランはお酒を飲めるのか?


「当たり前よ! 代々ドラゴン族は酒には滅多に溺れない種族だ。 が、メランは何故かめちゃくちゃ弱い」


弱いんかい


「だが、飲むのは好きみたいで家に帰ってきた時はいつもお酒の匂いがしてたよ」


お酒、か

そういえば俺も久しく飲んでないな


「その場所を詳しく教えてくれないか?」



メランは飛んでいってしまったため、俺たちは歩いてメランがいる酒場へ向かっている


「ティファナはお酒強いイメージがあるけどもどうなんだ?」


俺は急にティファナに話題を振った


「わ、私ですか? 飲むのは飲みますけど、あんまり好きじゃなくて······」


そうなのか

エルフはみんなお酒に強いイメージがあったんだがそんなことも無いのか


「あそこっぽいな」


海の近くにポツンと明かりがついたお店があった

周りには建物ひとつも無く、海が広がるばかりだ


カランカランっ


入口のベルが鳴る


「いらっしゃい」


頭から一本の角を生やしたドラゴン族がそういった

俺たちをチラリと見たが、また作業に戻っていった


俺たちはそう広くない店の中にメランがいないか探す


「おやっさん! もう一杯!」


聞き覚えのある声だ


「メランよォ、何があったか知らんが今日はちいと飲みすぎなんじゃねえのか?」


「うりゅしゃい! さっさと持ってきて!」


あちゃー これは完全に出来上がっちゃってるな

呂律が回っていないメランはとてもレアだ


「おい、メラン。 飲みすぎじゃないのか?」



「ああん? ユウ様? ユウ様も飲みましょうよ!」


だめだ 完全に俺の言葉が届いちゃいない


「ほら、帰るよ。 まだやることがあるんだから」


「ええー もう帰りゅんでしゅか?」


そ、その声は!?

ティファナがお酒を飲んでいた

いや、正確に言うと、飲まれていた

はあ、結局こうなるのか


俺はメランを背負ってミータの元へ戻った

お酒も飲みたかったが、ここはぐっと我慢した


「お帰り、それとお疲れ様」


ミータが家で待ってくれていた

俺はまだ少し歩けるティファナを無理やり歩かせながら、帰ってきた

メランはもう酔いつぶれていた


「そこに寝かせてやってくれ」


俺はメランをミータのベッドに寝かせてやった

と、同時に俺を強烈な睡魔が襲った

俺は倒れるように眠りについた



「ユウ――、ユウ様!」


メランの声で俺は目が覚めた

起きると、目の前にはメランとティファナがいた

昨日のことは何だったんだ?


「行くんですよね? 我が母上の元へ」


メランはそう言った

記憶に残らないタイプなのかもしれない


「あ、ああ。 今行くよ」


こうして、俺たちはメランの母親 トルミの元へ向かった

その姿をヴェルデ兄弟が物陰からこっそり見ていた








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