第31話 邪の女神と聖の女神
邪神 いわゆる邪の女神はマルムというらしい
破壊神のヘレスとはまた違う存在のようだ
神にも色々いるんだなぁ
「聖の女神は自分たちを助けてくれなかった。 だがしかし、邪の女神は自分たちを見捨てはしなかった。邪の女神は自分たちに力を与えてくれた。それも世界を変えるほどの力を」
世界を変える、だと!?
いくら神といっても容易では無いはずだ
「そう、邪の女神のマルム様は本気で世界を変えようとしていた。 だが、それにはいくつか準備が必要だった。 それがアペイロン五神器だ」
少年はそう言った
確かにアペイロン五神器は神器と呼ばれるくらいの力を持っているのだろう
その力があれば世界を変えることなんて造作もないだろう
だが続けて言った、少年の言葉に俺は驚愕した
「みんなは邪神マルム様を心から崇拝している。 だけど僕は世界を変えることなんてどうでもいいんだ! むしろ世界を変えることに対しては反対派でもあるんだ!」
んん? 何を言ってるんだこいつは?
俺の頭がおかしくなったのかと思った
「俺は故郷に幼なじみを置いて邪神教に入れられた。 父親がまだ幼かった俺を無理やり入信させた。 その頃は考える力がそこまで強くなかったからか、対して不思議にも思わなかった。 だけど、成長して俺は確信したんだ! この邪神教は間違っていると!」
うーん⋯⋯
ついていけないのは俺だけじゃないようだ
メランもティファナも頭を抱えている
本当に大丈夫か? こいつ
「それに俺は幼なじみの彼女のことが好きで好きでたまらないんだ! だから俺は故郷に戻って彼女と結婚したいと思っている!」
あ、やっぱりこいつだめだ
人の話一つも聞かねえ
今、お前の好きな人の話なんてしてないし
「たとえ世界が壊れたとしても彼女は彼女のままだ! 僕は彼女と一緒にいたいと思ってるし僕も一緒にいたい!」
典型的な恋愛バカだ
もう俺にはどうしようもない
「何を言っている、我が息子よ」
突然どこからか声がした
少年が焦っている
どうやら、少年の首にかかっている十字架から声がしているように見えた
それが邪神教のシンボルなのかもしれない
「お前は邪神マルム様に仕えるために生まれてきたのだ。 他のことをしている暇なんてないぞ。 わかったらとっとと仕事に戻れ」
なんて理不尽な
「そうは言うけども、親父が今まで俺に何かしてくれたことがあるか? 何かして俺のことをほめてくれたことがあるか? そんなこと今まで一回でもあったか? それをわかっていてそんなことを言っているのならとんだ笑い話だな!」
口調が明らかに変わった
本当のこいつはこんな感じなのか
「ほう、ついにそんなことを言うようになったか。 そんな奴は我が息子ではない。 報いを受けよ」
こいつら親子関係だったのか
通りで言い方が変わるわけだ
「くっ……! かはッ……」
急に少年が、胸を押さえて苦しみ出した
おいおい、これはまずいんじゃないのか
「おい! 何をした!」
俺は思わず声を荒げて怒っていた
「誰だ貴様は。 貴様には関係ないことだろう。 ただ少し強制的に邪心を解放しただけだ」
強制的に邪心解放だと?
そんなことができるのか?
「お、俺は絶対に負けないぞ…… 彼女のもとに必ず帰るんだ!」
「ふッ その威勢もいつまで続くことやら。 貴様は後からきっと後悔するぞ! フハハハハハ!」
少年の父親は高らかに笑った
その笑い方は明らかに息子に対しての笑い方ではなかった
もう親子関係ではなくなってしまったのだろうか
「ぐッ…… ぐわあーーー!!!」
少年が苦しそうに叫んだ
そろそろこれは本気でやばいんじゃないのか?
そう思っていると、俺の体が考えるよりも先に動いていた
俺は苦しむ少年の後ろから優しく抱いた
俺はその時、ギルドの人たちのことを思い出していた
もう、誰もあんな苦しい思いにはさせたくない
もう、目の前で誰かが死ぬのは見たくない
もう、誰も何も傷つけたくない!
その一心で俺は少年を必死に抱いていた
体が熱い 頭もジンジンと痛み出す 立っているのが精いっぱいだ
そんなユウを見かねたメランが助けに行こうとしていたが、ティファナがそれを止めた
「なぜ止める! ユウ様のピンチなんだぞ! お主はユウ様がどうなってもいいというのか!?」
メランが声を荒げて言う
「大丈夫。 ユウさんならきっとあの子を助けられる。 私を信じて」
「そうは言ってもだな……」
俺はにこう少年にささやいた
「自分の思うがままに生きろ」
そういう俺自身も現実世界にいた時は、両親の言う通りにしか動かず、今さら後悔しているからだ
自分の道は自分で決める そう誰かが言ってたような気がする
すると、少年が優しい光に包まれた
「な、なんだこの力は!? 邪の力が押され始めているではないか!」
少年の父親にも思いもよらないことだったらしく、派手に驚いている
ユウの言葉のおかげか、ユウ自身の力かは定かではないが少年は次第に落ち着いてきだした
そして、ついに強制邪心解放を防ぐことに成功した
少年は息を切らしながら、俺にお礼を言ってきた
「本当にありがとうございました。 あと少し遅かったら邪心に飲み込まれていたかもしれません。 本当に感謝してますッ!」
「いやいや、大したことじゃないし気にするな。 それよりも、お前には、行くべき場所が、あるんだろ?」
俺は少年にそう聞いた
俺の言葉を聞いた少年は、フードを脱ぎ捨てて鉱山を去っていった
「はっ、勝手にしろ」
そう言って、十字架からは声がしなくなった
誰も居なくなってホッとし力が抜け、片膝をついてしまった
少年の目の前だからって、少し調子に乗りすぎたかもしれない
メランが慌てて駆け寄ってきた
一方、ティファナは口に手を当ててなぜか驚いているように見えた
何かあったのだろうか
「ようやく邪魔者がいなくなったか」
暗闇から声がした
いつの間にか俺の後ろに一人の男が立っていた
「邪神教徒はいなくなった、対象の聖剣持ちは負傷している。 これほど好都合なことがあるか! いや、ない!」
そう言って、男は俺の持つ聖剣目当てに攻撃を仕掛けてくるのだった
はあ、少しは休ませてくれよ……
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