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第25話 カセスの禁忌

性転換の日にもかかわらず、カセスは初めて会った時と同じ男の姿だった

俺は気になって、カセスに聞いた


「僕は今はこんな男の姿ですけども、実は女として生まれてきたんです」


ん? でも初めて会ったときは男だったから奴隷として捕まってたんじゃ……


「別に隠すことでもないので話しますね。 ですがここだと目立つのでちょっと裏でお願いします」


俺たちはカセスに連れられ、あまり人目のつかない裏路地で話を聞くことにした


「私は、先ほども言った通りもともとは女として生まれてきました。 もちろんこのアイルファでは女は男よりも大切に扱われます。 ですがそれでも女が何をしてもいいわけではないのです。 いくら女だからと言ってしていいことと悪いことがあるんです。 それがいわゆる禁忌というものです」


禁忌、か

確かにその言葉からしていい予感はしないな


「その禁忌というのが、エルフの聖杯の窃盗です」


せ、窃盗!?

ということはカセスが、そのエルフの聖杯とやらを盗ったってことか?

だが、あの優しいカセスがそんな悪事をするわけがない


「もちろん私はエルフの聖杯を盗ってなんかいませんし、そもそも私はエルフの聖杯の現物をこの目で見たことがないんですから」


なるほどな

つまりは、濡れ衣を着せられたわけか


「ちなみに聞くけど、どうしたら元の女の姿に戻れるんだ?」


「この胸に刻まれた性紋(せいもん)が消えることで、初めて元の女の姿に戻れるんです。 ですがその性紋を消すことができるのがエルフ長なんです」


あの堅物そうなエルフ長か

確かにあの人ならそんなこともできるだろうし消すこともできるだろう


「というか、まず第一にカセス殿はなぜエルフの聖杯を盗った犯人にされたのだ? 普通に生きていれば、女なのだから何かされるわけでもあるまいし」


メランが口をはさんできた

さすが、ドラゴン族最強の黒龍は目の付け所が違う


「少し長くなりますが、大丈夫ですか?」


別にどうせ今日一日はこの街から出られないわけだし、特に今のところは大きな用事もない

話を聞くぐらい、大したことないだろう


「では、話しますね。 あれは私がまだ冒険者を目指していたころの話です。 私は昔から探求心が人よりも旺盛だといわれ何度も注意されました。 それでも冒険者になるという夢は諦めきれなかったんです。 それだけ私の決心は固かったから」


カセスはそこで一息ついて、言う


「ある日、私はあるものを探しに洞窟の中を散策していました。 そのあるものというのが、エルフの聖杯なんですけど」


エルフの聖杯を探してたんかーい


「で、でも別にとってはいけないものだってわかっていましたし、使ったらすぐ返すつもりでした。 エルフの聖杯の窃盗は絶対の禁忌ですから」


使う? エルフの聖杯ってどんな役割をしてるんだ?


「エルフの聖杯はアペイロンの五神器と呼ばれるうちの一つで、その聖杯に水を入れて飲むとどんな願いでも叶うといわれています」


そ、そんなすごいものなのか

そんな神器がこのアペイロンにはあるのか


「話を戻しますね。 私はそのエルフの聖杯を探していました。 その聖杯を使って何をしたかったのかは言えませんが、とにかく必要だったのです。 そしてついにエルフの聖杯がある場所にまでたどり着きました。 しかし、そこにはエルフの聖杯はありませんでした。 おそらく誰かが先に突き止めて持って行ったのでしょう」


なるほどな


「それを見て私は呆然としました。 長年探していたものが、誰かの手に渡っているのではないかという不安でその時は周りが見えていなかったのでしょう。 そこに運悪くエルフの聖杯の守人が現れ、私をエルフの聖杯を盗った犯人だと決めつけました。 まあ、そこにいた私も悪いのでこれは仕方ないかと思い、禁忌を破ったとして性紋により男にされ奴隷として扱われることになったんです」


長々と話したカセスは大きく息を吐いた

確かにカセスがいて、エルフの聖杯がなかったら疑われるのは仕方ないだろう


「長々と話して失礼しました。 いくら性転換の日だからと言っても私は禁忌を犯したとしてこうなっているわけですので、あまり勝手に行動ができないのです。 ちなみにカセスという名前は奴隷としての名前でして、本当の名前は別にあります」


本当の名前ね…… どんな名前なのか気になるが今はカセスのために動くだけだ

俺はあの時助けてもらった、一緒に頑張った恩返しをどうにかして今返したいと思った


「ということは、エルフの聖杯が見つかればカセスはもとの女の姿に戻れるし奴隷の身からも解放されるわけだ」


俺は静かにそう言った


「確かにそうですけれども、私のためにそんな危険を冒さなくても……」


「カセスは何も分かってない! いつも他人のことばかりで自分のことは後回し、そのせいで俺がどれだけ助けられたことか。 俺にもその恩返しを少しはさせてくれよ! 自分一人で抱え込むなよ! 苦しい時や辛いときはお互い助け合ってきた仲間(・・) じゃないか!」


俺はカセスの胸倉をつかみながら言った

その時、カセスの目から一粒の涙が零れ落ちた


「あ、れ? なんで私泣いてるの?」


「悲しいから、辛いからだよ。 いつまでも全部一人で抱え込むな。 時には誰かに頼ったっていいんだぞ」


俺は赤ん坊をあやすようにカセスを抱いた

俺はカセスが泣き止むまで、優しく抱いていた


「もう大丈夫です。 いろいろとすっきりした気がします」


「そうか、それはよかった。 で、これからどうするんだ?」


「ユウさん、私を助けてくれませんか?」


「やっと俺に助けを求めてくれたな。 もちろんだとも、君を助けない理由がない」


俺はカセスの疑いを晴らすため、エルフの聖杯を探すことにした

だが、何も手掛かりがなければ探しようがない


「ちなみにエルフの聖杯っていうのは、どこにあるんだ?」


「ここから東に進んだところに小さな穴があるんです。 その中を進んでいくと広い場所に出ます。 そこにあるという噂だったんですけども……」


「よし、分かった。 探してみるよ」


「よろしくお願いします」


カセスはぺこりと頭を下げた

カセスのためにも頑張らないとな


「とは言ったが、俺たちがこの街で自由に動けるのも今日限りなんだよな いつまでもぐずぐずはしてられないな」


そう、性転換の日は今日まで

明日になれば、俺たちは元の性別に戻ってしまう

特に俺と新人騎士は、男に戻ってしまうためこのエルフの街に長くいるのはまずくなってくる

急いで探さないと、あっという間に明日になってしまう


俺たちはカセスにいわれた通り東へ進むと案の定、人一人通れるくらいの穴が開いていた

確かこの中にエルフの聖杯があるといっていたが、そう簡単に見つかるようなものじゃないよな


穴の中を降りていくと、確かにそこには広い場所があった

だが、それ以外は何もない


「ユウ様! あそこに何者かがいます!」


メランがそう叫んだ

場所が広いからかよく響く

エルフの聖杯の守人か?


そいつは頭からすっぽりフードをかぶっていた


「あのー、ちょっとお話いいですか?」


俺はそのフードをかぶった人にエルフの聖杯の件について聞こうとした

だが、そのフードの人はすう―っとその場で消えたのだ

俺たちの後ろ以外に出口があるはずもなく、本当に物音ひとつ立てずに消えた


ふと、フードの人が消えたところに何かが落ちているのが見えた

何かのカードのようだが、書いてある文字がなぜか読めない

メランによるとこれは魔物文字らしい

メランが書いてある文字を読み上げると、俺たちの目の前に入り口が出現した

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